【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko

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「王太子殿下に婚約者候補をご紹介頂けるなんて、名誉な事じゃ無いか。
 それに、西の辺境伯様であれば、妻になる女性を護る為の権力や武力を充分過ぎる程に持っていらっしゃるだろう。
 大事な娘を安心してお任せできる」

 邸に帰って報告すると、父もかなり乗り気だった。
 マーヴィンだけは、終始不服そうな顔をしていたけれど。



 釣書と姿絵をお互いに交換して、あちらからは婚約を希望する旨の書簡が届いた。
 私の事を気に入って頂けたのだとは思えないけど、ご友人とは言え王太子殿下の勧める縁談は断り難いのだろうと思う。



 それから間も無く、王太子殿下の口添えのお陰で、ジェフリーとは無事に婚約解消が出来た。
 もしかしたらジェフリーはまだ納得していないのかもしれないが、王族からの書簡まで届いたのではどうする事も出来ない。
 侯爵は息子の意向を無視して、粛々と解消の手続きを行ったらしい。



 そして約一ヶ月後。
 王宮の一室で王太子殿下立会の元、私達の顔合わせが行われる運びとなったのだ。



 当日のバッセル伯爵邸は、早朝から異様な熱気と緊張感に包まれていた。
 いつもより二時間以上も早く叩き起こされて、侍女達に湯殿に放り込まれる。
 じっくりと時間を掛けて磨き上げられ、肌や髪が自分の物とは思えない位に艶々になった。

 デビュタントの時でさえここまででは無かったと言う程の力の入れように、私は戸惑うばかり。
 それ程迄に今回の縁談は良縁だと思われているのだろう。
 『絶対に逃すな』と言う無言の圧力を感じて、私は少し身震いした。

 化粧とドレスで完璧な武装を施して姿見の中を覗くと、なかなか美しい女性がそこに居た。
 だが、残念ながら、やはりその表情は冷たく、お世辞にも可愛らしいとは言い難い。
 試しにちょっと微笑んでみるが、ニヤリと悪巧みをしている様な顔になってしまった。

「……お嬢様は無理に笑おうとはなさらない方が宜しいかと…」

 幼い頃から仕えくれている侍女が、残念な物を見る様な目でそう言った。

「そうね。自分でもそう思うわ」

 同意を示すと、その場にいた全員がホッとした様に深~く頷いた。


 馬車に乗り込み、王宮へ。
 向かいの座席には父が座っている。
 父もかなり緊張しているみたいだけど、あまり表情には出ていない。
 私の無表情は父譲りだ。

「少し落ち着いたら如何ですか?」

「そうしたいのは山々だが、これが落ち着いていられるか?」

 無表情のままそう言い放った父は、忙しなく両手を組んだり離したりを繰り返している。

 王宮騎士でもある父にとっては王宮は職場とも言えるのだが、父が常駐している場所は、今向かっている王族の居住スペースとは棟が異なる。
 それに加えて娘の見合いの席であると言う事も、緊張を増す原因の一つなのだろう。
 しかもそのお相手は、ウチよりもずっと家格が上の辺境伯なのだ。

 因みにマーヴィンを連れて行くと、前回の様に棘のある発言をしかねないので、今日は留守番をさせている。



 受付を済ませた後は、前回同様に警備の騎士に案内されて、王太子殿下の居住スペースの奥へと足を進める。
 通されたのは前回よりも少し広い部屋だった。
 辺境伯様は既に到着されており、王太子殿下と談笑なさっていた様だ。

 私達が入室すると、お二人が立ち上がって迎えてくれた。


「初めまして、フェリシア・バッセルと申します。
 本日はよろしくお願いいたします」

 私がそう言うと、何故か彼の眉間の皺が少しだけ深くなった……、様な気がした。
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