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第八章 新たな命

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「あっ、萌音さん、おはようございます!」
「おはよう。お店任せちゃってごめんね」

開店時間を三十分過ぎた頃、店に到着した。
店内に継母と黒岩の姿がないことを知り、ホッと胸を撫で下ろす。
すると、カウンターにいた秋穂ちゃんは慌てたように手元にあったなにかを隠した。

「秋穂ちゃん?どうしたの?」
「あっ、いえ。なんでもありません……!」
「気になるなぁ」

カウンターに歩み寄りジッと彼女の目を見つめると、秋穂ちゃんは観念したように背中に隠していたものを差し出した。

「えっ、これ、つまみ細工?もしかして秋穂ちゃんが作ったの?」

彼女の手の平には見事な藤のかんざしがあった。
秋穂ちゃんは照れたようにこくりと頷く。

つまみ細工は日本独自の伝統工芸だ。
羽二重やちりめんなどの生地を小さくカットして折りたたんで並べることで季節の花や蝶などを表現している。

「以前、由紀子さんがお店の余り布を処分しようとしていたので、無理を言って譲ってもらったんです。最近お客様の数も減ってしまっていたので、お店の為になにかできないかなってずっと考えていて……。それで作ってみたんですが、自信がなくて……」

秋穂ちゃんはカウンターの奥に置いてあったお菓子の空箱を取り出して蓋を開けた。

「すっ、すごい……!これ全部秋穂ちゃんが?すごい!プロ並みの腕だよ!」

箱の中には色とりどりのつまみ細工が詰め込まれている。
松竹梅や薔薇、それに牡丹など華やかなお花のかんざしに目を奪われる。

「あの……もし萌音さんが嫌でなければ、これをお店のSNSに載せてもらうことはできませんか?」
「それはもちろん!鮮やかな色で作ってもらえたから、すごく映えそう!きっと反響あるよ!」
「本当ですか!?ありがとうございます……!」
秋穂ちゃんの笑顔につられて、私まで笑顔になる。

「ちなみに、これって作るのは難しかったりする?」
「いえ!簡単な物ならお子さんでも作れますよ」
「なるほど。それじゃ、私が月一でやってる着付け教室みたいに、秋穂ちゃんが店の一角でつまみ細工教室を開くのもいいかもしれないね」

私の何気ない言葉に秋穂ちゃんがぱああっと目を輝かせた。

「やりたいです!」

彼女は水を得た魚のように生き生きとしている。

「でも、準備とかで秋穂ちゃんの負担が増えちゃうかもしれないよ?もちろんお客様がいない時間に作ってもらって構わないけど大変じゃ……」
「大丈夫です!やらせてください!!」

気合満々の彼女に微笑む。

「分かった。まずはSNSにアップしないとね」
「はい!」

秋穂ちゃんが店の為にここまでしてくれているなんて知らなかった。
私だけでなく、彼女の為にもこの店を手放すわけにはいかないと決意を新たにする。
黒岩から提示された三日間の猶予期間は今日で終わりだ。

「秋穂ちゃん」

私は秋穂ちゃんの前まで歩み寄ると「お願いがあるの」と真っすぐ彼女を見つめた。
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