妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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篩編

第十四話 戦闘3

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 空を飛んでいた妖精王はゆっくりと大地に降り立ち、木霊やブラム達を背に庇うかのようにこちらを睨みつけた。

「何故、木霊が攻撃を受けている。この惨状はどういう事だ」

 不機嫌そうな妖精王の問いに、アーロンは眩暈がする思いで口を開いた。

「申し訳ありません。妖精を魔物と主張する者から襲撃を受けました」
「………」

 アーロンの言葉に、妖精王の眉間に皺が寄る。

「何処のどいつだ、そんな事をした愚か者は」

 不機嫌さが滲み出た低い声に、アーロンは襲撃の扇動者であり、主犯であるセリーナへ視線を向ける。
 視線を向けた先のセリーナは、驚きと悔しさ、そして嫌悪感を前面に出して妖精王を見ていた。

「それが、魔物の王ですか」
「……何だ、あの頭の悪い女は」

 セリーナの言葉に、妖精王が眉をひそめて呟いた。
 その呟きを聞いたテオが思わず吹き出し、チラリ、と妖精王から一瞥を貰ったが、直ぐに逸らされた視線に安堵の息を吐いた。
 そして、その呟きが聞こえなかったセリーナは、朗々と舞台の台詞を読み上げるかの様に告げる。

「お前が妖精を神の使いの様に偽り、人心を惑わした魔物の王ですね」
「お前、気持ち悪いな」

 妖精王はセリーナの台詞に一切触れず、端的にセリーナへの感想を告げた。
 厳かで、決意に満ちた、真剣な顔をしていたセリーナの表情が引きつる。

「お前、聞いて――」
「確か、アーロンだったな。どうするんだ、お前。この騒ぎ、女神様はご存知だぞ」

 セリーナの言葉を遮り、妖精王が告げた言葉はとんでもない物だった。

「本当に、どうするんだ。女神様は本当に人族に興味を無くし始めているんだぞ。人族は、どうしてこんな愛想をつかされる様な事をするんだ」

 誰に言うでもなく、ただ嘆くかの様に溢された言葉に、アーロンだけでなく、その場に居た人々は絶句する。
 しかし、その静寂を切り裂いたのは、事の主犯たるセリーナだった。眼中にないとばかりの態度に業を煮やしたのか、金切り声を上げた。

「魔物如きが、女神様のご意志を騙るな! <<光の刃!>>」

 突然放たれた魔法にアーロンは妖精王を守るべく飛び出そうとするが、距離に無理があり、間に合うはずも無かった。
 脳裏に先程のサイラスの姿がよぎる。しかし、妖精王がそんな姿になる事は無かった。

――ズ、ダァァァァン!

 妖精王は持っていた王笏を一閃しただけで、その魔法を打ち払ったのだ。
 驚愕に目を見開くセリーナを睥睨するかの様に見下すと、セリーナの方へ改めて向き直り、言う。

「本当に、腹立たしい……」

 凍り付くような、冷たい怒りがその瞳に渦を巻いていた。
 王笏をセリーナに向け、口を開く。

「<<――氷の散弾アイス・ショット――>>」

 一瞬で鋭く尖った幾つもの氷の粒が妖精王の前に出現し、それは回転を加えて破壊力を増してセリーナに襲い掛かった。

――ズギャギャギャギャギャ‼

 セリーナは直ぐに障壁を展開するが、氷の弾が障壁を削り、罅を入れた。しかし、割ることは出来ず、先に氷の弾が尽きた。
 セリーナは口元に笑みを浮かべながら言う。

「あら、惜しかったですわね。もう少し頑張れば障壁が壊れたかもしれませんでしたのに。けど、残念。ほら――」

 元通り、と笑んでセリーナが再び障壁を展開した。
 障壁には罅どころか傷も無く、魔力がある限り障壁は最良の状態で張り直せるのだと知れた。
 それを見た妖精王は面倒臭そうに溜息を吐き、口を開いた。

「<<――緑の拘束グリーン・バインド――>>」

 セリーナの足元から植物の蔓が生え、そのまま蔓を伸ばしてセリーナを拘束しようとする。しかし、そセリーナは既に障壁を張っており、蔓は障壁に阻まれ、障壁の周りに巻き付くだけで、セリーナに届かなかった。
 セリーナはその様子に、歪んだ微笑みを浮かべて馬鹿にした様に告げる。

「あらあら、無駄な事を。魔物の王の力もこの程度ですか。他愛も無いものですね」

 しかし、妖精王は対して気にした様子もなく、淡々と告げる。

「衝撃に備えるが良い。事は一瞬だ」
「何を――」

 妖精王の言葉にセリーナが眉をひそめたその時だった。

――バリィィ…ン!

