上司と部下の恋愛事情

朔弥

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番外編

海里の過去 2

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 海里は少しずつ話し始めた。
「自分の恋愛対象が同性だと気づいたのは中学だったかな···。最初は周りの友達と自分の感覚の違いに戸惑って周りに合わせていたけれど······自分の感情を誤魔化そうとすればするほど苦しくて──··親に打ち明けた」
 『打ち明けた』その言葉にトクンと真尋の心臓が大きく脈打つ。
「同性を好きであっても自分は何も変わらない。ただ···肯定して欲しかったんだろうね。自分らしく生きていけばいいって。でも返ってきた言葉は俺自身を否定するものだったよ·····。会社で常務の役職に就いていた彼にとって息子が同性愛者だなんて認めたくなかったんだろうね。お前は俺の息子じゃないってあっさり縁を切られたよ」
 まあ、息子は俺一人じゃなかったからね、と海里は何でもないように言い捨てた。
 2つ上の兄が海里にはいた。元々、優秀で両親から将来を期待されていた兄だけに、自分に向けられていた分の両親の関心が全て兄へ向けられるのに時間はかからなかった。
 彼等は兄だけを自分の子として扱い、家の中でも自分の存在を感じられる事はなかった。


 どこか他人事のように淡々と言う海里だが、高校性の彼が受けた心の傷は計り知れない。
 

 ── 俺から逃げないで


 海里が口にしていた言葉が脳裏に過ぎり、真尋は思わず海里を抱きしめた。
 また突き放され、拒絶されるあの失望を味わいたくない···そんな海里の願いが込められていたのだろう。
「真尋の家族が俺の両親とは違う···分かっているつもりなんだけれどね····」
 でも、と海里は真尋の肩口に埋めていた顔を離し、真尋の瞳を見つめながら言葉を続けた。
「真尋が俺と付き合っている事で両親に責められて···俺を選んだ事を後悔したら···」
「しないから!」
 真尋は怒ったように声を荒らげ、海里の言葉を遮った。
「後悔なんてしないし、海里から離れてなんかいかないよ···いつも海里にフォローされっぱなしだけど少しは俺を信じてよ···」
 涙をぐっと堪え、海里に信じて欲しいと強い眼差しで真尋は海里の瞳をじっと見つめた。
 その意志の強さに、海里はフッと表情を和らげた。
「家族の事はもう割り切ったと思っていたんだけどね···あの時のように失いたくない、そう思ったら思い出したみたいだ」
 海里は瞳を閉じ、真尋の腕の中に身を委ねた。
「真尋だけは······ずっと俺の側にいてくれる?」
「···いるよ···誰にも認められなくても俺だけは海里の側にいるから···」
 真尋の言葉を聞きながら、海里はそうか···て穏やかな笑みを浮かべた。
「もう少しだけ···待っていて······。今すぐには無理だけど···真尋の家族に会わせてくれる?」
「···い···いの?無理しなくても···」
「ああ····」
 頷きながら、海里は真尋を自分の方へと引き寄せるようにソファーへ倒れ込んだ。
「─ つ!」
 海里を抱きしめていた真尋は、背に回していた手で自分の躰を支える間もなく、そのまま海里の胸の上に重なるようにソファーの上に横になる。
「ちょっ···海里、横になるなら言ってよ···」
 思いきり体重をかけてしまい、真尋は起きあがろうと海里の横に手をついた。だが、躰を起こす前に背にまわされていた海里の腕が、自分から離れないで欲しいと更に強く抱きしめる。
「暫くこのまま···真尋を感じさせて···」
 海里の言葉に真尋は躰の力を抜き、彼の胸に自身を委ねた。
 真尋の存在を躰に感じ、海里は安心するように瞳を閉じた。
「······海里が安心できるまで、ずっとこのままいるよ···」
 抱きしめられている腕の強さの分、自分を求めてくれている事が嬉しくて真尋も海里の腕の中で穏やかな笑みを浮かべた。互いの鼓動を感じる事に幸せを感じる。
 抱きしめていた海里の腕がゆっくりと腰の方へと移動し始め、服の中へと忍込み肌に指先が触れた。
「か···いり?」
 ゆったりとした気分で海里の体温に包まれていたまはぴくんと反応する。
「もっと真尋を感じたくなったんだけど······駄目?」
 腰の辺りを指先でなぞりながら海里は甘えるように問いかけた。
 普段なら真尋が抗えないように攻めながら、自分からして欲しいと強請るように仕向けるのだが、今日は珍しく真尋の意思を尊重する問いかけだ。
 らしくない海里の言葉に思わず真尋は苦笑を洩らす。
「遠慮してる?···だったら今日は······」
 海里から絶対に離れたりしない。その意思を伝える為にも拒絶は絶対にしてはいけないと、真尋は感じていた。
 だからこそ、今日だけは自分から海里を求めるように手を伸ばす。
「俺からしてあげようか?」
 スラックスの上から撫でるように海里の半身に触れた。
 海里は返事の変わりに真尋の頭部に手を伸ばし、自分の顔へ引き寄せると唇に口づけた。
「んっ·········」
 口腔内に海里の舌が入り込み、真尋の舌を絡めるように動き深い口づけが繰り返される。


 漸く唇が離された時には真尋の呼吸は乱れていた。
「キスだけでそんなに乱れているのに?」
 海里の口元にいつもの少し悪戯っぽい笑みが戻っていた。
「···できる···よ」
 せっかくしてあげようと思ったのに、もういつもの調子を取り戻し始めてしまった海里に真尋は少しむっ···と不貞腐れる。
 そんな真尋の態度も可愛い···と思いながら海里は指先で真尋の横髪を梳くように撫でた。そして、「じゃあ······」と唇を開き、


 ── シテくれる?


 声には出さず、唇の動きだけで真尋に伝えた。






─────────────────────


 番外編の「側にいて」の時に少し覗かせていた海里の心情に繋がる話しを今回書きました。誰かが側にいてくれる事の温かさを強く感じていたのは海里の家族関係から···というのをその時に含んで書きたかったのですが···そんな腕もなく(-_-;)


 エールを押して下さりありがとうございます!
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