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18話
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何事も無くのんびりとした休日が終わり、また仕事の日々が始まった。
今日の仕事内容はドローンが自動で農薬を撒けるようにするためのプログラミングと想定したルート通りの散布が出来るかどうかを調べること。。
畑の寸法などの資料は美農から貰っている為、それを元にルートを決めるだけ――そう思っていたのだけれど、これが思っていた以上に難しい。
この機種に対応しているソフトが上級者向けである点も一つの難点なのだが、それに加えてドローンの自動操縦と今までに自作した効率化のためのソフトでは、勝手が違う点が一番の要因だ。
そのため、色々とネットで調べながらプログラミングしなければならず、今日一日どころか一週間は掛かってしまいそうだ。
一応、販売元の企業を頼ればやってくれるらしいのだけれど、またお金が掛かってしまうのと、なるべく技術を身に付けたかったため、挑戦させてもらっている。
「お邪魔します」
振り返れば正座で襖を開けて中に入ろうとしているたぬ子の姿があり、その足元にはお茶の汲まれた湯呑が二つ乗ったお盆が置いてある。
「ありがとう」
「このくらいしか出来ませんから」
そう言ってパソコン脇のコースターにお茶を置いた彼女は、興味津々な様子で画面を覗き込む。
「これは何をやってるんですか?」
「自動で動くようにプログラム組んでるの。ここら辺で農薬が満タンになったら飛び立つように指示してて、次のところで農薬を撒くところを指示してるみたいな感じ」
「なるほど……」
耳がはてなを浮かべるかのように傾き、分かっているわけでは無いことが伺える。
いずれはこの子たちにも教えてあげる必要があるかもしれないなと考えながら、興味津々なたぬ子を横目に作業を進める。
そうして三時間程度作業を続けたところで、下の階から何やら調理しているらしき音が聞こえ始めた。
少し遅れて魚の焼ける香りが漂い、薄っすらと感じていた空腹が増大する。
進捗としては行き来する程度のプログラムがおおよそ完成したし、お昼休憩にちょうど良いか。
午後にはミスが無いか確認して、試験飛行と行こう。
「お昼休憩しよっか」
「はい!」
ちょっと飽き始めていたらしく、元気良く返事をしたたぬ子は湯呑を二つ盆に乗せて立ち上がり、それを見て私は襖を開けに行く。
両手が塞がっている彼女が礼を言いながら先に部屋を出て、ご機嫌そうに揺れる尻尾の後に続く。
ふと、忘れていたことに気付く。
「あ、そう言えばたぬ子の本名って何なの?」
「本名って、戸籍上の名前ですか?」
「うん。みんな似たような名前しててよく分かんないからそっちで呼ぼうかなって」
「楓です。あんまりこっちの名前使うこと無いのでむず痒いです」
そう言ってえへへと笑った彼女は、尻尾を楽しげに揺らす。
「改めて、よろしくお願いします」
「よろしくね、楓ちゃん」
一礼した彼女に私も一礼を返すと、どこか嬉しそうな笑みを浮かべて歩き出す。
そんな事をしている間に下から漂って来る料理の匂いは強くなり、空腹で私も楓もお腹を鳴らしてしまう。
階段を降りて行くと私たち以外にも何人かのたぬき娘たちがキャッキャと談笑しながらそちらへ向かって行っているところで、彼女達のお尻では尻尾が興奮気味に揺れている。
「今日のお魚って猫又ちゃんからの貰い物?」
「いえ、料理番が近くのお店で購入したものだそうです」
この屋敷の住民全員分を毎日買い出ししているのだろうか。
もしもそうならかなりの仕事量になりそうだ。農業の方だけで無く、そちらも何か効率化出来れば喜んで貰えるかもしれない。
……まだまだ先のことになりそうだけれど。
そんな事を考えているうちに食堂へ辿り着くと、美農を除いて、既に殆どの住人が集まっていた。
指定席というわけでは無いのに私と楓の座る座布団は開けられていて、彼女たちの配慮をありがたく思いながらそこへ座る。
焼き魚の定食が全員分並べられた頃、まだ来ていなかった美濃も揃った。
「待たせてすまぬ。それでは食べよう」
いつも通り全員揃って「いただきます」を言うと、みんな食べ物に手を付け始める。
少し遅れて尻尾をぷりぷり振りながら料理に手を付け始めた美農に私は尋ねる。
「何か仕事してたの?」
「暇だったから裏庭の掃除をしてたのじゃ」
「午後も暇?」
「暇じゃな。手伝って欲しい事でもあるのかの?」
そう言いながら魚の身を口に運んだ美農に、私は頷いてみせる。
「ドローンの試験飛行してみようかなって。美農も一緒にどう?」
「行くのじゃ。手伝えることがあったら言って欲しいのじゃ」
「決まりだね」
そんな会話をしていると、私たちの会話が聞こえていたらしいたぬき娘たちが興味津々な眼差しをこちらに向けていることに気付いた。
キラキラと幼い子供のように目を輝かせる彼女たちにダメとは言い辛く、美農に視線で問うと。
「仕方ないのう。興味がある者は来たら良い」
