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「まぁ!お茶をかけられたお母様はどんな反応をされたの?」
「反応……ですか?何かを言われる前に温室を出たので、その後どうなったかは知りません」
「ハル様が去った後の温室の空気は最悪でしょうね」

 そう言ってコルデア皇女は小鳥が鳴くようにクスクスと笑った。
 ラファエロ皇子の妹であるコルデア皇女は、曲者揃いの皇族の中で唯一私が気を許せる存在だ。

 皇族の証である金髪に金眼を持つ皇女は、優しい笑顔を浮かべる姿は、妖精のようで美しいというより、愛らしいという言葉がよく似合う。

 皇后に呼び出されて疲れた心身や、日々の疲れを皇女に癒してもらうのが、最近の日課となっていた。

「お母様は意地悪が過ぎるのがいけないわね。そうすれば、お父様もお兄様もお母様を避けることがなくなるかもしれないのに……」
「…………」

 皇女から皇后と皇帝、皇子の関係性を聞いていたから、皇后がこれ程までに私に関わろうとするのは、寂しさからくるものだと思っていた。

 だから、今まで耐えてきたけれど、もうこれ以上は耐えれなかった。

 肩を落とす私を皇女は心配そうに見ている。

「お茶をかけるようなことが何かあったのですか?」
「ラファエロ皇子が……、元の世界に帰ることが出来ないと言ったんです」
「そんな……!」

 私の言葉に皇女は息を呑んで驚いた顔をした。
 今まで私がどれほど頑張っていたのか知っている皇女が驚くのは無理はない。と思うと同時に私は安心した。

 よかった……。コルデア様は聖女が元の世界に帰れないって知らなかったのね。
 
 コルデア様まで私を騙していたなら、立ち直れそうになかった。

「ハル様は元の世界に帰るために頑張られていたのに……」

 そう言って皇女は泣き出しそうな悲しい顔をした。

 ここまで私のことを思ってくださるなんて……。

「コルデア様は聖女について何か知っていることはありませんか?」
「お父様は聖女について何も教えてくださらないけれど。以前、気になって調べていたことがあります――」

 そう言って、皇女は聖女について知っていることを話し出したけれど、その内容は既に知っている内容だった。

 皇帝は皇女が国政に関わることを嫌っていた。

 皇帝や皇子に聖女について直接聞くしかないのか。それとも、テオドア様が調べてくださるのを待つことしか出来ないのかと思っていると。
 
「そういえば!お父様が神官達と話しているのを聞いたことがあります。聖女は城の地下に眠っていると……。聖女のことを調べるなら、城の地下に何か秘密があるかもしれません」
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