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01桐木純架君
桐木純架君03
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俺は純架の手を乱暴に払いのけた。うっとうしい野郎だ。
「探偵活動だと?」
鼻歌でも歌いそうな気楽な表情で純架がうなずく。暖かい風が一陣、吹き抜けていったのが場違いだ。ロータリーからタクシーが一台、客を乗せて発車する。駅の出入り口には渋山台高校の生徒たちもちらほら散見された。
「そうさ。僕は渋山台高校に『探偵部』を設置して、学校内の色々な事件を解決していきたいと考えているんだ」
俺は噴き出した。あまりに幼稚な妄想に哄笑してしまう。
「お前、フィクションとリアルをごっちゃにしてないか? 起きねえんだよ、事件なんて。学校で起きることなんて、せいぜい小競り合い程度の揉め事ぐらいだ。アニメやドラマじゃあるまいし、高校生が探偵なんてやるだけ無駄なんだよ」
俺と純架は定期券を押し付けて自動改札機を通過した。純架は少し気を悪くしたらしく、頭頂部から噴火して煙を立ち上らせている。
本当に人間か?
「無駄かどうかはやってみなくちゃ分からないさ。案外忙しくなるかもしれないじゃないか。……まあともかく、その探偵仕事の頭脳方面は僕がやるから、肉体方面を君にやってほしいわけさ」
「俺は使いっ走りってわけか? ふざけんなよ」
俺はいらいらしながら電車の中に乗り込んだ。よその高校でも入学式があったのか、また変わった制服姿の学生が多い。それなのに、何で俺だけこんな変人に付きまとわれているのだろう。神様は不公平だ。
だが純架はそんな俺の嘆きを発掘することもなく、熱心に口説いてきた。上着を脱ぎかけて戻し、脱ぎかけて戻しと、ジャケットプレイに勤しんでもいる。ああ、関わりたくねえ。
「今朝の君、確かこうだったよね?」
純架は拳を握り、腕を構えて変顔をする。姿勢は合ってるが、俺はそんな不細工な顔はしていない。完全に俺を馬鹿にしている。
「冴えてたよ。体格で自分を上回る男が、しかも4人もいるというのに、君は冷静に喧嘩をしようとしていた。まあ実際闘ったら無惨にやられていただろうけど、なかなか格好良かったね」
純架は苦笑した。はっとするほど整った笑みだった。
「そしてクラスも1年3組で同じだろう? それで君に決めたんだ。僕の『探偵部』の助手は朱雀楼路君、君だって、ね」
俺はこの美形馬鹿の自己中具合にため息をついた。ここはきっぱり断らないと駄目だと考え、どすの利いた声を出す。
「勝手に決めんな、ボケ。俺はそんなの付き合わないぞ」
しかしそれは弾けたような相手の笑みにぶつかり、いとも容易く跳ね返された。
「楼路君、どうせやることないんだろう? 『探偵部』で一緒に汗をかこうじゃないか」
「ふざけんな」
俺と純架は同じ駅で降りた。まばらな人影に紛れて構内を出ると、数年前に建てられた高いマンションがそびえ立っている。それからやや離れた位置で、市営バスが乗降客を入れ替えていた。俺はそののん気な光景を視界から置き去りにして、ぴったり横についてくる純架と共に街道を進んでいく。
ん? どういうことだ?
「おい、いつまで俺についてくるつもりだ? それに俺の親父とお袋が離婚話で揉めているってのがお見通しだった理由、まだ聞いてないぞ」
俺の問いかけに、純架はふざけたように首を傾げた。
「まだ分からないのかい? 本当に筋肉馬鹿なんだね、君は」
「何だと?」
俺たちは午後一時の風に吹かれながら、住宅街に差し掛かった。純架はいつまでもいつまでも俺についてくる。まさか……
「そう、そのまさかさ」
俺の心の声を聞いたとでもいうように、純架は莞爾と笑った。
俺が自分の家である一軒家の前に立つと、奴は「ちょっと待ってて」と言い残し、隣の一軒家の元へ向かった。俺は度肝を抜かれて口を開けっ放しにした。
「おいおい、昨日引っ越してきた隣の家族って……」
「そうさ、僕たち桐木一家だよ」
純架は表札をこつこつと叩いた。俺が近寄ると、彼は鞄から赤い花のレイを取り出し、俺の首にかけた。
ハワイに来たんじゃねえよ。
「昨日引っ越してきたとき、僕の両親が君んちへ挨拶にいったんだけどね。どうやら君の両親は離婚の話で揉めていて、それどころじゃなかったようだ。今朝は僕の家まで聞こえるような声で怒鳴りあっていて、おかげで僕は目覚ましいらずだったよ。それが種明かしさ。で、ちょうど家を出るとき、うちの高校の制服を着た君が出発するところを目撃したってわけさ」
俺は開いた口が塞がらなかった。純架はそんな俺に「ダンカン! ダンカンこの野郎!」とビートたけしの物真似をぶつけると、平然と言った。
「そう、隣の家の君が助手なら、僕の探偵活動も綿密な打ち合わせがいつでも可能となるからね。それもあって君を誘ったんだよ。まあ今日は色々楽しかった。また明日、一緒に登校しよう。楼路君」
純架は自分の家のドアを開けると中に入っていった。俺はその優美な身のこなしを唖然と見つめるしか出来なかった。
こうして俺は、渋山台高校で起きる数々の事件に巻き込まれていくこととなるのだった。
「探偵活動だと?」
鼻歌でも歌いそうな気楽な表情で純架がうなずく。暖かい風が一陣、吹き抜けていったのが場違いだ。ロータリーからタクシーが一台、客を乗せて発車する。駅の出入り口には渋山台高校の生徒たちもちらほら散見された。
「そうさ。僕は渋山台高校に『探偵部』を設置して、学校内の色々な事件を解決していきたいと考えているんだ」
俺は噴き出した。あまりに幼稚な妄想に哄笑してしまう。
「お前、フィクションとリアルをごっちゃにしてないか? 起きねえんだよ、事件なんて。学校で起きることなんて、せいぜい小競り合い程度の揉め事ぐらいだ。アニメやドラマじゃあるまいし、高校生が探偵なんてやるだけ無駄なんだよ」
俺と純架は定期券を押し付けて自動改札機を通過した。純架は少し気を悪くしたらしく、頭頂部から噴火して煙を立ち上らせている。
本当に人間か?