その一言で歓声が上がった。
……もしも落っこちてしまったらどうしよう。
今日の仕事内容はドローンが自動で農薬を撒けるようにするためのプログラミングと想定したルート通りの散布が出来るかどうかを調べること。。
畑の寸法などの資料は美農から貰っている為、それを元にルートを決めるだけ――そう思っていたのだけれど、これが思っていた以上に難しい。
この機種に対応しているソフトが上級者向けである点も一つの難点なのだが、それに加えてドローンの自動操縦と今までに自作した効率化のためのソフトでは、勝手が違う点が一番の要因だ。
そのため、色々とネットで調べながらプログラミングしなければならず、今日一日どころか一週間は掛かってしまいそうだ。
一応、販売元の企業を頼ればやってくれるらしいのだけれど、またお金が掛かってしまうのと、なるべく技術を身に付けたかったため、挑戦させてもらっている。
「お邪魔します」
振り返れば正座で襖を開けて中に入ろうとしているたぬ子の姿があり、その足元にはお茶の汲まれた湯呑が二つ乗ったお盆が置いてある。
「ありがとう」
「このくらいしか出来ませんから」
そう言ってパソコン脇のコースターにお茶を置いた彼女は、興味津々な様子で画面を覗き込む。
「これは何をやってるんですか?」
「自動で動くようにプログラム組んでるの。ここら辺で農薬が満タンになったら飛び立つように指示してて、次のところで農薬を撒くところを指示してるみたいな感じ」
「なるほど……」
耳がはてなを浮かべるかのように傾き、分かっているわけでは無いことが伺える。
いずれはこの子たちにも教えてあげる必要があるかもしれないなと考えながら、興味津々なたぬ子を横目に作業を進める。
そうして三時間程度作業を続けたところで、下の階から何やら調理しているらしき音が聞こえ始めた。
少し遅れて魚の焼ける香りが漂い、薄っすらと感じていた空腹が増大する。
進捗としては行き来する程度のプログラムがおおよそ完成したし、お昼休憩にちょうど良いか。
午後にはミスが無いか確認して、試験飛行と行こう。
「お昼休憩しよっか」
「はい!」
ちょっと飽き始めていたらしく、元気良く返事をしたたぬ子は湯呑を二つ盆に乗せて立ち上がり、それを見て私は襖を開けに行く。
両手が塞がっている彼女が礼を言いながら先に部屋を出て、ご機嫌そうに揺れる尻尾の後に続く。
ふと、忘れていたことに気付く。
「あ、そう言えばたぬ子の本名って何なの?」
「本名って、戸籍上の名前ですか?」
「うん。みんな似たような名前しててよく分かんないからそっちで呼ぼうかなって」
「楓です。あんまりこっちの名前使うこと無いのでむず痒いです」
そう言ってえへへと笑った彼女は、尻尾を楽しげに揺らす。
「改めて、よろしくお願いします」
「よろしくね、楓ちゃん」
一礼した彼女に私も一礼を返すと、どこか嬉しそうな笑みを浮かべて歩き出す。
そんな事をしている間に下から漂って来る料理の匂いは強くなり、空腹で私も楓もお腹を鳴らしてしまう。
階段を降りて行くと私たち以外にも何人かのたぬき娘たちがキャッキャと談笑しながらそちらへ向かって行っているところで、彼女達のお尻では尻尾が興奮気味に揺れている。
「今日のお魚って猫又ちゃんからの貰い物?」
「いえ、料理番が近くのお店で購入したものだそうです」
この屋敷の住民全員分を毎日買い出ししているのだろうか。
もしもそうならかなりの仕事量になりそうだ。農業の方だけで無く、そちらも何か効率化出来れば喜んで貰えるかもしれない。
……まだまだ先のことになりそうだけれど。
そんな事を考えているうちに食堂へ辿り着くと、美農を除いて、既に殆どの住人が集まっていた。
指定席というわけでは無いのに私と楓の座る座布団は開けられていて、彼女たちの配慮をありがたく思いながらそこへ座る。
焼き魚の定食が全員分並べられた頃、まだ来ていなかった美濃も揃った。
「待たせてすまぬ。それでは食べよう」
いつも通り全員揃って「いただきます」を言うと、みんな食べ物に手を付け始める。
少し遅れて尻尾をぷりぷり振りながら料理に手を付け始めた美農に私は尋ねる。
「何か仕事してたの?」
「暇だったから裏庭の掃除をしてたのじゃ」
「午後も暇?」
「暇じゃな。手伝って欲しい事でもあるのかの?」
そう言いながら魚の身を口に運んだ美農に、私は頷いてみせる。
「ドローンの試験飛行してみようかなって。美農も一緒にどう?」
「行くのじゃ。手伝えることがあったら言って欲しいのじゃ」
「決まりだね」
そんな会話をしていると、私たちの会話が聞こえていたらしいたぬき娘たちが興味津々な眼差しをこちらに向けていることに気付いた。
キラキラと幼い子供のように目を輝かせる彼女たちにダメとは言い辛く、美農に視線で問うと。
「仕方ないのう。興味がある者は来たら良い」
その一言で歓声が上がった。
……もしも落っこちてしまったらどうしよう。
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