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16.旅に出る準備をする(5月3日)

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『転移魔法!?』

アイダとイザベルが揃って驚きの声を上げる。

「カズヤ殿は転移魔法が使えるのですか!?」

「転移魔法って、一度行ったことのある場所に自由に行き来できるって魔法だよね!?」

「ああ、一応そういう魔法が使えるらしい。2人を助けた時の洞窟への往復は、その魔法を使ったからな」

「私の遠見魔法の効果をアイダがカズヤさんに譲渡して、カズヤさんが転移魔法を発現させれば……」

「アリシアが行ったことのある場所に、俺が扉を開けるはず…だな」

「それなら野宿をしながら一週間旅をしなくても、一瞬でアルカンダラに行けますね!」

3人が喜んでいる。

どうやらアルカンダラまでは一週間もかかるらしい。
江戸時代の宿場町はおよそ30~50km置きに栄えていたらしいから、人間が一日に歩ける距離は概ねそれぐらいだ。
とすれば、アルカンダラまではだいたい200kmほどか。

「いや、しかしそんな楽をしてアルカンダラに帰っていいのだろうか。この調査は私達の修行の意味もあったはずだ。帰りの道中を楽をしたとあっては修行の意味がないし、何より亡くなった3人に申し訳が立たないのでは……」

「もう!アイダちゃんは頭が堅いなあ!いいじゃん楽に安全に帰れるんだったら!ねえアリシアちゃん!」

「ええと…私はアイダちゃんの言うこともイザベルちゃんの言うこともわかる……かな」

アリシアがオドオドしている。
仕方ないな。

「アイダ、イザベル。それならこうしたらどうだ?アイダが言う通り、まずは自力で帰ることを試みる。万が一、命の危険に直面したり、自力で帰れそうになくなったら、転移魔法で一旦この家まで戻って、そこからアリシアとイザベルの固有魔法でアルカンダラに転移する。これなら帰り道を楽したことにはならないし、危険も少ないんじゃないか?」

「そうですね!そうしましょう!もちろんカズヤさんも付いてきてくれるんですよね!?」

アリシアが手を叩いて賛同する。

「まあお兄ちゃんがそういうなら?お兄ちゃんの顔も立てないといけないし?というかお兄ちゃんと旅ができるなら、それでいいし」

「私もカズヤ殿が付いてきてくれるなら、それでいいです」

「じゃあ決まりですね!早速準備を……ってあれ?準備することありましたっけ??」

たくさんあるぞ!?


とりあえず3人の服を準備しなくてはいけない。

救出した時に身に纏っていたボロ布は、流石に処分した。今3人が着ているのはTシャツに短パンだが、まさかこの服で旅をさせるわけにはいかないだろう。

俺はBDUでいいとして…流石にあと3着も同じ服はない。

3人を寝室に連れて行き、旅が出来そうな服を選ばせる。

結局3人が選んだのは、アイダが俺が着ているフレック迷彩の砂漠仕様のBDU、アリシアは昨日も着ていた濃紺のBDU、イザベルはタイフォン迷彩のカーゴパンツに、袖がタイフォン迷彩で胴体部が黒いジップアップだった。

それぞれに着替え用の上下を1着づつ追加で選ばせる。下着はボクサーパンツとTシャツを2枚づつ。靴下にタオル、シュラフとエアマット。30ヤードのパラコードとサバイバルキット。500mlの水のペットボトルに携行食料。

それぞれの服に合わせたミリタリーリュックに収納魔法を付与して、荷物を詰めていく。
重さを感じなくなる利点を生かして、2ℓの水のペットボトルも1本づつ追加する。

テントは2人用が2張あった。
1張は俺の荷物に、もう1張はアイダの荷物に入れる。

あとは家にある必要そうな物を、娘たちに選ばせる。
アリシアは鍋やら皿、包丁やまな板といった調理器具を選んでいる。
アイダはゴブリンから回収した武器の中から、予備の剣や槍、弓矢を選んでそれぞれのリュックに放り込んでいる。
イザベルは……二人の間をうろうろしているだけに見えるが、時折お菓子やら食材を運んでいるから、ちゃんとお手伝いはしているのだろう。
というか、アルカンダラに着いて別れる前に、ちゃんと返せよお前ら……

まあこの子達は同じ道のりをやってきたのだ。なんとかなるだろう。

問題は俺だ。
野宿そのものは何度も経験しているし、釣った魚のみでの食事なんてのも平気だ。
釣りか……フライフィッシングのセットは持って行こう。
問題は俺の武装だ。

