転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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与太話

役得じゃない

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息子ちゃんの恐怖体験



 ファンテールにきて数日後、俺は夜会にお招きされた。
 公式の大きな夜会じゃないつったくせに!
 ひと! おおい!!
 煌びやかーな感じで、俺浮いてるだろ、と!
 正直、こういうところに一人で来るべきじゃないと思う。俺、超、目立ってる。
 ガブ様の兄上様、ミカエラ様に紹介されあたりさわりない話をして別れる。
 皇王から声がかかるって何者ーみたいな視線を受けるけど、どこからか俺の素性は知れたらしく。
 そのうち探る様な視線はなくなった。
 そ! し! て!
 突然の俺、モテ期!
 なんかしらんが周りに綺麗なお嬢さん達がたくさんいる。なに、なんだこれ。
 どういうことだろうか、甘んじていいんだろうか!!
「どうしてこちらに?」
「公爵を継ぐ前にしばらく自由にと父母に願いまして、一人旅を」
「まぁ! どんなところに行かれましたの?」
 と、お嬢さん達からの質問攻め。
 根掘り葉掘り、なんか余計なことまできかれて答えてしまった気も、しないでもないけれど!
 そうたとえば、恋人も婚約者もいない、とか。
 そう知った途端お嬢さん達の圧が強まった。
 しかもそこにガブ様がきて、ダンス踊ってやりなよほらほらとか、言うもんだから!
 俺は全員と踊る羽目になって!
 ちょ、いや、さすがにひとりふたりならまぁ、なんだけど。10人越えては、さぁ!
 最初はひとりふたりでそれじゃあってしようと思ったんだけど、次から次へとタイミングのがさずやってきて、断り辛いというか。
 断るなよ、っていうような、目力が、ですね。
 俺、他国の人間なのになんでこんなに食いつきが良いのか。
 そう思ってたんだけど、俺はもう後継ぎ確定でフリーとかいう好物件であることに気が付く。
 ああああー、他国に出てもいいから地位安定というか、ある程度の水準を保てる家ってことかー。
 けどね!
 俺の親父殿とおかんはちょっと、普通の貴族じゃないから。そのへんについてこれないとつらいんじゃないかなぁと思う。
 つまりそれを許容できる子が俺の最低水準かなーとか、今更ながらに考え始めてしまった。
 好きな相手がいいし、そういう人と出会いたいなぁとは思うけど、俺貴族だしなぁ。
 けどこのままだと、シエラがウッ。やだそれ尻に敷かれる未来しかねーじゃねーの。
 それでも、ダンスのステップ間違えることがないのはしこたま親父殿に叩きこまれたからだろう。おかんはおかんでわざと足踏んでくるし。
 いやあれは普通に下手だったのかもしれないけど。
 それにしても、だ。
 次から次から、お嬢さん達は俺に身体をぴったりくっつけようとしてくる。
 いや、その。胸とかあたってやわらかいなぁとは思う。役得! って最初は思ってたけど、もう食傷気味です。
 まさかこんなところで自分の女の子の好みを知るとは、という。
 やっぱり女の子はおとなしくってかわいくってー!
 そうだよ! 俺の周りにいる女子って、なんか知らんが男勝りみたいなタイプが多かったんだよ!!
 趣味が刺繍です、お菓子作りですみたいな女の子との出会いください!!
 そう、思っているとやっとダンスも終わって。
 やばいな、このままここにいるとまた絡まれる。
 夜会で魔術とか、アウトなんだろうけどまぁ、逃げるだけだし。
 さりげなーく逃げて、さりげなーくバルコニーに出て姿を消す。
 周囲からこれで見えなくなるわけだ。
 はー、とため息ついて、俺はその場にしゃがみ込む。
「あー、めんどくさ……もう帰っていいかな……」
 夜会ってこんなにめんどくさかったっけー? いつも国でこういうのに出てないから慣れない。
「雰囲気は別に嫌いじゃないんだけどなぁ……」
 賑やかで楽しげな雰囲気は好きだ。でもさ、知ってる人なんていないに等しくて、物珍しそうに好奇の視線を向けられるのは飽きるというか、めんどいというか、しんどい。
 俺、こういうのより屋台とか見て食べ歩いたりの方が楽しいしなー。
 よし、そうしよ。ひとまず、帰って服着替えて。
 ここには親父もおかんもいないから夜遊びちょっとくらいしたってー!
 挨拶なしで帰るのも悪いしな、と魔術解いてひとまずガブ様のとこへ。俺はもう帰るんでーと言うとああそう、気を付けてと笑われて。
 お、なんかさらっと帰れる? と思った俺が、甘かったんだよ!!
「帰っちゃうんです?」
「あっ、はい」
「あの、またお会いしたいのですけど! どちらにお泊りで?」
「えっ、どちらにって……国の……」
「では明日、遊びにいってもよろしくて?」
「あ、ちょっと抜け駆けなんてずるいわ!」
「イライアス様! 私とお約束してくださいますわよね!?」
「えっ!?」
「あら、あんたみたいなぺちゃぱい相手にされるわけないじゃない! 私とですよね?」
「おばさんはさがってて!」
「な、なによ! 一つしか違わないくせに!」
 や、ちょ、なにこれ。
 なにこれこわい。
 俺の両腕はしっかりとつかまれている。逃げられない。しかもその、なんていうか。
 すごい、力で、だな?
 爪が食い入ってきているような、服越しなのに!! そんなにしっかりアイタタタ!!
 俺を挟んで数人が、ものすごい言葉でものすごいののしりあいをしてものすごいいきおいで俺に迫ってくる。
 これ役得でもなんでもない。
 ただただ、こわいにつきる。
 こわい。
 おんなのここわい。
 その日、俺がどうやって帰ったのか覚えてないんだけど、気が付いたらちょっとぼろっとなって泊まってる部屋にいた。
 うん。さっさとここからおさらばしよう。
 そう俺は決めた。
 ごまだれとポン酢のために……!



夜会の隅っこでものすごいたたかいが繰り広げられ、いい加減にしなさいと偉い人に言われて終わったんだと思います。
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