 障壁が砕けたのだ。
蔓が一瞬で、万力の力でもって障壁を絞め砕いたのである。
 セリーナは驚きに目を見開き、妖精王の言う通り、そのまま一瞬で蔓に捕らえられてしまった。

「く、この……!」

 セリーナは藻掻くが、当然その拘束が解かれる筈も、緩む筈も無く、むしろ藻掻けば藻掻く程拘束が強くなり、問答無用に締め付けてくる。

「ぐ……」

 セリーナは藻掻くのを止め、悔し気に口を開く。

「<<星を巡る風よ――>>」
「ああ、魔法か。厄介だな」

 呪文を紡ぎ出したセリーナに、妖精王は人差し指をセリーナに向け、紡ぐ。

「<<禁忌を犯す者よ、ここに罪人の証を刻む――黒薔薇の戒め――>>」

 妖精王の詠唱が終わると同時に小さな黒い球体が現れ、それはセリーナの額に撃ち込まれた。
 撃ち込まれた反動で仰け反り、その後は崩れる様にセリーナの身体から力が抜け、蔓の戒めによって無理やり立たされる状態になる。
 それにより、セリーナは死んだのだと人々は思ったが、セリーナの口から漏れた呻き声により、その考えは直ぐに否定された。
 
「う…ぐ……ああああああああっ‼」

 跳ね起き、海老反りになって悲鳴を上げるセリーナの額が、うぞり、と蠢いた。
そして、その額から、ずるり、と黒い芽が発芽した。
 それはずるずると蔓を伸ばし、黒い葉をつけ、セリーナの頭に冠状に這う。そして、最後には蕾を付け、黒い薔薇の花を咲かせた。

「はっ…、はっ…、う、あ……」

 荒い息を吐くセリーナを嫌そうに見つつ、妖精王が王笏を翳すと、蔓の根元の方が切れた。セリーナは支えを失い、蔓に拘束されたまま地面に倒れる。

「おい、この女はお前達にとって罪人か?」
「あ、はい。もちろん、重罪になるかと……」

 セリーナと妖精王の攻防に、そして、あれ程手こずったセリーナの有様を見て唖然としていたアーロンは、妖精王の問いに慌てて頷いた。

「では、人族の法で裁くが良い。怪我人は居るか?」

 そう問われ、弾かれた様に顔を上げ、駆け出したのはブラムだった。

「サイラス!」

 そう。怪我人は居る。しかし、一番重傷なのはブラムの執事であるサイラスだろう。
 いつの間にか解けていた結界の向こうへ、サイラスが倒れている崩れた建物へ入り、ブラムがサイラスを探す。

「サイラス、何処だ!?」

 程なくしてサイラスは見つかった。運良く瓦礫に埋まってはいなかったが、意識は無く、出血が酷かった。

「サイラス……」

 傷口を縛るなどして応急手当をし、周囲に集まって来た人々の手を借り、サイラスを建物の外へと運び出す。しかし、意識は戻らない。
 テオも駆けつけ、サイラスを心配そうに見ていると、周囲の人々が騒めき、その場を離れて行った。
 何事かと顔を上げれば、其処には妖精王が居た。

「怪我人か?」
「あ、ああ……。そうですが……」

 ブラムの警戒しながらの答えに、妖精王は頷き、王笏を向けた。

「<<癒したまえ――女神の涙ルミナス・ヒール――>>」

 キラキラと天上から光が振って来て、優しい光がサイラスを包んだ。
 そうすると、何という事だろう。サイラスの怪我が癒えて行くのだ。ブラムは目を剥き、テオはポカン、と口を開いた。
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