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第一章 チュートリアル

平川のノート『歴史』⑬

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 約370年前、ヌエニ人は『サウドゥーリ半島』の『プゼーポ湾』沿岸部の統治に成功して、ペコサ人との地位協定も大方は決まっていた。

 急を要することは全て片付いたバウ=ゼースはいよいよ本国に帰還する計画を立て始めた。
 海流と風向きの情報はまたまた不充分だろうが、『西内海』だけなら航海には何ら問題はない。

 彼が心配しているのは統治下のムヤ人が裏切らないかである。

 ムヤ人は五大部族を頂点に数多くの小部族を支配している。今回は沿岸部の小部族の殆どがこちらに寝返ってくれたから特に問題もなかったが、一斉蜂起が起きたらたまったものじゃないだろう。

 護衛として最低限の軍勢と共に本国に帰り、それ以外は占領地に残せばいい話なのだが、彼にとっての最良は本国に戻るのなら軍を全て連れ戻すことだ。
 遠征経験の少ないというより全くないヌエニ人の兵士の多くは、所謂ホームシックになっていた。
 その上ここは彼らが住んでいた故郷とはまるで違う環境。
 夏が短く、一年の半分は冬のような場所から一転、常夏で一年四季問わずに日照りが容赦なく降り注ぐ場所に来てしまったのだ。

 現代日本人はよく『常夏の楽園』という言葉を使うが、それは日本が温帯に位置するから我々日本人はそれなりに気温への適応能力が高いからだ。
 思いっきり寒帯に位置する場所に住み続けて、暑さ対する耐性がほぼないヌエニ人はこの数年間、夏バテと闘っていた。

 感情的にも、身体的にも不調を訴えている兵士たちを本国に連れ戻して休ませなければ、その不調が思いもよらないところで爆発しかねない。

 そこで、バウ=ゼースは現地の最高指揮官に与えられた権利を行使してフェス二人とある条約を交わした。

 ヌエニ人が統治する『プゼーポ湾』沿岸部の共同統治についてだ。

 これは本国の最高指揮官に伺った方が良いと側近が進言したが、彼と彼の副官のベネーが強権でなんとかした。

 結果、フェス二人の大部族が全会一致でこれに署名してフェス二人の軍が『サウドゥーリ半島』の西海岸に上陸した。
 これにより、バウ=ゼースが全軍を連れ帰っても蜂起が起きる可能性はかなり低くなった。



 帰還するにしても、ただ最短距離を突っ走ってはならない。そう考えたバウ=ゼースはまずフェス二人が統治する『ホーセ島』に寄った。そこでフェス二人の大部族の関係者と宴会を開き、友好を深めた。

 次に寄ったのは自軍が統治している『コカラ島』ではなく、カムル人がいる『スゼラ島』を訪れた。彼は『コカラ島』にいる兵士も本国に連れて帰るつもりなのだから、カムル人とは友好を築く必要がある。

 彼は元々『コカラ島』が故郷で、他の島に逃げ帰ってしまった人には帰る権利を約束した。条件として彼らがヌエニ人に服従することも付け加えた。
 この条件に反感を示す人はあまりいなかったと言われている。『コカラ島』と『ホーセ島』を奪われた時点でもう支配下に入ったようなものだから今更な話である。

 『ネホヌ諸島』の安全を確保したバウ=ゼースは最後の支配域、ラベゴ大陸にいるペコサ人の住む場所に向かった。案内役を務めたのは彼の副官のベネーだった。

 当初、バウ=ゼースも突如に増えてしまった支配域に驚いたという。しかも、自分が攻め落とした領地よりも大きい。
 ヌエニ人は実力社会である。十人隊長から最高指揮官まで実績と投票で選ばれる。一時期はバウ=ゼースは現地の最高指揮官の位を彼に引き渡そうとした程である。
 勿論、ベネーはそれを笑って断った。それは謙虚から来たとではなく。本国の最高指揮官を狙っているからではないかと言われている。

 彼らの到来を『カーフ部族』の長が自ら出迎えてくれた。バウ=ゼースの副官が残した文献によれば、港に着いた時は数万人が集まって彼らを歓迎してくれたという。

 全ての支配域の安全を確保し、フェス二人とカムル人の友好も築いたバウ=ゼースは今度は意気揚々と『コカラ島』に駐留している軍を連れて本国を目指した。
 途中でやはりフェス二人の本国にも寄っていこうと決めて『ピューゼ半島』に上陸してフェス二人の大部族の長とも宴会を開いた。
 臣従ではなく同盟関係だというのに、ペコサ人に劣らない歓迎っぷりだったらしい。気まぐれによる行動だった為、バウ=ゼースもこんな大きな宴会が開かれたことには驚いただろう。

 予想外のもてなしに数日間予定がずれてしまったが、その程度は本国の最高指揮官には問題ではなかった。
 焦っていたのはむしろバウ=ゼースではなかっただろうか。彼が本国に戻れば待っているのは『凱旋式』である。

 ヌエニ人にとって『凱旋式』とは誰だって最高の名誉と答える輝かしい典礼である。バウ=ゼースからしてみれば一日も早く受けたかったのだろう。
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