17 / 65
恋人編
1
しおりを挟む
――――起きたら伝えようと思ってたの。あなたが大切だと。
そう思っていた時が、私にもありました。
起きて気付いた。
いやいやいや、貴賤の恋愛関係に幸せな結末など無いと。そしてはっとする。だから領地返還の話の時、ブラウンは変な顔してたんだ。というか、ブラウンは私達の気持ちに気付いてたってこと?
何それ恥ずかしい。
嫌な予感に顔を赤くしたり青くしたりしながら、しょんぼりと落ち込む。今から王に、領地返還を撤回するなんて言えないわよね。そもそも、私の恋愛ごとに家族を巻き込むなんて無理。絶対無理。
(こうなったら、この思いは封印するしかない!)
私はぐっとこぶしを握る。
アルフレッドだって、きっと結婚するまでの遊びのつもりよね……。
例え、我が家が伯爵位に戻ったとしても、所詮は貧乏伯爵家。飛ぶ鳥を落とす勢いのオーエンス伯爵家なら、縁を結びたい公爵家以上もいるはず。持参金も用意できない嫁き遅れをわざわざ選ぶわけないわ。自分で考えて憂鬱な気持ちになる。
首をぶんぶん降って無理やり気持ちを立て直す。
そして、パンパンと頬を叩く。
暗くなる必要なんてないわ。だって、領地の返還料が手に入ったんだから!上出来よ。前向きに考えましょう。ついにあの貧民街を出られる!今からなら、ミシェルの淑女教育も間に合うわ。あの子のより良い嫁入先を見つけるために、私も頑張らないと!
そして、ハタと気づく。
(ここどこ!?)
あわあわと部屋を見まわしたところで、扉の前に静かに控えるルーシーが目に入る。
「いや、いるんなら言ってよ!?」
叫んだ後で、顔を両手で覆ってもだえる。
私、絶対変な顔してた、何ならちょっと言葉に出してたかも…。
私の動揺は気に留めず、ルーシーは完璧な笑顔を浮かべながら近づいてくる。
「現状を整理されていらっしゃるようでしたので、思考のお邪魔かと…ここは、商会の医務室です。ベッドがあるのがここしかなかったので、こちらにお運びいたしました。会頭が」
「そ、そう」
「もう少しお休みいただいてもよかったのですが、礼服では疲れが取れないかと思い、お起こししようかなと思ってたところだったんです」
「あ、ありがとう」
ルーシーは私の背中に手を添えて立ち上がるのを手伝ってくれる。私は、聞きたいけど聞きたくない相手について尋ねる。
「ちなみに…アルフレッドは?」
「会頭室で執務をしながら、オリビアさんをお待ちですよ?」
それが何か?と言わんばかりに、答えを返される。
ううう、今は気まずくて顔を合わせられそうにない…。
「ルーシー…後生だから、着替えたらこっそり帰らせてもらえないかしら…」
「あら」
ルーシーは目をぱちくりする。
「会頭、何かしました?」
ルーシーの言葉に私は馬車での出来事を思い出して顔を真っ赤にする。
そういえば、そういえば、そういえば…!!
