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第一章・異世界に転生

14・そういう世界線

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 いつだって優しかった先輩が、僕との待ち合わせには行かないと言っている…そんなに?そんなに迷惑だったのだろうか…
 
「いいんだ……行かなくて。告白されたんだ!好きだ…って。そんなの無理だろ?相手は男だぞ!」

 ──分かってる!無理なのは…でも…

 「はぁっ?男から好きだって言われたのか!?加納は相変わらずモテるね~とうとう男にまで!でも受験のお守りを渡したいとか書いてあったんじゃなかったっけ?それも受け取らないのか?」

 それには一層不機嫌そうな顔をした先輩が、眉間に深く皺を寄せる。

 「そんなの要らないよ…期待させるだけだろ?受け取ったら。あの後輩、いい子ではあるんだよ…だから尚更行けない!ハァ…でも何でそういう意味で好きなんだ?俺はそんな対象には見れっこない!そんなのよくある小説みたいに、男同士でも結婚が当たり前な世界線に、転生でもしない限り無理だと思わないか?」

 彬良先輩がそう言うと、相手の友人が確かに!と声を上げる。それから二人は、アハハッ!と可笑しそうに笑っていて…
 僕は居た堪れずその場から走り去った。頭の中で何かがガンガンと鳴り響き、何も考えられない!恥ずかしさと悲しさで走りながら涙が止まらなかった…

 ──悲しい…。あれは幻だったのだろうか?僕と先輩の間には、お守りを受け取って貰えるほどの愛情も無かったのだろうか…?と愕然とする。僕って、ホント馬鹿だな…

 「ウッ…ハァ…グスン」

 ハァ…悲しい…馬鹿だ…ん?

 僕は我に返ってバッと飛び起きた。あれ…?頬を触ると涙で濡れている。夢の中で泣いていて、本当に泣いちゃってた…?

 だけど何だろう?さっきの夢は…前世の記憶なんだろうか?
 夢だったと分かっても、後から涙が溢れてくる。そのくらいの悲しい記憶だった…
 彬良…先輩?その人を前世の僕は好きだったんだね。

 流れ落ちる涙を拭って心を落ち着ける。そういえば、前世の僕ってどんな人だったのかな…
 まるで記憶が抜け落ちたように、さっき見たような細かな出来事は覚えていない。特に高校生の時の記憶は…

 逆に幼い頃とか、小学生の時の記憶はあるんだけど…夢の中でも言っていたように、叔父さんが鉱物や宝石のコレクターだったこととかは直ぐに思い出していた。だから今世で僕の魔力が「土」で、その探知が得意だというのは前世との縁を強く感じて…

 だけど、偶然なの?って思う。さっきの夢…どうも詩音という名の僕が失恋したようだ。そして、その相手である彬良先輩が言っていたことが気にかかる。

 『男同士でも結婚が当たり前な世界線に転生』
 
 まさしく今僕が転生したのはそんな世界だ…。僕がそう望んだの?先輩がそう言ったから?
 偶然なのか必然なのか分からない。だけど、もしかしたら前世の僕の死に関係があるのか?

 死んだ経緯を覚えていないのに、何故だか死んだ時期は高校生の時だったのだと記憶がある。そして夢で見たあの失恋と関連があるのかもしれない。あれほど傷付いているのだから真実を知るのはちょっとだけ怖いような気がするけど…

 「また今朝みたいに前世の記憶を思い出して泣くのかな?」
 
 思わずそう呟いた。だけど僕はまだ、全然分かっていなかった。この世界に転生した意味を…そして、自分がこの先どんな運命を辿ることになるのかを…
 

 ※ゴールデンウィーク中は不定期公開とさせていただきます。よろしくお願いします。
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