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第三章 衝撃の事実
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しおりを挟む「んっ……」
目を開けると、ガラス張りの大きな窓から差し込む朝日が顔を照らしていた。
どうやら部屋のカーテンを閉めずに眠ってしまったようだ。
今日は火曜日。店は定休日で仕事は休みだ。
特に予定もないし、二度寝しようか……。
それにしても、なんだか全身が気怠いし、寒くないのに不思議と体がスースーする。
まどろみながら睡魔と戦っていると、ふと天井の豪華絢爛な照明器具に目がいった。
もちろん、我が家にこんな華美な物はない。
「え」
一瞬フリーズしかけた脳が、一気に処理を始める。
そうだ。昨日、私は久我さんにディナーをご馳走になってそれで……。
「そうだ。私、昨日――」
ガバッと勢いよく起き上がる。彼に抱き尽くされ、私は疲れ果てて泥のように眠った。
服は身に着けていない。
昨晩の熱が沸き上がり、恥ずかしさに顔が赤らめる。
「久我……さん?」
部屋を見渡すも、彼の姿はない。そろそろとベッドから降りる。
高級そうな重厚なソファの上には丁寧に畳まれた着物が置かれているけれど、彼の私物は見当たらない。
身支度を済ませて先に部屋を出たに違いない。
そのことに安堵すると同時に胸が痛んだ。私は彼と合意の上で一夜を共にした。
こうなることは予想していたけれど、せめて別れの挨拶ぐらいはしたかった。
彼と会うことは二度とないだろう。
そう考えると胸が張り裂けそうなほど痛む。
……彼は、あまりにも魅力的な男性だった。
言葉での愛情表現は一切なかったものの、彼に抱かれているとき確かに彼からの愛を感じてしまった。
あんな風に抱かれてトロトロに甘やかされ、自分の本能を剥き出しにしたのも生まれて初めてだった。
「……帰ろう」
マッサージをする気になどなれず、洗面を終えるとそそくさと身支度を済ませる。
切なさにじんわりと涙が滲んだ。
一夜だけと割り切っていたのに、胸が痛むのは私が彼に惹かれてしまった確かな証拠だった。
彼は私を肯定してくれた。彼の前でだと、私はありのままの自分でいられたのだ。
目頭が熱くなる。唇をギュッと噛みしめたときだった。
奥の部屋から足音が聞こえてきた。
顔を上げると、そこには白いYシャツ姿の久我さんが立っていた。
「どうして……」
瞬間、瞼にたまっていた涙がポロリと零れて頬を伝う。
彼は私の前まで歩み寄り、指先でそっと涙を拭った。
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