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[ No−6 ]

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「いいのよ、ケビン…。ケビンのせいじゃないわ。私も幼かったのよ…。でも、やっぱり屋敷に戻るつもりはないわ。いずれケビンも結婚するんだから、行き遅れの小姑がいたら邪魔だもの…。だから、一人でも食べていけるように、仕官したんだから…」

「ティア…今は、無理にとは言わないよ…。でも必ずあの叔母は、追い出すから…。それまでは、私が借りてるアパートに、住んでていいからね。騎士団の二年目だと、まだ勤務時間が不規則で、夜勤も多いんだよ。
だからいちいち屋敷に戻るのは面倒だから、城の近くに部屋を借りてるんだ。
ティアの荷物は、そこに届いてるよ?確認してからと思って、そのまま置いてあるから、部屋に行こう」

「ええ…。でもその前に、お父様たちへ帰って来た報告をしたいわ。何年も、墓参りをしてないもの…」

「そうだね…。じゃあ花を買って、墓参りをしてから行こう。今日は休みを変わって貰ったから、ずっと一緒だよ」

その後、ラビスティアは宿を引き払い、ケビンの用意した馬車に、荷物を持って乗り込んだ。そして小高い丘にある両親と兄が眠る墓参りを済ませてから、ケビンが借りているアパートに向った。

「ティア、ここが私が借りてるアパートだよ。城からは、歩いても15分程の場所なんだ。便利だろう?部屋の中も意外に広いんだよ?さぁ、中に入って…」

ラビスティアは、ケビンの後に続いて建物の入口に入ると部屋は二階だった。
部屋の中に入ると、ケビンの言った通り、広めの居間にキッチンと浴室があり、奥にはベッドルームが二部屋あった。

「ティアは、こっちのベッドルー厶を使っておくれ。こっちの方が、クローゼットが大きいから、いいだろう?
そう言えば、送られて来た荷物が少ないみたいだけど、まだ届いてないのかな?」

「違うのよ。古いものは処分して来たの…。新しく、こっちで買い揃えようと思ってね…。でも、ケビンがこっちの部屋を、使った方がいいんじゃない?こっちの部屋の方が中は広いわよ?」

「いいんだ。私は殆ど寝に帰ってくるだけだから、向うの部屋でいいよ。
あぁ…そうだ!今迄、通いのハウスキーパーを、週二回頼んでたんだが、新しく通いの侍女を雇うかい?」

「えっ?要らないわ。ハウスキーパーも必要ないわよ?家事は私が出来るもの…。今迄だって、食事の支度も、掃除も洗濯も、自分一人でしてきたのよ?問題はないわ」

そうラビスティアが言うと、ケビンは顔を歪ませ、ラビスティアを抱きしめた。

「ティアは、伯爵令嬢なのに、そんな事までしてたんだね…。侍女や身の回りの事をする者もいなかったのか…。
叔母は、向うで下女がいるから、何不自由なく暮していると言ってたのは、嘘だったんだな…クソ!!なんて酷いんだ。仕送りの金は、ちゃんと届いてただろう?」

そう言われて、ラビスティアは悩んだが、本当の事を伝えた。

「実は黙ってたんだけど、学園の卒業近くから、お金が毎月減らされて…。
学園を卒業してからは、仕送りは来てないわ。だから、家に帰る旅費もなく、卒業と同時に直ぐに、士官先を紹介して貰い働いたの…。
きっと家に、帰って来ないようにする為だと、わかったもの…。だから私は、もう二度とこの国には、帰らないつもりでいたのよ…」

ラビスティアがそう告げると、ケビンは怒りで、肩を震わせていた。

「あの女!もう許さない!!つい最近だって、ティアから、仕送りの追加の催促が来たからと、20万マイル寄こせと、言ってきたんだぞ!!
それなのに、今迄ティアに仕送りをしないで、自分の懐に仕舞っていたのか!!もう、騙されないぞ!!全部裏を取って、家から叩き出してやる。叔父上の事も信じないぞ!!」

それを聞いたラビスティアは、慌ててケビンを止めた。

「ケビン、待って、いきなり追い出すのは駄目よ!!ちゃんと証拠を集めてからよ。でなければケビンが悪く言われるわ。
まず、叔父様達とは関係のない、信頼出来る者を雇い、家の管理をさせるのよ。きっと今の執事では、懐柔されてるから無理よ…。
それに、ケビンも仕事で忙しいから、全ての事に、目を向けるのは難しいでしょ?
まずはそこからよ?そして叔父夫婦には、勝手にツケで、買い物が出来ないようにして、金も渡さないようにね。きっと財産を食い潰している筈よ?破産する前に急がないと…」

「あぁ…解ったよティア。直ぐに取り掛かるからね。やっと私が、当主になったんだから、もう好き勝手にはさせないぞ。
屋敷の無駄な使用人も減らして、あの女をこき使ってやる!!」

「まぁ…ケビンったら!
あっ!そうそう…ミューズ伯爵に、贈り物があるの♪ご当主様に、気に入って貰えると嬉しいんだけど…」

「ティア、からかうのは辞めてくれよ…そんな言い方…。でも、何かな?楽しみだな♪」

ラビスティアは、クスクスと笑いながら、マジックボックスから、懐中時計が入った箱を取り出すと、ケビンに差し出した。

「はい!これなの…ここへ向う途中で見つけたのよ?」

ケビンは、箱を受け取ると、青いリボンを解いて蓋をあけた。

「ティア、凄いじゃないか?!素敵な懐中時計だね♪んっ…?これって…ラーシアの懐中時計だ!!高かっただろう?!」

そう言ってケビンは、懐中時計を手に取ると、蓋を開けて興奮していた。

「ラーシア?!名前は覚えてはいないけど、趣きのある店で、年代物の時計が並んでいたわ。その懐中時計は、御店主の勧めで購入したの。蓋の所の青い石は、魔石でアミュレットでもあるんですって。だからケビンにピッタリだと思ったの!石の色も、ケビンの瞳の色に近いでしょう?」

「あぁ…嬉しいよ♪ティア大切にするからね。ありがとう」

そう言ってケビンは、早速今持っている懐中時計を取り出すと、鎖から時計を外して、付け換えた。丁度ケビンの持っていた懐中時計の鎖も銀色だったので、ピッタリだった。

「ティア、王都は久しぶりだろう?荷解きは後にして、この辺を見て歩こう。普段私は、食事も外食ばかりだから、食材も買わないといけないし、外で昼食を食べてから買い物をしよう」

「そうね。近くの店も、覚えなきゃいけないわね。買い足す店の場所も知りたいわ」

そう言って二人は部屋を出ると、近くの食堂で昼食を食べてから、食材を買い求めていった。

二人の楽しそうに買い物をしている姿は、大変目立っていた。二人共、美しいプラチナブロンドの髪にブルーの瞳の、美男美女だったからだ。
二人が寄り添い微笑みあっている姿は、一枚の絵画のようで、道行く人は振り返り、頬を染めて見つめていた。

そんな事には気付かない二人は、沢山の荷物を持ち部屋に戻った。
それからケビンは、ラビスティアの荷解きを手伝い、大まかな片付けを済ませた。
そして、ラビスティアが作った夕食を食べながら、仕事の始めた。

「初めてティアの手料理を食べたけど、どれも凄く美味しいね!誰に教わったんだい?まるで、店の料理じゃないか♪」
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