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大きな木の下で
迷子
しおりを挟む(……はぁ。寒いしもう戻ろ…。)
そう思い、元来た方を振り返った俺はそこで初めて、この木に通じる道が三本もあることに気が付いた。
(……あれ?俺、どの道から来たんだっけ?)
それぞれの道の出入口が離れた場所にあったら、ここに到着した時の景色の見え方がだいぶ違って見えただろうから、どの道から来たのか分かったかもしれない。
だけどその三本の道の出入口は3つともかなり密接していて、この場所に辿り着いた時に見える景色はほとんど変わらないだろう。
まさか道が3つもあるだなんて思わなかったし、なにせここに向かっている時は必死だったから、到着した時に振り返ってどの道から来たかなんて確認しなかった。
(……う…まぁでも、文明の利器というものがあるし…。)
三本の道からどれか1つを適当に選んで進んで、余計に迷ってしまったらと思うと怖くて、自力で選ぶことを早々に諦めた俺は、ジーパンのポケットに手を突っ込んでスマホを取り出し、地図を開こうとした。
だけど、ツイてない日はとことんツイてないもので、何度サイドボタンを押しても画面は真っ黒なまま。
試しに長押ししてみてもうんともすんともいわない。
(……嘘でしょ…。)
最近スマホの調子悪いなとは思ってたけど今この状況で壊れるのはあまりに無慈悲すぎる。
これじゃあ地図を見ることができないどころか、暗くてほとんど何も見えない森の中を照らしながら進むこともできない。
(……詰んだわ。)
寒い。
このまま誰にも見つけられずにここにいたら間違いなく凍死だ。
苦手な酒をそれなりの量摂取した直後にオッサンに襲われかけて抵抗し、更にその後猛ダッシュを決めたこの身体にはこの寒さに打ち勝つだけの体力なんて残っておらず、俺は大木に背中を預けてずるずるとその場に座り込んだ。
死んじゃうのかな、俺。
失恋した直後に凍死だなんて、ほんと俺、前世でどんな大罪犯したんだよ…。
どうせ死んじゃうんだったら、好きって言えばよかった…。
遠くの方で、神崎の声が聞こえる気がする。
(……え、もうお迎え来たの?さすがにちょっと早くない?)
ここで聞こえるはずの無い声に、ついに向こうの世界から迎えが来たのかなどと、とんでもない思考に陥る俺。
だけどその声は、どんどん近付いてきて。
「…あやっ!」
1番右側の出入口から、血相を変えた神崎が飛び出してきた。
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