上 下
31 / 57
大きな木の下で

天使のお迎え

しおりを挟む

「…かんざき…?」

「あんた馬鹿かっ!なんでこのクソ寒い中そんな薄着で外出てんだ!死ぬぞ!」

「……なんで俺、神崎型の天使に説教されてんの…?」

「…っ、ハァ…もう……まだ死んでないから…ほんと、無事で良かった…」

「…え?俺、生きてるの?じゃあなんで神崎がここにいるの…?」


彼の話によるとどうやら俺はまだ生きていて、目の前に現れたのは神崎型の天使ではなく生身の神崎本人らしい。

物凄い剣幕で俺を怒鳴りつけてきた彼は、俺のあまりに的外れな発言に怒る気も失せたのか、深い溜め息を吐いて俺のそばにしゃがみ込み、脇に抱えていた毛布で俺をぐるぐる巻きにしながら、この場所へやって来た経緯を説明してくれた。


「あんたのこと探してたら、宿のおばちゃんが教えてくれたんですよ。泣きながらこの木の場所を訊ねてきて、薄着のまま外に飛び出して行った男の人がいるって。危ないでしょうが、一人でこんな夜遅くにうろちょろしたら」

「…なんだよそれ、女子供じゃあるまいし」

「結果迷子になってたんじゃないの?俺が助けに来なかったらどうするつもりだったんですか?」

「う……それは……」


……返す言葉もございません。


実際、神崎が来てくれてなかったら俺は多分ここで凍りついてたと思う。

宿から借りてきたという毛布に包まれて、失われかけていた体温が少しずつ上昇し始めたのも感じてる。


『助けてくれてありがとう』

『神崎のことが好きって気付いたけど、俺はお前に嫌われてると思ったら辛くなって逃げた』


そうやって本音を伝えられたら、何かが変わるかもしれない。

だけど、俺の誕生日の一件とか、女の子達に囲まれて嬉しそうにしてた神崎の姿を思い出すとやっぱり腹が立ってきて、どうしても素直に「ありがとう」や「好き」といったポジティブな台詞を伝える気にはなれなかった。


俯いて黙りこくってしまった俺と、神崎の間に気まずい沈黙が流れる。


それから、どれぐらい経っただろう?

実際には1分にも満たない程度だと思うけど、俺にとっては永遠にすら感じられる程、長くて苦しい沈黙。


それを先に破ったのは、神崎だった。








しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ダイニングキッチン『最後に晩餐』

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,540pt お気に入り:1

修羅と丹若 (アクションホラー)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:3

恋するレティシェル

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:5

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:58,688pt お気に入り:3,615

俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:33,476pt お気に入り:4,316

あい らぶ? こめ。

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:528

目立たないでと言われても

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,044

実は私、転生者です。 ~俺と霖とキネセンと

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:1

処理中です...