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一章 - 満開のアキツベル公爵領 -
19.
しおりを挟むちなみに、クレアが目に入るところに残っていれば、オークソードがどんどん興奮状態を続けてくれるところも丁度良い相手だったと言えるのかもしれない。
ちなみに因みに、オルフィリアスの世界では、ある程度の経験値を蓄積した魔物は一時間から数時間、長い個体でも一日ほど進化繭に籠もり上位種へ生まれ変わることがある。
初めてオークからオークソードへ進化する場合は、二時間とそれほど時間は掛からないし、もの凄く上位へ進化しているという感じでもないだろう。専用の武器などを手に入れる変化くらいだから、冒険者ギルドでもノーマルなオークと同じでDランクが太刀打ちできるとされている。それでも、破れた布切れらしき腰巻きだけのオークから、背中へ斜め掛けする鞘付きの片手剣を手に入れるので厄介なのは間違いない。
その他は素足に汚い腰巻きだけで、隠された部分の反応、膨張が分かっちゃう難点は変わらない。
「ところで、遭遇した魔物はオークの二体だけだった、で間違いない?」
情報収集に接近したことを思い出したケヴィンが、柔らかな口調で個体数の確認を取る。
「ええ、見付けたときに僕が《索敵》を使いましたし、そのあとも反応は増えませんでしたよ。一応、往来の邪魔をするつもりはなかったんですけど、こんなに街道まで近付いていたことには気付いてなかったもので……、さっさとあれを斃した方が良いですかね?」
停止中の公爵家御一行へちらりと視線を向けたアキトが、意図的に邪魔したわけではなかったんですと主張した。
「ああ、まぁ……、問題が無いならそう報告すれば良いんだけど、今斃してくれた方が助かるは助かる、かな? 練習していたとか伝えるより説明が楽になるし!」
「なるほど、そういうことなら」
ジャックの返事に頷いて、腰の鉄剣を抜きながら振り返ったアキトがタイミングを狙い始める。
「サファ~、そいつはもう斃しちゃうから、合わせてねぇ~……。……行くよっ!」
「くまっ!」
そう合図して一歩を踏み出したアキトに、狙いを悟ったサファが魔法の盾を消して屈み、敵の視界から外れようとそれまで以上の速度で後方へ飛んだ。そのまま、ごろごろと後転しながらクレアの足元まで辿り着くと、スチャッと両腕を開いてポーズを決めて止まる。
当たり前になっていた反発が無かったことで、オークソードは力一杯振り下ろしていた剣で地面を強打し、バランスを崩して完全に敵影を見失う。
何とか手放さなかったところで、右腕を引き戻そうと力を込めるも剣が動かない。慌てて顔を向けると、自身の剣の中程を踏み押さえる人間の左足。肌が粟立つような感覚に、視線を流していけばふわりと広がる栗皮色の髪の毛と自らに振り下ろされるはずの簡素な片手剣。
恐怖や気負いをまるで感じない人間の表情に、欲望が消えていくことを知る。
「ふっ」
軽く吐き出された息に、アキトが握る魔力を纏わせ淡く輝く鉄剣は、オークソードの左肩から入り右太股へ一直線に抜けていった。
絶望の表情を浮かべた魔物はそのまま動かなくなり、ライフポイントが尽きたことを示すように真っ直ぐな切断面から光の粒となりはらはらと解けていく。
ちなみに、攻撃を受けること、ライフポイントが減らされることを極端に怖がっていたはずのアキトは、鬼教官との訓練中『あれ? 俺って普段の方が痛い思いをしていないか……?』と魔物の通常攻撃の方が何だかマシなことに気が付いてしまった。多少の反撃なら躱せるようになったこともあり、物理攻撃を交ぜる立ち回りを選べるようになった。
戦闘狂の容赦ない日常訓練が、ほいほいと恐れずに敵へ向かっていく新たな脳筋を生み出してしまったと言えるのかもしれない。
「スゲェ、っすよね?」
「ああ……、信じられんくらいに、な」
静から動へ、一連の動きを眺めていたケヴィンとジャックは、滑らかに剣身へ魔力を纏わせて攻撃力を上昇させていることは分かった。自分達にも、騎士団に所属するのなら多少下手くそでも必須の技能なのだから。
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