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24話
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お休み最終日となった。
やることが無くて暇なことに変わりは無く、機械化に向けた資料作りも粗方片付いてしまった。
どうしたものかと少し悩みながら腕立て伏せをしていると。
「夏月さん、飲み物を持って参りました」
「ありがとう」
廊下から声を掛けられて礼を言いながら立ち上がった私は襖を開けて、お盆を持って立っていた楓を中へ入れる。
「今日も良い毛並みだねえ」
「ありがとうございます! シャンプー変えてみたんですよ?」
そう言ってお盆を机に置いた彼女は、その場でくるりと回って見せた。
すると、ふわふわな尻尾から前までとはまた一味違った柔らかな花の香がふんわりと漂い、この香りも良いなと思いながら触らせてもらう。
抱き枕にしたく思いながらふかふかして遊んでいると、楓はおかしそうに笑う。
「せっかくの休みなのにこんなことしてて良いんですか?」
「すごく暇でやること無いんだもん。ゲームも一人でやるのは飽きちゃったし」
「そうでしたか……でしたら、暇なたぬきたちを集めてトランプでもしませんか?」
「暇な子いるんだ?」
「お昼は料理番と掃除当番たちが休憩入ってますから。さあ、行きましょう!」
元気良くそう言って片手を差し出した彼女は、楽し気に尻尾を揺らして歩き始めた。
一階へと降りていつもは通らない方の廊下を通り、何気に入るのは初めてな部屋の前で立ち止まった楓は襖を開ける。
すると、そこでは変身をせずにゴロゴロしているたぬきたちの姿があり、脱力しているその姿に癒される。
「か、夏月様!」
慌てた様子で立ち上がったもふもふの一匹に続いて全員が立ち上がり、人の姿になろうとする。
「大丈夫です。夏月さんも暇潰しに来ただけですから」
「ホントに?」
「たぬきの姿で大丈夫だよ。そっちでも可愛いから」
「お世辞がお上手です」
そう言ってお上品に笑ったたぬきだが、やはりその姿では誰なのか分からない。
どうしようかと考えていると楓が部屋の片隅に置かれていたトランプを手に取り、慣れた手つきでシャッフルしながらこちらへやって来る。
「じゃあ、最初はババ抜きしましょうか」
「トランプで遊ぶの久しぶりだなー。小学校で最後かも」
「都会ではあまりカードで遊ばないんですか?」
いつの間にやら人の姿になっていたたぬき娘――名前は紬と言ったか――の問いに、私は思わず目を逸らしながら。
「ま、まあね。都会だとトランプはあんまり人気ないかな」
「そうなんですね!」
実際はやっている人はそれなりにいたのだけれど、独りぼっちだった私が誘われるわけもなく、小学校の修学旅行が最後となった。
こんなことで嘘を吐かないといけない自分を情けなく思いながら、カードを配ってくれた楓に礼を言う。
まだ人の姿になっていないたぬきは小さいおててで器用に手札を持ち、揃っているカードをぽいぽいと中心に捨てる。
全員のカードが揃ったところで楓が自分の手札を差し出して。
「夏月さん、お先にどうぞ」
「ありがとう」
礼を言いながら、右から三番目のカードを抜き取る。
するとハートの六が出て、手持ちにも丁度あった六と揃って、その二枚を捨て去り、隣のたぬきへ手札を差し出す。
「んなっ!」
見事にジョーカーを引いた彼女は可愛らしい声を上げ、尻尾がぷるると震えた。
可愛すぎるその動作ににやけてしまっていると、楓がちょこっと拗ねたような顔をする。
「浮気はダメです」
「う、浮気じゃないよ?」
「バレバレです」
「ごめんなさい」
全く聞く耳を持たない楓に謝罪すると、どうやら冗談だったらしく、楽し気に笑って。
「冗談です。でも、可愛いからってジロジロ見ちゃダメですよ?」
「ごめん」
見た目が可愛らしいたぬきだから忘れがちだが、中身は人間とほぼ同じだ。ジロジロ見られたら気持ち悪いだろう。
自分にそう言い聞かせていると、たぬきは全然気にしていない様子で近寄って来て。
「楓ちゃんや千春ちゃんみたいにナデナデして下さっても良いんですよ?」
「しょうがないなー」
見るからにふわふわな体に触れてみると彼女は気持ちよさそうな声を出しながらふにゃーっと溶けるかのように体を伸ばす。
リラックスし切っているのがよく分かるその様子は見ているこちらも気分が良くなり、もっとナデナデしていると、他のたぬきたちも近寄って来る。
「みんなおいで」
