悪魔と契約した少女

ばんご

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誰かに認められなくても

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ここまで辿り着くまで、3年という月日が経ってしまった

本当はすぐに陽菜の元へ行きたかった
けれど、それはできなかった

今の俺は、樹としてではなく、リアムとして
自分の存在を歩んでいかなくてはいけないから

その為に、さまざまな準備が必要だった

サタンは願いの代償を変えた
その内容は、樹としての人生、容姿を捧げ
リアムとしての容姿で、新しい人生を歩むこと

今の自分が失くなってしまうのではという
思いもあった
けれど、戸惑いによる恐怖心はなかった

自分自身と向き合うことができたことにも
よるかもしれない

どんな形でも、人として陽菜に触れて、言葉を交わし笑い合えることができる
それだけで十分だった

けれど、現実は厳しかった
親も身寄りもない、容姿も気味悪いと言われるそんな人生の始まりは厳しく、辛いものだった

罵倒され、嫌がらせされるのも日常茶飯事
以前の自分は、恵まれていたことに痛感した

樹としての俺は、体質によって気味悪いとされていても、危害を加えることはしなかった
噂されるだけだった

きっと人は噂しないと気が済まない
噂の対象が、人だとしても彼らは同じ人として見ていなかった

異質な存在だと思っていたのだろう
そうすることで自分を守っていたのかも知れない
それが、彼らが自分を否定しているという顕

それでも望みは捨てきれなかった
いつか、そんな自分を受け入れてくれる存在がいるのではないかと


そんな過酷な日々を過ごしていく中で、月日は過ぎあっという間に成人した歳になった

樹が死んだ歳、20歳

自分の容姿を改めて見るが、まだ実感が湧かない
漆黒の髪に、赤い瞳 悪魔と呼ばれても納得がいく

けれどあの時のように、背中に黒い翼は持たず
青白い手ではなく血色がいいし、鋭い爪もない

鏡の中に映る自分は、おとぎ話に出てくる冷酷な案内人のようだ

けれど最後には、主人公たちをハッピーエンドに導く重要人でもある

そんな例えに、自分は思った
樹としての自分を振り返るのはやめよう
リアムとして生を受けたのだから、この容姿を活かそうと

何故容姿が異端だからって、怯える必要がある?
そいつらに受け入れてくれると思う必要がある?
その為に悩んだ時間が、馬鹿馬鹿しく思えてきた

『俺は樹じゃない、リアムなんだ
 誰かに認められなくてもいい
 俺は、俺なんだ』

どんな視線で見られようと、噂されようとも
関係ない
否定するならすればいい、それしか脳がないのだろう

周りが自分を否定する資格なんて、ないのだから

そして、3年が経ち 陽菜の高校卒業の時が
やってきた

こんな長いこと待たせて、怒ってるだろうなと
思いながら校門前で、佇んでいると黄色い歓声が聞こえた

やっぱり、自分は存在感があるらしい
周りの人達は、俺を見つめる
顔を赤らめる人もいれば、悶えてる人もいる

立ち去りたい気分に駆り立てられるが、それはできなかった

お互いに待ち望んでいた瞬間が、目の前にあったから
俺はその存在に気づくと、優しく微笑みを返した

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