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お茶会のお誘い

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 お茶会は「家庭招待会」とも呼ばれ、女性らの交流の場であった。
 社交界の噂や流行しているドレスや宝石、話題の観劇……等々、情報収集の場でもある。
 それは女性らの憩いの場だけの位置づけではない。
 もし何かしくじりを侵せば、夫や家族の顔を潰すことにもなる。
 爵位ある者の伴侶または家族が賞賛されるか。はたまた、侮蔑の対象となるか。命運を握るといっても過言ではない。
 それが貴族同士の付き合いだ。
 アンドレア侯爵夫人からお茶会の招待が届いたのは、舞踏会からしばらくしてのことだった。


 アンドレア侯爵夫人エレーナは、ルミナスの母とは従姉妹の間柄である。
 薔薇の館との別名のあるアンドレア邸は、金の飾り細工が施された大きな門からして格が違う。
 長くくねる道に沿って、大振りや小花、密集した花弁、シンプルな造作など様々な種類の、各国から取り寄せた薔薇が見頃を迎えていた。
 庭には花崗岩で造られた池の噴水が虹を作り出し、東の国から取り寄せたらしい御影石の灯籠が何故だか違和感なく調和している。東国趣味の走りとなるのだろうか。近いうちに貴族の間で、きっと流行する。池を泳ぐ錦鯉を横目しながら、すぐに上位貴族の真似をしたがる連中を思い浮かべた。
「ドロシーはまだお冠りなのかしら? 」
 侯爵夫人は、舞踏会で遠巻きに微笑んでいたあの老婦人だった。あのときと同じオーラを纏いながら、彼女は安らいだ笑みを顔中に浮かべる。
「ルミナスの母親ですよ」
 ドロシー様が誰だかわからない。首を傾げるイザベラに、夫人は笑顔で付け足した。
「し、失礼しました! 」
 夫の母親の名前さえ知らなかったとは。幾ら偽装結婚といえど、勉強不足にも程がある。
 恐縮して身を強張らせるイザベラに、夫人は屈託ない笑みのままだ。
「仕方ないわ。少しも顔を見せないのだから」
 言うなり、外国産の青い茶葉で淹れた茶を口に含む。これも、おそらく何ヶ月か先には流行するのだろう。
「未だに王都の屋敷に引き篭もっているのでしょう? 」
 紅茶とは違って、鮮やかな緑のお茶は、舌に多少の苦味がある。
 その慣れない味が、余計にイザベラを鬱々させた。
 ルミナスの母は、イザベラが嫁入りしても知らんぷりで、一切、反応を寄越さない。
 平民風情が、爵位ある息子を誑かしたのだ。平気でいられるわけがない。
「気になさらなくて良いわ。あなたが原因ではないから」
 夫人は慰める。
「ルミナスがミレディと結婚すると宣言したときからだから。もう丸八年かしらね。それからよ」
 懐かしそうに夫人は目を閉じた。目尻の皺がより深くなる。
「ルミナスの結婚に大反対で。もう、その剣幕の凄さといったら」
 思い出したように笑う。
 初耳だった。
 

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