「無駄かどうかはやってみなくちゃ分からないさ。案外忙しくなるかもしれないじゃないか。……まあともかく、その探偵仕事の頭脳方面は僕がやるから、肉体方面を君にやってほしいわけさ」
「俺は使いっ走りってわけか? ふざけんなよ」
俺はいらいらしながら電車の中に乗り込んだ。よその高校でも入学式があったのか、また変わった制服姿の学生が多い。それなのに、何で俺だけこんな変人に付きまとわれているのだろう。神様は不公平だ。
だが純架はそんな俺の嘆きを発掘することもなく、熱心に口説いてきた。上着を脱ぎかけて戻し、脱ぎかけて戻しと、ジャケットプレイに勤しんでもいる。ああ、関わりたくねえ。
「今朝の君、確かこうだったよね?」
純架は拳を握り、腕を構えて変顔をする。姿勢は合ってるが、俺はそんな不細工な顔はしていない。完全に俺を馬鹿にしている。
「冴えてたよ。体格で自分を上回る男が、しかも4人もいるというのに、君は冷静に喧嘩をしようとしていた。まあ実際闘ったら無惨にやられていただろうけど、なかなか格好良かったね」
純架は苦笑した。はっとするほど整った笑みだった。
「そしてクラスも1年3組で同じだろう? それで君に決めたんだ。僕の『探偵部』の助手は朱雀楼路君、君だって、ね」
俺はこの美形馬鹿の自己中具合にため息をついた。ここはきっぱり断らないと駄目だと考え、どすの利いた声を出す。
「勝手に決めんな、ボケ。俺はそんなの付き合わないぞ」
しかしそれは弾けたような相手の笑みにぶつかり、いとも容易く跳ね返された。
「楼路君、どうせやることないんだろう? 『探偵部』で一緒に汗をかこうじゃないか」
「ふざけんな」
俺と純架は同じ駅で降りた。まばらな人影に紛れて構内を出ると、数年前に建てられた高いマンションがそびえ立っている。それからやや離れた位置で、市営バスが乗降客を入れ替えていた。俺はそののん気な光景を視界から置き去りにして、ぴったり横についてくる純架と共に街道を進んでいく。
ん? どういうことだ?
「おい、いつまで俺についてくるつもりだ? それに俺の親父とお袋が離婚話で揉めているってのがお見通しだった理由、まだ聞いてないぞ」
俺の問いかけに、純架はふざけたように首を傾げた。
「まだ分からないのかい? 本当に筋肉馬鹿なんだね、君は」
「何だと?」
俺たちは午後一時の風に吹かれながら、住宅街に差し掛かった。純架はいつまでもいつまでも俺についてくる。まさか……
「そう、そのまさかさ」
俺の心の声を聞いたとでもいうように、純架は莞爾と笑った。
俺が自分の家である一軒家の前に立つと、奴は「ちょっと待ってて」と言い残し、隣の一軒家の元へ向かった。俺は度肝を抜かれて口を開けっ放しにした。
「おいおい、昨日引っ越してきた隣の家族って……」
「そうさ、僕たち桐木一家だよ」
純架は表札をこつこつと叩いた。俺が近寄ると、彼は鞄から赤い花のレイを取り出し、俺の首にかけた。
ハワイに来たんじゃねえよ。
「昨日引っ越してきたとき、僕の両親が君んちへ挨拶にいったんだけどね。どうやら君の両親は離婚の話で揉めていて、それどころじゃなかったようだ。今朝は僕の家まで聞こえるような声で怒鳴りあっていて、おかげで僕は目覚ましいらずだったよ。それが種明かしさ。で、ちょうど家を出るとき、うちの高校の制服を着た君が出発するところを目撃したってわけさ」
俺は開いた口が塞がらなかった。純架はそんな俺に「ダンカン! ダンカンこの野郎!」とビートたけしの物真似をぶつけると、平然と言った。
「そう、隣の家の君が助手なら、僕の探偵活動も綿密な打ち合わせがいつでも可能となるからね。それもあって君を誘ったんだよ。まあ今日は色々楽しかった。また明日、一緒に登校しよう。楼路君」
純架は自分の家のドアを開けると中に入っていった。俺はその優美な身のこなしを唖然と見つめるしか出来なかった。
こうして俺は、渋山台高校で起きる数々の事件に巻き込まれていくこととなるのだった。
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