アリシア達が奮戦の末に仲間の半数を失い、本人達もあと一歩のところで命を失う事になるような世界を最低7日間生き抜かなければならない。
24時間耐久サバイバルゲームに参加したことはあるが、それどころの話ではない。

数日前の耐ゴブリン戦の感覚では、BB弾は足りそうだ。

バッテリーの充電はアウトドア用の折り畳み式ソーラーパネルに蓄電池を繋ぎ、DC/ACコンバーターを介して商用電源を取り出してから充電するしかないか。ああ……こんなことなら蓄電池から直接充電できるようにアダプターを作っておけばよかった。
俺が背負うミリタリーリュックの背面にソーラーパネルを取り付け、繋いだ蓄電池をリュックに収納する。
これで日中に充電した蓄電池から、夜間にエアガンのバッテリーを充電できるはずだ。
なるべく日向を選んで歩かないといけないな……

あとは、USPハンドガンをヒップホルスターに、M93Rをレッグホルスターに収納し、G36Cを持てばいい。
G36VとPSG-1、MP5A2とMP5Kはリュックに収納した。

当然BB弾の予備とマガジン、予備バッテリーやらフラッシュライトもリュックに放り込む。
一応偵察用にドローン2種類と送信機も持って行く。
そういえば透明の水晶のようになってしまった杭状の魔石のことを相談するのを忘れていた。
これも鑑定してもらえばいいか。

「準備は終わったか?」

「はい!大丈夫です!」

「最後に確認だが、本当に今から出発するのか?昨日救出したばかりだし、もっとゆっくり休んでいいんだぞ?」

「いや、大丈夫だ。昨夜アリシアが何度も治癒魔法を掛けてくれたようだし、身体はピンピンしている。それよりも早く遺品を届けたい」

アイダが力強く答える。どうやら空元気というわけではないらしい。
まあ、危なくなれば直ぐに戻ってくればいいのだが。

「それじゃあ靴を履こう。そろそろ出発だ」

「はい!」

玄関の先で整列した娘たちの頭に帽子を乗せていく。

アリシアは濃紺のBDUに黒いニーパッドを装着し、黒の編み上げブーツに濃紺の作業帽キャップ、黒いリュックを背負っている。手にはナックルガード付きグローブをはめ、背丈ほどの短槍と刃渡り30センチほどの短剣を装備。この短槍は武器というより魔法を発動させる際の杖の役割が強いらしい。

アイダは砂漠迷彩のBDUに茶色のニーパッドとエルボーパッド。カーキ色の編み上げブーツに砂漠迷彩のブーニーハット。カーキ色のリュックを背負った。手には同系色のナックルガード付きグローブ。左手に丸盾を装備し、腰に刃渡り70センチほどの細身の直剣を差している。直剣を左に差したから、短剣は右腰に装備していた。

イザベルはタイフォン迷彩の上下に黒っぽいハイキングシューズ。同じ柄の作業帽キャップに黒っぽいヒップバッグ。一番荷物の量が少なそうだが、そのバッグの中に大量の食材を入れていたのは、みんな知っている。
イザベルがヒップバッグを選択したのは背中に矢筒を背負うためだ。手には指抜きのレザーグローブ、左手に弓を持ち、ヒップバッグと腰の間に小振りの短剣を差している。

「準備できました!いつでも出発できます!」

アリシアが報告してくれる。魔法の腕はあんまりと自己評価していたが、アリシアはいいまとめ役になってたのだろう。

最後に、ゴブリン達が持っていた硬貨を四等分してジップロックに入れたものを、それぞれに渡してポケットに入れさせる。

玄関の鍵を掛け、鍵をBDUの胸ポケットに収納する。こういったポケットにも収納魔法が行使できるから、実はリュック以外にも予備マガジンやバッテリーはBDUのポケットにも収納している。
やっぱりリスクは分散しないとな。

「よし、じゃあアリシア、結界防壁を頼む」

「はい!お任せください!!」

白っぽい結界が自宅を包んだのを確認して、門を出る。
太陽の位置は中天を少し回っている。急がないと日暮れまでに北の森を抜けられない。

「じゃあ行くか!それで、アルカンダラはここから北の方角でいいんだよな?」

『はい!こっちです!』

3人が自信満々に指差すが、アリシアだけが真逆を指していた。
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