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後編
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数日後、院長から驚くべき事を告げられた。
「・・・・・・と、言う訳で一週間後に大公様が当院で養子を選ぶ事が決まりました」
誇らしげに言う院長に、ミンミは唖然とした。
まさかまさかまさか・・・・・・っ!本当に?
院長が言っている事が本当なら、選ばれるのは私だ、とミンミは思った。
周囲の子供達は滅多に見れない貴族に会える事で興奮し、自分が選ばれたら良いなとは思うが流石におこがましいかと思いつつももしも・・・と思う子供達に混じって頬を紅潮させ、目を輝かせるミンミは全く別の事を考えていた。
この前見た夢はきっと神様からのお告げなんだわ!夢の中では失敗したけど、上手くやりなさい、って神様は言ってくれているのね。
ミンミは数日後が楽しみで仕方なかった。
それから数日後────。
その日ミンミは丁寧に髪を梳っていた。夢の中では自分に自信が無くてそのままだったが、せっかくなのだからきちんとしなければと思ったのだ。
孤児院の子供達が集められ、皆で大公のエサイアスを歓迎した。
「ありがとう、みんな」
優しい声音で黒髪の大公は子供達の歓迎に礼を述べた。
期待と興奮で目をキラキラさせた子供達に混じって、ミンミはさり気なくエサイアスの視界に入るように前へ前へと出た。
そうして目が合った瞬間、エサイアスの目の色が一瞬変わったような気がした。
しかし瞬時に元に戻った為ミンミは気のせいだと思った。
そう言えば大公家の人達は最後までわたしの言うことを聞いてくれなかったな。
魅了の指輪の力は、自分に対して少しでも好ましい気持ちがあれば効くアイテムなのに何故か、ヤルヴェライネンの人達には効かなかったのだ。
しかしもう夢の中の出来事は既に把握している。今度はもっとお金を出して強力なのを買えばいいのだ。
義父エサイアスと義兄ヨエルを自分の味方にした時のシュルヴィアの顔が見ものだと、今から楽しみで仕方ない。
「・・・・・・では、この子にしよう」
「え・・・・・・っ!?」
ミンミは驚いた声が出た。何故なら、選ばれたのが自分では無かったからだった。
地味で冴えないリッリだった。茶髪におかっぱの髪形、そして榛色の瞳のありふれた見た目の少女だった。
その反対にミンミは見事なストロベリーブロンドにエメラルドのような輝きを持つ瞳の美少女で、『夢の中』でもその見た目が養子として選ばれた要因である筈だ。
ど、どうしよう・・・わたしが選ばれないと困っちゃう・・・・・・!
おろおろしていたら、それから・・・と言う言葉と共にエサイアスはミンミを指差した。
「それから、彼女も」
と、ミンミが選ばれた。
「あ・・・・・・」
よ、良かった~~~・・・・・・。
そうして、ミンミとリッリはそのまま大公家の馬車に乗せられる運びとなったのだが、リッリは大公達が乗って来た豪華な馬車に乗せられたのに何故か、ミンミだけ質素な馬車に乗せられた。
夢の中では無かった事である。
秘かにショックを受けながらも口に出して文句を言う訳にもいかず、ミンミは大人しく今にも車輪が外れそうな馬車に乗り込んだ。
馬車が走り出してミンミは、ガタガタ揺れる馬車に文句を垂れ流しながら揺られた。
「ヤダもうッ! おしり痛ったッ・・・!」
大公家の馬車は本当に、こんなガタガタ道でもまるで滑るように走っていた筈である。
どうしてそっちに乗せてくれないのよ、と舌を噛みそうになりながら我慢していたが不意に馬車が止まった。
「・・・・・・? 何かあったのかしら」
まあ、こんなズタボロな馬車だから何かトラブルでも起こしたのかも、と暢気に構えて動き出すのを待った。
しかし、暫くして急に焦げ臭いにおいが辺りに漂い始めた。パチパチと言う音がしたかと思うと窓の外で真っ赤な炎が立ち上がるのが見えた。
「きゃあっ! イヤッ、どうして燃えてるの!?」
ミンミは訳が分からないまま、泣き叫びながら助けを求めた。しかし森の奥深く、誰も来ない場所で馬車を燃やされてミンミは何も始められないまま死んでしまうのだった。
「・・・・・・」
今頃ミンミは燃やされている頃だと、エサイアスは窓の外をちらりと見やった。
ミンミが夢を見たと思って未来の記憶を保持していたように、エサイアス達もまた、同じく記憶を持ったまま過去へと戻っていた。
そして彼らは自分達は時間が逆行し、過去に巻き戻ったのだと正しく理解して行動を起こした。
本来であればミンミを無視して養子にしないと言うのも手のひとつだったが、もしも他の上位貴族の養女として現われでもしたらと考えた。
あそこまで悪辣な手を考える娘である、何が何でもシュルヴィアに危害を加えようとするだろう事が想像出来た。
何故かミンミはシュルヴィアに成り代わる事に固執していたようなので、ならば出来ないように早い目に手を打つ事にしたのであった。
勿論、酷い事をしている自覚はある。もしかしたらそうならない未来もあったかもしれないと考えたが、ミンミを見た瞬間それは甘い考えであると思わされた。
ミンミは自分を見た瞬間、醜い欲望を剥き出しにした顔で此方に向かって来たのである。
ああ、これは駄目だと、此奴はきっと今回も同じ事をやるだろうと確信させた。
だから、当初の計画通りに彼女の殺害計画を実行するに至ったのである。
これが何かの物語なら、始まる前に終わってしまった事になるだろう。
しかし、これで良いのだと、エサイアスは静かに瞑目するのであった。
~END~
「・・・・・・と、言う訳で一週間後に大公様が当院で養子を選ぶ事が決まりました」
誇らしげに言う院長に、ミンミは唖然とした。
まさかまさかまさか・・・・・・っ!本当に?
