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2.貴公子はやっぱりワンコ
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寒々しい空気の中、しばらく車は走る。流れているのが明るめの洋楽で助かる。全く知識もなく曲名もわからないけど、爽快感のあるメロディはドライブにピッタリだ。
いつもこんな感じのデートなんだろうか。この乗り心地のいい高級車に洒落た曲。そして今は機嫌悪そうだけど、とにかくイケメン。そんな三拍子揃ったドライブなど、今後二度とできないだろう。こうなれば楽しむしかない。そして楽しんでもらおう。
「あの、倉木さん。何か聞きたいこととか、ありますか?」
「聞きたいこと、ですか?」
「はい。なんでもいいです。趣味は~? とか」
唐突過ぎたかなぁと思ったけど、当たり障りのない会話から初めないと。
「じゃあ。趣味はなんですか?」
食べることと飲むこと以外の趣味と言えばこれしかない。
「ジムで体力作りですかね? 学生時代は陸上部で。こう見えて持久力はあるんですよ?」
明るく返すとその横顔の口元が緩む。
「確かに……。そうですね」
……? なんで納得したのだろう。私が酒飲みだから?
周りにハテナを飛ばしながら考えていると倉木さんは口を開いた。
「僕も、気をつけてます。幼い頃は病弱で体力もなくて。走るのも遅かったんです。成長してからトレーニングを始めました」
「そうですか。……全くそんなふうには見えないです」
私は、ハンドルを握る七分丈のジャケットから覗く腕をチラ見しながら言った。
倉木さんは背も高いけど、体つきも良い。ひょろっとしているわけでも、ムキムキなわけでもなく、程よく逞しい。見えている腕の筋肉に、ちょっと触ってみたいなと不埒なことを考えてしまうくらい。
倉木さんって……。貴公子って言うより騎士って感じ
いつも読んでいる恋愛ファンタジー漫画のヒーローを思い出す。倉木さんがマントを翻し剣を振るう姿を想像して、一人にやけながらストローに口をつけた。
「ジムではどんなことをしているんですか?」
少し機嫌を戻した倉木さんに尋ねられる。
「ランニングマシンで走るかバイク漕いでるかですねぇ。無心になれるものが好きかも知れません」
「なるほど。僕も無心になれるものは好きです。気が合いますね」
なんか、無理矢理じゃない?
そう思うが、相手は社長令嬢と結婚したい男。なんとか取り入ろうとしているのかも知れない。
「そ、そうですね」
そんなことないと冷たくあしらえればいいけど、残念ながらそんな度胸はない。適当な返事でお茶を濁す。
「今度一緒に行きませんか? 千春さんが走っているところがみたいです」
「えっ! ジムにですか?」
そんなお誘いをされるとは思わず、慌てて横を向く。ちょうど赤信号で止まったタイミングで、倉木さんもこちらを向いた。
「だめ……でしょうか?」
だから! 子犬がしゅんとしたみたいな顔しないで! 頭の上に垂れた耳が見えそう。
結局、「機会があれば……」と答えるしかなかった。
いつもこんな感じのデートなんだろうか。この乗り心地のいい高級車に洒落た曲。そして今は機嫌悪そうだけど、とにかくイケメン。そんな三拍子揃ったドライブなど、今後二度とできないだろう。こうなれば楽しむしかない。そして楽しんでもらおう。
「あの、倉木さん。何か聞きたいこととか、ありますか?」
「聞きたいこと、ですか?」
「はい。なんでもいいです。趣味は~? とか」
唐突過ぎたかなぁと思ったけど、当たり障りのない会話から初めないと。
「じゃあ。趣味はなんですか?」
食べることと飲むこと以外の趣味と言えばこれしかない。
「ジムで体力作りですかね? 学生時代は陸上部で。こう見えて持久力はあるんですよ?」
明るく返すとその横顔の口元が緩む。
「確かに……。そうですね」
……? なんで納得したのだろう。私が酒飲みだから?
周りにハテナを飛ばしながら考えていると倉木さんは口を開いた。
「僕も、気をつけてます。幼い頃は病弱で体力もなくて。走るのも遅かったんです。成長してからトレーニングを始めました」
「そうですか。……全くそんなふうには見えないです」
私は、ハンドルを握る七分丈のジャケットから覗く腕をチラ見しながら言った。
倉木さんは背も高いけど、体つきも良い。ひょろっとしているわけでも、ムキムキなわけでもなく、程よく逞しい。見えている腕の筋肉に、ちょっと触ってみたいなと不埒なことを考えてしまうくらい。
倉木さんって……。貴公子って言うより騎士って感じ
いつも読んでいる恋愛ファンタジー漫画のヒーローを思い出す。倉木さんがマントを翻し剣を振るう姿を想像して、一人にやけながらストローに口をつけた。
「ジムではどんなことをしているんですか?」
少し機嫌を戻した倉木さんに尋ねられる。
「ランニングマシンで走るかバイク漕いでるかですねぇ。無心になれるものが好きかも知れません」
「なるほど。僕も無心になれるものは好きです。気が合いますね」
なんか、無理矢理じゃない?
そう思うが、相手は社長令嬢と結婚したい男。なんとか取り入ろうとしているのかも知れない。
「そ、そうですね」
そんなことないと冷たくあしらえればいいけど、残念ながらそんな度胸はない。適当な返事でお茶を濁す。
「今度一緒に行きませんか? 千春さんが走っているところがみたいです」
「えっ! ジムにですか?」
そんなお誘いをされるとは思わず、慌てて横を向く。ちょうど赤信号で止まったタイミングで、倉木さんもこちらを向いた。
「だめ……でしょうか?」
だから! 子犬がしゅんとしたみたいな顔しないで! 頭の上に垂れた耳が見えそう。
結局、「機会があれば……」と答えるしかなかった。
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