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第二章 特別な花
52,突然の……
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※
ジャスティン先生とレイが話している間、俺はフレアとスタジオの外で暇を持て余していた。
今日は生憎の空で、今にも雨が降ってきそうな雰囲気だ。
「レイって本当に良い子ね」
「ああ、そうだろ?」
俺が当然のように頷くと、フレアはフッと笑う。しかしいつもとは違い、どこか寂しい笑みに見えるのは気のせいか。
「あんなに可愛い子ならヒルスが夢中になるのも無理ないわね」
「夢中になるって? どういう意味だよ」
フレアは何を勘違いしているのか。世間からみればあくまで俺とレイは兄妹だ。
思わず俺は首を傾げる。
「ヒルスはいつも彼女を一番に考えているもの。その理由があの子に会ってみてなんとなく分かったわ」
そこまで言うとフレアは口ごもってしまう。いつもハキハキ話すフレアが珍しい、何か思い込むように無表情になってしまった。
「フレア、どうした?」
「あの日……。ヒルスは、彼女が見つからないときに電話の向こうで泣いていたわね」
「いや」
「否定したってバレてるから」
「……」
顔から火が出そうになるほど恥ずかしかった。今更ぶり返さないでほしい。俺はオーバーに首を横に振る。
「あのときは極限状態だったんだよ」
「でしょうね。ヒルスがあそこまで弱音を吐くなんて初めてだから、ちょっとびっくりしちゃった。あなたにそこまで想われているレイが羨ましいわ」
「何が羨ましいんだよ?」
俺が頭に疑問符を浮かべていると、フレアは途端に目を逸らす。なんだか様子がおかしい。
「もしも……もしもの話よ。わたしがあの子みたいに突然行方不明になったら、ヒルスはどうするのかな」
「はっ?」
「この前みたいに必死になって捜し回ってくれるのかな」
フレアの質問に、俺は戸惑いを隠せない。いまいち何を聞かれているのか理解ができなかった。
両腕を組み、よく考えてから答える。
「そりゃ、いきなりいなくなったら心配するだろ」
「見つかるまで捜してくれるの?」
「フレアはスタジオで一緒に働く仲間だからな」
知り合いや友人がいなくなったら誰だって心配するに決まっている。らしくない質問に俺は今も困惑しているんだ。
フレアの顔をそっと覗き込む。
「さっきから変だな。どうしたんだよ」
「……うん。変よね。わたし、あなたのことを考えると、最近おかしくなるのよ」
「え?」
「ヒルスがレイを心から大事に想っているのは知ってる。でもね、わたし、そんなあなたのことが好きなの」
「……すきって? それは、どういう意味だ」
「そのままの意味」
フレアはまた優しい表情に戻り、顔をうんと近づけてきた。吐息がかかるほどの、近距離。
胸がドクンと鳴った。
すると、フレアは突然──俺の口元に唇を重ねてきたんだ。あたたかくて柔らかい感触に、思わず固まってしまう。
「……わたしの気持ち、伝わった?」
何も言えない。答えられない。ただただ呆然としてしまう。
こんな俺を眺めながら、フレアはクスっと笑うんだ。サッと背中を向けて手を振った。
「先に帰るね。また明日!」
走り去る彼女の後ろ姿を、俺はいつまでも見つめていた。唇に手を当てると柔らかい感触がまだ残っている──そんな気がした。
(……俺、今、キスされたか?)
頭だけは、今の状況がどういうことなのかまだ把握できない。
『わたしの気持ち、伝わった?』
フレアはたしかにそう言った。戸惑いと驚きの文字が錯乱してどうにも止まらない。
夕陽に照らされる俺の顔は、とんでもなく熱くなっていたんだ。
ジャスティン先生とレイが話している間、俺はフレアとスタジオの外で暇を持て余していた。
今日は生憎の空で、今にも雨が降ってきそうな雰囲気だ。
「レイって本当に良い子ね」
「ああ、そうだろ?」
俺が当然のように頷くと、フレアはフッと笑う。しかしいつもとは違い、どこか寂しい笑みに見えるのは気のせいか。
「あんなに可愛い子ならヒルスが夢中になるのも無理ないわね」
「夢中になるって? どういう意味だよ」
フレアは何を勘違いしているのか。世間からみればあくまで俺とレイは兄妹だ。
思わず俺は首を傾げる。
「ヒルスはいつも彼女を一番に考えているもの。その理由があの子に会ってみてなんとなく分かったわ」
そこまで言うとフレアは口ごもってしまう。いつもハキハキ話すフレアが珍しい、何か思い込むように無表情になってしまった。
「フレア、どうした?」
「あの日……。ヒルスは、彼女が見つからないときに電話の向こうで泣いていたわね」
「いや」
「否定したってバレてるから」
「……」
顔から火が出そうになるほど恥ずかしかった。今更ぶり返さないでほしい。俺はオーバーに首を横に振る。
「あのときは極限状態だったんだよ」
「でしょうね。ヒルスがあそこまで弱音を吐くなんて初めてだから、ちょっとびっくりしちゃった。あなたにそこまで想われているレイが羨ましいわ」
「何が羨ましいんだよ?」
俺が頭に疑問符を浮かべていると、フレアは途端に目を逸らす。なんだか様子がおかしい。
「もしも……もしもの話よ。わたしがあの子みたいに突然行方不明になったら、ヒルスはどうするのかな」
「はっ?」
「この前みたいに必死になって捜し回ってくれるのかな」
フレアの質問に、俺は戸惑いを隠せない。いまいち何を聞かれているのか理解ができなかった。
両腕を組み、よく考えてから答える。
「そりゃ、いきなりいなくなったら心配するだろ」
「見つかるまで捜してくれるの?」
「フレアはスタジオで一緒に働く仲間だからな」
知り合いや友人がいなくなったら誰だって心配するに決まっている。らしくない質問に俺は今も困惑しているんだ。
フレアの顔をそっと覗き込む。
「さっきから変だな。どうしたんだよ」
「……うん。変よね。わたし、あなたのことを考えると、最近おかしくなるのよ」
「え?」
「ヒルスがレイを心から大事に想っているのは知ってる。でもね、わたし、そんなあなたのことが好きなの」
「……すきって? それは、どういう意味だ」
「そのままの意味」
フレアはまた優しい表情に戻り、顔をうんと近づけてきた。吐息がかかるほどの、近距離。
胸がドクンと鳴った。
すると、フレアは突然──俺の口元に唇を重ねてきたんだ。あたたかくて柔らかい感触に、思わず固まってしまう。
「……わたしの気持ち、伝わった?」
何も言えない。答えられない。ただただ呆然としてしまう。
こんな俺を眺めながら、フレアはクスっと笑うんだ。サッと背中を向けて手を振った。
「先に帰るね。また明日!」
走り去る彼女の後ろ姿を、俺はいつまでも見つめていた。唇に手を当てると柔らかい感触がまだ残っている──そんな気がした。
(……俺、今、キスされたか?)
頭だけは、今の状況がどういうことなのかまだ把握できない。
『わたしの気持ち、伝わった?』
フレアはたしかにそう言った。戸惑いと驚きの文字が錯乱してどうにも止まらない。
夕陽に照らされる俺の顔は、とんでもなく熱くなっていたんだ。
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