院長が言っている事が本当なら、選ばれるのは私だ、とミンミは思った。
周囲の子供達は滅多に見れない貴族に会える事で興奮し、自分が選ばれたら良いなとは思うが流石におこがましいかと思いつつももしも・・・と思う子供達に混じって頬を紅潮させ、目を輝かせるミンミは全く別の事を考えていた。
この前見た夢はきっと神様からのお告げなんだわ!夢の中では失敗したけど、上手くやりなさい、って神様は言ってくれているのね。
ミンミは数日後が楽しみで仕方なかった。
それから数日後────。
その日ミンミは丁寧に髪を梳っていた。夢の中では自分に自信が無くてそのままだったが、せっかくなのだからきちんとしなければと思ったのだ。
孤児院の子供達が集められ、皆で大公のエサイアスを歓迎した。
「ありがとう、みんな」
優しい声音で黒髪の大公は子供達の歓迎に礼を述べた。
期待と興奮で目をキラキラさせた子供達に混じって、ミンミはさり気なくエサイアスの視界に入るように前へ前へと出た。
そうして目が合った瞬間、エサイアスの目の色が一瞬変わったような気がした。
しかし瞬時に元に戻った為ミンミは気のせいだと思った。
そう言えば大公家の人達は最後までわたしの言うことを聞いてくれなかったな。
魅了の指輪の力は、自分に対して少しでも好ましい気持ちがあれば効くアイテムなのに何故か、ヤルヴェライネンの人達には効かなかったのだ。
しかしもう夢の中の出来事は既に把握している。今度はもっとお金を出して強力なのを買えばいいのだ。
義父エサイアスと義兄ヨエルを自分の味方にした時のシュルヴィアの顔が見ものだと、今から楽しみで仕方ない。
「・・・・・・では、この子にしよう」
「え・・・・・・っ!?」
ミンミは驚いた声が出た。何故なら、選ばれたのが自分では無かったからだった。
地味で冴えないリッリだった。茶髪におかっぱの髪形、そして榛色の瞳のありふれた見た目の少女だった。
その反対にミンミは見事なストロベリーブロンドにエメラルドのような輝きを持つ瞳の美少女で、『夢の中』でもその見た目が養子として選ばれた要因である筈だ。
ど、どうしよう・・・わたしが選ばれないと困っちゃう・・・・・・!
おろおろしていたら、それから・・・と言う言葉と共にエサイアスはミンミを指差した。
「それから、彼女も」
と、ミンミが選ばれた。
「あ・・・・・・」
よ、良かった~~~・・・・・・。
そうして、ミンミとリッリはそのまま大公家の馬車に乗せられる運びとなったのだが、リッリは大公達が乗って来た豪華な馬車に乗せられたのに何故か、ミンミだけ質素な馬車に乗せられた。
夢の中では無かった事である。
秘かにショックを受けながらも口に出して文句を言う訳にもいかず、ミンミは大人しく今にも車輪が外れそうな馬車に乗り込んだ。
馬車が走り出してミンミは、ガタガタ揺れる馬車に文句を垂れ流しながら揺られた。
「ヤダもうッ! おしり痛ったッ・・・!」
大公家の馬車は本当に、こんなガタガタ道でもまるで滑るように走っていた筈である。
どうしてそっちに乗せてくれないのよ、と舌を噛みそうになりながら我慢していたが不意に馬車が止まった。
「・・・・・・? 何かあったのかしら」
まあ、こんなズタボロな馬車だから何かトラブルでも起こしたのかも、と暢気に構えて動き出すのを待った。
しかし、暫くして急に焦げ臭いにおいが辺りに漂い始めた。パチパチと言う音がしたかと思うと窓の外で真っ赤な炎が立ち上がるのが見えた。
「きゃあっ! イヤッ、どうして燃えてるの!?」
ミンミは訳が分からないまま、泣き叫びながら助けを求めた。しかし森の奥深く、誰も来ない場所で馬車を燃やされてミンミは何も始められないまま死んでしまうのだった。
「・・・・・・」
今頃ミンミは燃やされている頃だと、エサイアスは窓の外をちらりと見やった。
ミンミが夢を見たと思って未来の記憶を保持していたように、エサイアス達もまた、同じく記憶を持ったまま過去へと戻っていた。
そして彼らは自分達は時間が逆行し、過去に巻き戻ったのだと正しく理解して行動を起こした。
本来であればミンミを無視して養子にしないと言うのも手のひとつだったが、もしも他の上位貴族の養女として現われでもしたらと考えた。
あそこまで悪辣な手を考える娘である、何が何でもシュルヴィアに危害を加えようとするだろう事が想像出来た。
何故かミンミはシュルヴィアに成り代わる事に固執していたようなので、ならば出来ないように早い目に手を打つ事にしたのであった。
勿論、酷い事をしている自覚はある。もしかしたらそうならない未来もあったかもしれないと考えたが、ミンミを見た瞬間それは甘い考えであると思わされた。
ミンミは自分を見た瞬間、醜い欲望を剥き出しにした顔で此方に向かって来たのである。
ああ、これは駄目だと、此奴はきっと今回も同じ事をやるだろうと確信させた。
だから、当初の計画通りに彼女の殺害計画を実行するに至ったのである。
これが何かの物語なら、始まる前に終わってしまった事になるだろう。
しかし、これで良いのだと、エサイアスは静かに瞑目するのであった。
~END~
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