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その後、会食が始まったのだが正直あまり楽しめなかったというのが本音だった。というのも隣に座る彼の様子がおかしかったからだ。何やら落ち着かない様子でソワソワしているように見える。どうかしたのか尋ねてみたが何でもないと言われてしまったためそれ以上追及するのはやめておいた。
食事を終えると解散の時間となったので帰り支度を始めると彼に呼び止められた。振り返ると真剣な眼差しを向けてくる彼と目が合う。何だろうと思っていると予想外のことを言われたため固まってしまった。
「この後、少し話せないかな?」
突然のことに頭が追いつかず混乱していたがなんとか平静を装って返事をすることができた。
「え、ええ。構いませんけど……」
そう答えるとホッとした様子を見せたのでますます訳が分からなくなってしまった。
その後、二人で庭に出るとベンチに腰掛けた。気まずい空気が流れている中、先に口を開いたのは彼の方だった。
「あのさ、実は前から君のことが好きだったんだ」
その言葉に驚きすぎて言葉を失ってしまったが、すぐに気を取り直して聞き返した。
「えっと、それってどういう意味でしょうか……?」
恐る恐る尋ねると彼は頬を赤く染めながら答えた。
「もちろん恋愛対象としてだよ」
それを聞いて顔が熱くなるのを感じた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったからだ。恥ずかしさのあまり俯いていると彼の手が伸びてきて頬に触れられる感触があったが振り払うことはできなかった。むしろ心地良さすら感じていたくらいだ。しばらくされるがままになっていると不意に声をかけられたので顔を上げると目の前に彼の顔があった。驚く間もなく唇を奪われてしまい硬直しているとゆっくりと離れていくのが見えた。呆然としていると彼が照れくさそうに笑いながら言った。
「ごめん、我慢できなくてつい……」
それを聞いて我に帰ると慌てて距離を取った。心臓がバクバクと音を立てているのがわかるくらい動揺していたがそれを悟られないように平静を装って尋ねた。
「あの、どうして私なんですか?他にも魅力的な方はたくさんいらっしゃると思うのですが……」
すると彼は真剣な表情になって答えた。
「確かにその通りだと思うよ。でも、それでも僕は君が好きなんだ。他の誰でもない、君だけが欲しいと思ったんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥底から熱いものが込み上げてくるような感覚に襲われた。それが何なのかわからず戸惑っていると彼が心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫?もしかして嫌だったかな……?」
不安そうな表情を浮かべているのを見てハッと我に返った私は慌てて否定した。
「いえ、違うんです!ただ、ちょっとびっくりしただけで……」
それを聞いて安心したのか安堵の息を吐いていた。そんな彼の様子を見ているうちに不思議と落ち着きを取り戻していった。そして、改めて自分の気持ちを確かめると意を決して告げた。
「わかりました。あなたの気持ちを受け入れます」
それを聞いて嬉しそうに微笑むと私を抱きしめた。最初は驚いていたものの次第に安心感を覚えて身を委ねることにした。しばらくして抱擁を解くと手を繋いで歩き始めた。その手はとても温かく感じられたのだった。

***
数日後、教室に入ると真っ先に彼と目が合った。彼は私に気づくなり手を振ってきたので振り返すと隣の席に座るよう促されたので素直に従った。席につくと早速話しかけられたのでそれに応えていると不意に手を握られたのでビクッとしてしまった。それを見た彼が申し訳なさそうに謝ってきたため慌てて首を振ると気にしていないことを伝えるために微笑んだ。
「大丈夫ですよ、気にしていませんから」と言うと彼も安堵した表情を見せた後、手を離してくれた。その後も何気ない会話をしていたのだがふとした瞬間に手が触れ合ったり指が絡み合ったりする度にドキドキしてしまう自分がいて戸惑ってしまう。そんな様子を見ていた彼がクスッと笑う声が聞こえたので恥ずかしくなって顔を背けると頭を優しく撫でられた。驚いて見上げると優しい微笑みを湛えた彼の顔があり心臓が大きく跳ね上がる音が聞こえた気がした。そのままじっと見つめ合っていると突然扉が開いたので慌てて離れると入ってきた人物を見て胸を撫で下ろした。そこにいたのは担任の男性教師だったからだ。彼は私達の様子を見ると怪訝そうな表情を浮かべた後で尋ねてきた。「お前たち、何かあったのか?」
その問いに顔を見合わせるとどちらからともなく笑い出した。その様子を見ていた先生がさらに困惑した表情を浮かべるのを見てまた笑ってしまったのだった。
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