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第五章 幸せの刻限

49 愛の檻【4】♥

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 貴明は、笑いながら続ける。

「知っていた? 本当はずっと、こうしたかったんだ。あなたの温かな肉を全部むさぼって、すっかり骨にしてしまいたかった……あなたが泣きわめくと、とても悲しい。そして、とても、うれしい……かわいくて、たまらなくなる」

(貴明さん……泣いてる?)

 みゆきは度を超した快楽の波にたゆたいながら、貴明の声音だけを聞いて心配になる。
 貴明の声は安定しない。
 高くなり、低くなり、みゆきの腰にすがりつくようにして、中を犯しながら、いらいらと続く。

「俺は、こういう男なんだ……戦場の話も、あなたに、最後まではしなかったね? あれは、できなかったんだ。俺だって、殺しに快楽を感じていたからだよ。俺も……あの地で、魔物になっていたから」

 ぎしり、と帯が鳴った。
 みゆきが身じろいだからだった。
 みゆきはまだぼうっとしたまま、指で空中をかき乱す。

 抱きしめなくては、と、思う。
 あなたが、すきだ。

 難しいことは、わからない。理性なんかとうに飛ばされてしまった。
 だから、わかるのは、あなたが泣いていることだけで。

(泣かなくていい。悲しまなくていい。魔物でもいい。いいの)

 それが、あなたのすべてなら。
 あなたのすべてを、私にくれるというのなら。
 私は、それでいいんだ。
 私は、それがいいんだ。

 何かをつかもうとうごめく指に、貴明も気付いたのだろうか。
 ひらり、と銀色の光が頭上あたりをかすめたかと思うと、みゆきの上半身は布団の上にうつぶせに崩れ落ちた。

(あ……? 帯、斬れて……?)

 手首はまだ縛られたままだが、梁にかけられていた帯はぶっつりと斬れている。
 快楽に疲れて重くなった体は、姿勢を変えられてもすぐに動くことなどできない。
 みゆきはみっともなく尻を上げる形で布団に倒れ伏し、かすんだ目で斬れた帯を見ている。
 貴明自身はまだ中にしっかりと入ったままで、すぐに激しい抽挿が始まった。

「あぅ……ッ、はぁ……、あ、あぁっ……!」

 これだけ長々と体をかき乱されているのに、まだ感覚は麻痺しない。
 それどころか、みゆきの狭い花筒は割り開かれるたびに貴明の形を強く感じる。
 彼は執拗にみゆきの中をえぐり、削って、そこに空洞があることを思い知らせては退いていく。

「ん、んぅうっ、や、やぁ……、もう、やぁぁ!」

「もっと泣き叫んで……みゆき」

 噛みしめるように囁かれ、ひときわ強く腰をたたき付けられた。
 その衝撃が全部体の奥に響き渡り、みゆきは頭の中身が空になるような感覚に襲われる。

「ぁ! ……ぁ……ぁ」

 腰の奥に凄まじい電流が走り、足ががくがくと震えた。

(きもちいい、きもちい、きもちいい……)

 快感の天井が、急に抜けてしまった気がする。
 さっきまでぎりぎり感じていた、腹の奥をえぐられるときの痛み。
 それが、どろりと溶けてなくなる。
 裏返って、凶暴な快感になって帰ってくる。

 ごつん、ともう一度同じところを貴明自身で殴られると、今度こそみゆきは悲鳴を上げた。

「これ……きもち、ぃ……うぅ…っ……っ、ぉく……んんんっ!! ひ、あッ、な、なにか、くる、ぅッ……! あっ、きてる、ずっときてるッ……!!」

 ぱちぱちと火花の散るあの感覚に舞い上げられて、そのまま降りてこられない。
 ずっと、ずっと気持ちいい。気持ちがよすぎて、他が消える。
 何がなんだかわからない。
 自分も。周りも。何も。

「もう、なんでもいいんだな」

 苦しそうに貴明は笑っているのだけが、うっすらわかる。
 なんでもいい。そんなのは、当たり前だ。
 あなただから、なんでもいい。
 ずっと、ずっと、そう。

 貴明はそのあとも好き勝手腰を使い、やがて絞り出すように言う。

「中にあげるよ……俺の、みゆき」

 尻を叩くような音と共に貴明自身が奥に納まり、ほどなく、体内がどろりと濡れた感触があった。

「あ……」

 やっと、やっと中に出してもらえた。
 まだ充分に快感から降りてこられないまま、みゆきはぼんやりと笑う。
 やっと、ほんの少しだけ、満たしてもらった気がする。
 貴明の手が、その頭に触れて、何度か撫でてくれた。

「まだ、終われなさそうだから……諦めてね」

 貴明の言葉は、いつも優しくて、酷い。
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