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本編
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ディートリヒ様との旅路は問題なく進み、明日には国境というところでした。
その国境の街は山間の城壁都市。高くそびえる城がシンボルであり、そこは王家直轄。
明日はそこで過ごすということになるようです。表向きは。
わたくしとディートリヒ様、それとハインツと数名の護衛のみで国境を越えて近くにある小さな城へと向かうとのこと。
そちらで人と会うのだと教えてくださいました。
「ねぇ、お会いする方のお名前も知らないのは失礼ではないかしら」
「ああ……先王の子、サレンドルだ」
「サレンドル様……」
年齢はディートリヒ様と同じくらいだそうです。
どんな方が出てくるのか、わたくしは少し楽しみでした。
父王を殺され、そして身を隠していたのでしょう。そして自分が正当なる王だと名乗り出ようとしているのですから。
ディートリヒ様はその方がその権利を取り戻した時、どういった対応をとるのかのお話をするのでしょう。
国境の城に到着し、そちらの管理人である方達と顔を合わせ。
ディートリヒ様は城の中にある庭へとわたくしを案内してくれました。
季節の花々が咲き手入れの行き届いた庭は見事な物でした。
「ここに来たなら、庭は自慢の一つだから見せておきたかった」
「あとで誰かに尋ねられたら困りますものね」
「……まぁ、そうだな」
ディートリヒ様の返事は苦笑交じりで。わたくしはなにか変なことを言ったかしらと首を傾げます。
手を差し出さ、おいでと言われて。わたくしはそれに従いました。
「俺はお前を大事にしている、ようにみえるか?」
「見えると思いますが」
「なら、良い」
何が良いのか。
しかし、誰に見られているかもわからないこういった場所では夫婦らしくあるのが一番なのでしょう。
庭を歩きながらディートリヒ様は明日のことを話してくださいます。
朝早く、馬で駆け。話をするのは一、二時間くらい。そのまま、こちらに夕刻には戻るとのこと。
なかなかの駆け足日程です。わたくしはついていかない方が動きやすいのではなくて、と思ったのですがあちらがわたくしに会いたいと言っているそうなのです。
「明日、サレンドルに会うのは久しぶりだ」
「お友達でいらっしゃるの?」
「友人……ではないが。互いに認めてはいる」
「そうですか。ディートリヒ様が認めていらっしゃるのなら、気を抜くとやり込めてしまわれる相手ということですのね」
「お前がやり込められるとは思わないが」
油断せずに行くのは必要なことですのよ、とわたくしは言います。
相手を舐めてかかって痛い目に合うのは嫌ですから。
「ところで、そのサレンドル様とはどういったお話を?」
「色々だ」
まぁ、それはさすがにお答えいただけないとは思っていましたが。
きっとディートリヒ様が情報としていただくのはいつ、事を起すかでしょう。
それからセレンファーレさんの事について。あちらがご存じかどうかは知りませんけれど。
しかし、元公女の娘であれば欲しいと仰るかもしれませんが。
ああ、でも。
彼女はこちらではなく新たな王を戴くヴァンヘルの姫として、リヒテールに向かうことも可能ではあるのでしょう。
しかしディートリヒ様がそれをお許しになるかは、また別の問題です。
「お話、うまくいくと良いですわね」
「ああ。非公式だが……交わした言葉を違えるような男ではない」
そうですか、とわたくしは頷きます。
サレンドル様はどんな方なのか、お会いするのが少し楽しみになってきました。
それから夜は城で管理人たちと話をしつつ、美味しい料理を出していただき楽しむことができました。
周辺で採れた野菜、それから鹿などこの地ならではのものをふるっていただいたのです。
夜は、ディートリヒ様が酒に少し寄って良い気分でいらして、わたくしはそういうつもりはなかったのですが言いくるめられて事に及んでしまいました。
明日、馬にご一緒するわたくしの負担を考えてと言ったのですが大丈夫だの一点張りで。
大丈夫ではないと言ってなんとか一度で止めました。場所が変わればお前の気持ちも変わるか、流されるかと思ったのだがと言われ、そんなに簡単に変わるものではないとわたくしは怒ったのです。
というよりわたくしのどんな気持ちを変えたかったのか。何を考えていたのかはよくわかりませんし問いかけるタイミングを逸してしまったので、問う事も出来ず。
結局何が言いたいのかわからぬまま、夜は過ぎ朝となりました。
朝も軽く朝食もいただいて、表向きは遠乗りに行くと――わたくしたちは国境を越えたのです。
国境といっても線が引いているわけでもなく、曖昧な場所ではあるのですが。
しかし、約束の城のある場所はヴァンヘルです。
罠は無いのですかと思ったのですが、あれは普通は使われぬ、そして見向きもされぬ城らしいからなとディートリヒ様は仰いました。
それに、先にディートリヒ様の使いの者が入っているとのこと。
もし何かあればすでに知らせが飛ばされていると言うのです。
色々と面倒な用意をして、大丈夫だと思われたからわたくしを伴って来たのだと察しました。
緑が途切れる先、小さな城が見えてきます。
石造りの堅牢な城といった印象でしょうか。
