上司と部下の恋愛事情

朔弥

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番外編

料理中··· 1

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「俺も少し料理覚えようかなぁ···」
 キッチンで軽やかに包丁の音を立てながら野菜を刻む海里の姿をリビングのソファーに座って眺めていた真尋はぽつりと小さく呟いた。
「どうしたの?急に···」
 真尋の呟きが耳に届いた海里は手を止め、少し驚いたように視線を真尋に向ける。
 以前、体調を崩した時にお粥を作ってくれたが、その時のキッチンの惨状は一人暮らしをしていた時は調理器具さえ無くコンビニ等で買って済ませていたと言っていただけあって、料理が少し苦手だ···というレベルではなかった事を海里は思い出していた。
「···いや···だって···海里の方が仕事忙しい日が多いのにさ······」
 自分も残業で帰宅時間が遅い日もあるが、海里はそれ以上に社に残って仕事をしている。それなのに、真尋が先に帰っても食事が出来るように冷蔵庫に作り置きがされ、どんなに遅く帰って来た日でも真尋が起きてリビングに行くと既に朝食が準備されている。一体、いつ休んでいるのだろうか···と思うほどだ。
「心配しなくて大丈夫だよ···好きでやっている事だし。真尋が美味しそうに食べてくれる姿見てるだけで幸せだしね···。それに、本当に忙しい時は手も抜いてるから。······だから···何ていうか···真尋の気持ちだけで···」
 最後の方は視線を逸らし、言葉を濁す海里の様子に真尋は目を細め探るように視線を送る。
「······海里、今もしかして酷い状態のキッチンが思い浮かんでんじゃ···」
「いや···嬉しい···けど俺が作った方が早い···からね」
 真尋の言葉に乾いた笑いで返す海里の脳裏には、真尋の言うように風邪で寝込んだあの日、料理の苦手な真尋が奮闘した事の分かるキッチンの惨状が鮮明に蘇っていた。
 やんわりと作らなくていいと言っている海里に真尋はムッと不機嫌そうに表情を曇らせる。
「あのなぁ···俺だってちゃんと教えてもらいながらだったら出来るって」
 あれはひとりでスマホを見ながらだったからだ。直に教えてもらいながら作るのであれば酷い失敗なんてするはずがない。·········多分。
 多少の自信の無さはあったが、真尋はソファーから立ち上がり海里に近づくと手を差し出した。
「ほら···包丁貸せよ」
「あ···いや···」
 戸惑っている海里の手から半ば強引に包丁を奪い取った。
「これ···切ればいいのか?」
 切りかけの玉ねぎを見ながら真尋は問いかける。
「ああ···」
 頷く海里の声には「本当に料理するつもりなの?」と不安が混じっていた。
 海里の不安には気づいていたが、気にせず真尋は切りかけの玉ねぎと向き合う。
 包丁なんて学生の頃に調理実習で握ったくらいだが、まあ···多少、不格好に切り刻んでも海里がついているのだから、なんとか形にはしてくれるだろう。


 危なっかしい手つきではあるが、ゆっくりと包丁で玉ねぎを切り始めた真尋の後ろ姿を海里はじっと見つめていたが、その背後からそっと腰から前へ腕を回し優しく抱きしめた。
 瞳を軽く閉じ額を真尋の肩口にコツンと乗せる。
「ほんと···真尋は優しいね······」
「···海里?」
「誰かが俺の事を想いながら何かしてくれるのって···こんなに温かくて···嬉しい事だっただなんて忘れてたよ···」
 誰も見向きもしなくなったあの日の自分の姿が瞼の裏に映る。
「······教えてくれれば···これからは俺だって海里に作るから···まあ、簡単な料理ものしか作れないだろうけど」
 あと、後片付けも大変かもな、と真尋は自分の料理の腕を思い出し苦笑混じりに言う。
「そうだね、教えるのは大変そうだ」
 真尋の笑いにつられるように海里も、ふふっと笑みを零した。
 先ほどまで思い出していた過去の自分の姿はいつの間にか消え、真尋の少し照れているような笑みを眩しそうに後ろから見つめていた。



 ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇



「···あのさ、海里······いつまでそうしてんの?」
 おぼつかない手つきで包丁を扱いながら、背後から腰に抱きつかれたままの海里が気になり問いかけた。
「近くにいた方が教えやすい···から?」
 語尾に疑問符がついている。
 取ってつけたような言い方に、今考えただろ···と呆れた表情でチラリと海里に視線を向ける。
「そんなにくっついていなくたって教えれるだろ···それに···」
 抱きしめられ包み込まれていると感じる海里の温もりや首筋にかかる海里の吐息が気になり、先程から包丁の先に集中出来ないでいる。他に気を取られながら包丁を扱える程の腕などないのだから、この体勢は困る。そう言いかけた言葉を濁し、真尋はフイッと顔を前に戻した。
 自分だけが変に意識していると知られるのは恥ずかしい。


 真尋が意識している事に気づいた海里は可愛い恋人の態度にくすりと笑みを零した。それと同時に、もっと彼の可愛い姿が見たくなる···と真尋を見つめる瞳に欲情の光が宿る。
「どうかした?そんな持ち方じゃ危ないよ···」
 耳元で囁やきながら海里は包丁を握る手に自分の手を重ねた。
「ちょっ···」
 益々、躰を密着させてくる海里に真尋は焦った声を上げた。普通に教えるつもりがない気配を感じ取った真尋はとっさに海里の腕から逃げようとした。だが、海里は包丁に添えた手とは逆な腰に回していた腕で真尋の腰を抱え込み捕らえる。
「包丁握っているんだから暴れないで─··」
 怪我するよ?と、たしなめるように言う海里の声は少し吐息混じりで、ベッドの中で囁やく時のように深みがあった。
 思わず自分を抱く時に見せる熱っぽい瞳を思い出してしまい、頬を紅潮させ躰の動きが止まる。
「そんなに顔を赤くして···何を思い出したの?」
 真尋の反応に海里は口角を僅かに上げる。真尋が何を思い出したのか、確信している笑みだ。
「危ないから暴れないでって···言っただけなのにね···」
 腰を抱きしめていた海里の左手がシャツの上から脇腹を撫でるように動く。
「りょ···り···教えてくれるって···」
 海里の手の動きを気にしながら真尋は後ろにいる海里に顔を向けた。
「ちゃんと包丁の持ち方から教えているのに、違う事を考えているのは真尋だよね?」
「なっ···」
 自分は普通に教えているだけなのに真尋そっちが勝手にえっちな事を考えているんでしょ?と言われた真尋はあまりの言い種に一瞬、言葉を失くす。だが、すぐにムッとした表情で言い返した。
「考えてなんかっ·····海里の方こそ変な手つきで触ってきて···エロい事考えてんのはそっち─··」
 文句を言う真尋の唇を海里は口づけで塞いだ。
「んんっ!」
 突然の口づけに真尋は海里の躰を押し退けようとしたが、手に包丁を握ったままである事に気づき行動に移す事をやめた。
 その間に海里の舌が真尋の唇の間から入り込み、口腔内を弄るように深く口づける。
「んっ·····か···い······んうっ·······」
 危ないから一度離して···そう言いたいが海里の唇が許してくれない。
「···まっ···んんっ···聞いて······っつ···かい···」
 角度を変えながら口づける合間に、言葉を紡ごうと懸命に喘ぐように声をあげた。だが、海里の舌が言葉毎、一緒に絡めとられてしまう。
 口腔内の柔らかな粘膜や上顎を舐めるように動く海里の舌が真尋の性感帯を刺激し、腰に甘い痺れが何度も走り抜けていく。喉の奥まで海里の舌に蹂躙され、真尋の躰からは次第に抵抗の力が抜けていった。




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 久しぶりすぎる更新で···忘れられちゃいそうですがまだ書いております(^_^;)
 お気に入りを解除せずいて下さり感謝です(>_<)


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