手を伸ばして声を掛けてみると、五匹と二人のたぬきたちがトランプを放ってやって来て、気付けば七本の尻尾が揺れる景色を眺める事になった。
やることが無くて暇なことに変わりは無く、機械化に向けた資料作りも粗方片付いてしまった。
どうしたものかと少し悩みながら腕立て伏せをしていると。
「夏月さん、飲み物を持って参りました」
「ありがとう」
廊下から声を掛けられて礼を言いながら立ち上がった私は襖を開けて、お盆を持って立っていた楓を中へ入れる。
「今日も良い毛並みだねえ」
「ありがとうございます! シャンプー変えてみたんですよ?」
そう言ってお盆を机に置いた彼女は、その場でくるりと回って見せた。
すると、ふわふわな尻尾から前までとはまた一味違った柔らかな花の香がふんわりと漂い、この香りも良いなと思いながら触らせてもらう。
抱き枕にしたく思いながらふかふかして遊んでいると、楓はおかしそうに笑う。
「せっかくの休みなのにこんなことしてて良いんですか?」
「すごく暇でやること無いんだもん。ゲームも一人でやるのは飽きちゃったし」
「そうでしたか……でしたら、暇なたぬきたちを集めてトランプでもしませんか?」
「暇な子いるんだ?」
「お昼は料理番と掃除当番たちが休憩入ってますから。さあ、行きましょう!」
元気良くそう言って片手を差し出した彼女は、楽し気に尻尾を揺らして歩き始めた。
一階へと降りていつもは通らない方の廊下を通り、何気に入るのは初めてな部屋の前で立ち止まった楓は襖を開ける。
すると、そこでは変身をせずにゴロゴロしているたぬきたちの姿があり、脱力しているその姿に癒される。
「か、夏月様!」
慌てた様子で立ち上がったもふもふの一匹に続いて全員が立ち上がり、人の姿になろうとする。
「大丈夫です。夏月さんも暇潰しに来ただけですから」
「ホントに?」
「たぬきの姿で大丈夫だよ。そっちでも可愛いから」
「お世辞がお上手です」
そう言ってお上品に笑ったたぬきだが、やはりその姿では誰なのか分からない。
どうしようかと考えていると楓が部屋の片隅に置かれていたトランプを手に取り、慣れた手つきでシャッフルしながらこちらへやって来る。
「じゃあ、最初はババ抜きしましょうか」
「トランプで遊ぶの久しぶりだなー。小学校で最後かも」
「都会ではあまりカードで遊ばないんですか?」
いつの間にやら人の姿になっていたたぬき娘――名前は紬と言ったか――の問いに、私は思わず目を逸らしながら。
「ま、まあね。都会だとトランプはあんまり人気ないかな」
「そうなんですね!」
実際はやっている人はそれなりにいたのだけれど、独りぼっちだった私が誘われるわけもなく、小学校の修学旅行が最後となった。
こんなことで嘘を吐かないといけない自分を情けなく思いながら、カードを配ってくれた楓に礼を言う。
まだ人の姿になっていないたぬきは小さいおててで器用に手札を持ち、揃っているカードをぽいぽいと中心に捨てる。
全員のカードが揃ったところで楓が自分の手札を差し出して。
「夏月さん、お先にどうぞ」
「ありがとう」
礼を言いながら、右から三番目のカードを抜き取る。
するとハートの六が出て、手持ちにも丁度あった六と揃って、その二枚を捨て去り、隣のたぬきへ手札を差し出す。
「んなっ!」
見事にジョーカーを引いた彼女は可愛らしい声を上げ、尻尾がぷるると震えた。
可愛すぎるその動作ににやけてしまっていると、楓がちょこっと拗ねたような顔をする。
「浮気はダメです」
「う、浮気じゃないよ?」
「バレバレです」
「ごめんなさい」
全く聞く耳を持たない楓に謝罪すると、どうやら冗談だったらしく、楽し気に笑って。
「冗談です。でも、可愛いからってジロジロ見ちゃダメですよ?」
「ごめん」
見た目が可愛らしいたぬきだから忘れがちだが、中身は人間とほぼ同じだ。ジロジロ見られたら気持ち悪いだろう。
自分にそう言い聞かせていると、たぬきは全然気にしていない様子で近寄って来て。
「楓ちゃんや千春ちゃんみたいにナデナデして下さっても良いんですよ?」
「しょうがないなー」
見るからにふわふわな体に触れてみると彼女は気持ちよさそうな声を出しながらふにゃーっと溶けるかのように体を伸ばす。
リラックスし切っているのがよく分かるその様子は見ているこちらも気分が良くなり、もっとナデナデしていると、他のたぬきたちも近寄って来る。
「みんなおいで」
手を伸ばして声を掛けてみると、五匹と二人のたぬきたちがトランプを放ってやって来て、気付けば七本の尻尾が揺れる景色を眺める事になった。
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