開いている城門、そこで礼をとる者達を見てきちんとした体裁は整っているのだと思えました。
その国境の街は山間の城壁都市。高くそびえる城がシンボルであり、そこは王家直轄。
明日はそこで過ごすということになるようです。表向きは。
わたくしとディートリヒ様、それとハインツと数名の護衛のみで国境を越えて近くにある小さな城へと向かうとのこと。
そちらで人と会うのだと教えてくださいました。
「ねぇ、お会いする方のお名前も知らないのは失礼ではないかしら」
「ああ……先王の子、サレンドルだ」
「サレンドル様……」
年齢はディートリヒ様と同じくらいだそうです。
どんな方が出てくるのか、わたくしは少し楽しみでした。
父王を殺され、そして身を隠していたのでしょう。そして自分が正当なる王だと名乗り出ようとしているのですから。
ディートリヒ様はその方がその権利を取り戻した時、どういった対応をとるのかのお話をするのでしょう。
国境の城に到着し、そちらの管理人である方達と顔を合わせ。
ディートリヒ様は城の中にある庭へとわたくしを案内してくれました。
季節の花々が咲き手入れの行き届いた庭は見事な物でした。
「ここに来たなら、庭は自慢の一つだから見せておきたかった」
「あとで誰かに尋ねられたら困りますものね」
「……まぁ、そうだな」
ディートリヒ様の返事は苦笑交じりで。わたくしはなにか変なことを言ったかしらと首を傾げます。
手を差し出さ、おいでと言われて。わたくしはそれに従いました。
「俺はお前を大事にしている、ようにみえるか?」
「見えると思いますが」
「なら、良い」
何が良いのか。
しかし、誰に見られているかもわからないこういった場所では夫婦らしくあるのが一番なのでしょう。
庭を歩きながらディートリヒ様は明日のことを話してくださいます。
朝早く、馬で駆け。話をするのは一、二時間くらい。そのまま、こちらに夕刻には戻るとのこと。
なかなかの駆け足日程です。わたくしはついていかない方が動きやすいのではなくて、と思ったのですがあちらがわたくしに会いたいと言っているそうなのです。
「明日、サレンドルに会うのは久しぶりだ」
「お友達でいらっしゃるの?」
「友人……ではないが。互いに認めてはいる」
「そうですか。ディートリヒ様が認めていらっしゃるのなら、気を抜くとやり込めてしまわれる相手ということですのね」
「お前がやり込められるとは思わないが」
油断せずに行くのは必要なことですのよ、とわたくしは言います。
相手を舐めてかかって痛い目に合うのは嫌ですから。
「ところで、そのサレンドル様とはどういったお話を?」
「色々だ」
まぁ、それはさすがにお答えいただけないとは思っていましたが。
きっとディートリヒ様が情報としていただくのはいつ、事を起すかでしょう。
それからセレンファーレさんの事について。あちらがご存じかどうかは知りませんけれど。
しかし、元公女の娘であれば欲しいと仰るかもしれませんが。
ああ、でも。
彼女はこちらではなく新たな王を戴くヴァンヘルの姫として、リヒテールに向かうことも可能ではあるのでしょう。
しかしディートリヒ様がそれをお許しになるかは、また別の問題です。
「お話、うまくいくと良いですわね」
「ああ。非公式だが……交わした言葉を違えるような男ではない」
そうですか、とわたくしは頷きます。
サレンドル様はどんな方なのか、お会いするのが少し楽しみになってきました。
それから夜は城で管理人たちと話をしつつ、美味しい料理を出していただき楽しむことができました。
周辺で採れた野菜、それから鹿などこの地ならではのものをふるっていただいたのです。
夜は、ディートリヒ様が酒に少し寄って良い気分でいらして、わたくしはそういうつもりはなかったのですが言いくるめられて事に及んでしまいました。
明日、馬にご一緒するわたくしの負担を考えてと言ったのですが大丈夫だの一点張りで。
大丈夫ではないと言ってなんとか一度で止めました。場所が変わればお前の気持ちも変わるか、流されるかと思ったのだがと言われ、そんなに簡単に変わるものではないとわたくしは怒ったのです。
というよりわたくしのどんな気持ちを変えたかったのか。何を考えていたのかはよくわかりませんし問いかけるタイミングを逸してしまったので、問う事も出来ず。
結局何が言いたいのかわからぬまま、夜は過ぎ朝となりました。
朝も軽く朝食もいただいて、表向きは遠乗りに行くと――わたくしたちは国境を越えたのです。
国境といっても線が引いているわけでもなく、曖昧な場所ではあるのですが。
しかし、約束の城のある場所はヴァンヘルです。
罠は無いのですかと思ったのですが、あれは普通は使われぬ、そして見向きもされぬ城らしいからなとディートリヒ様は仰いました。
それに、先にディートリヒ様の使いの者が入っているとのこと。
もし何かあればすでに知らせが飛ばされていると言うのです。
色々と面倒な用意をして、大丈夫だと思われたからわたくしを伴って来たのだと察しました。
緑が途切れる先、小さな城が見えてきます。
石造りの堅牢な城といった印象でしょうか。
開いている城門、そこで礼をとる者達を見てきちんとした体裁は整っているのだと思えました。
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