余計顔を合わせたくなくなってきた…。
私の反応に何かを察したのであろう。ルーシーは、ふうとため息を吐く。
「私としては会頭を応援したい気持ちもあるのですが…。まぁ、今回は会頭が悪いんでしょう。分かりました。でも、お一人で帰ると危ないですからね。馬車を用意いたしますね」
「ありがとう…私、結構寝てた?」
「いえ、一刻ほどですわ。でも、もう外は薄暗くなってますからね」
ルーシーは、そう言うと私の着替えを手伝って、温かい飲み物を用意した後、馬車を呼びに行ってくれた。
本当にできた人だわ。絶対、商会の従業員より侍女が向いてる…。
ルーシーの入れてくれた、蜂蜜入りのホットミルクを口に含み、息を吐く。ゆっくりと飲み終わるころに辻馬車が到着した。
「お帰り、今日は遅かったんだね」
家に帰って、出迎えてくれるお父様にしがみつく。
「えぇ?今日はどうしたんだい?」
動揺しながらも、抱きしめてくれるお父様に甘えながら言う。
「お父様、私、敵を取ってきたわ」
きょとんとするお父様に、これまでの顛末を話す。
領地で宝石が出たこと、カーターに裏切られていたこと、ナタリー様は元々騙すために嫁いできたこと…アルフレッドが助けてくれたこと。
お父様は、うんうんと頷きながら聞いてくれた。
「ごめんなさい、勝手に、領地は返還しちゃったの」
「いいよ。君の思う通り、きっと領地があればまた同じようなことになるだろう。頑張ってくれてありがとう。頼りない父親でごめんね」
お父様の胸に顔を摺り寄せながらブンブン首を振る。
そう、これでよかった。ポロリと一粒涙がこぼれた。このままお父様に擦り付けちゃえ。
そして、顔を上げて元気に言う。
「そうだ、領地の返還料が入るのよ!引越ししましょう!」
「うーん…それだけどね。返還料は君の持参金としてとっておいた方が良いんじゃないか?」
心配そうな顔をするお父様に、にっこり笑う。
「私は結婚しないかもしれないし、持参金が必要なら稼ぐわ!ミシェルだって、貴族に嫁ぐのでなければ、そんなに持参金も必要ないし…それよりは、育ってきた環境って重要なんだから。ミシェルがより良い結婚ができるように、もっと治安の良い場所に引っ越しましょう!」
「…君がそれでいいのなら」
お父様は、なんだか腑に落ちない顔をしていたけど。
これでいいのよ。これでいいの。
そう思っていた時が、私にもありました。
起きて気付いた。
いやいやいや、貴賤の恋愛関係に幸せな結末など無いと。そしてはっとする。だから領地返還の話の時、ブラウンは変な顔してたんだ。というか、ブラウンは私達の気持ちに気付いてたってこと?
何それ恥ずかしい。
嫌な予感に顔を赤くしたり青くしたりしながら、しょんぼりと落ち込む。今から王に、領地返還を撤回するなんて言えないわよね。そもそも、私の恋愛ごとに家族を巻き込むなんて無理。絶対無理。
(こうなったら、この思いは封印するしかない!)
私はぐっとこぶしを握る。
アルフレッドだって、きっと結婚するまでの遊びのつもりよね……。
例え、我が家が伯爵位に戻ったとしても、所詮は貧乏伯爵家。飛ぶ鳥を落とす勢いのオーエンス伯爵家なら、縁を結びたい公爵家以上もいるはず。持参金も用意できない嫁き遅れをわざわざ選ぶわけないわ。自分で考えて憂鬱な気持ちになる。
首をぶんぶん降って無理やり気持ちを立て直す。
そして、パンパンと頬を叩く。
暗くなる必要なんてないわ。だって、領地の返還料が手に入ったんだから!上出来よ。前向きに考えましょう。ついにあの貧民街を出られる!今からなら、ミシェルの淑女教育も間に合うわ。あの子のより良い嫁入先を見つけるために、私も頑張らないと!
そして、ハタと気づく。
(ここどこ!?)
あわあわと部屋を見まわしたところで、扉の前に静かに控えるルーシーが目に入る。
「いや、いるんなら言ってよ!?」
叫んだ後で、顔を両手で覆ってもだえる。
私、絶対変な顔してた、何ならちょっと言葉に出してたかも…。
私の動揺は気に留めず、ルーシーは完璧な笑顔を浮かべながら近づいてくる。
「現状を整理されていらっしゃるようでしたので、思考のお邪魔かと…ここは、商会の医務室です。ベッドがあるのがここしかなかったので、こちらにお運びいたしました。会頭が」
「そ、そう」
「もう少しお休みいただいてもよかったのですが、礼服では疲れが取れないかと思い、お起こししようかなと思ってたところだったんです」
「あ、ありがとう」
ルーシーは私の背中に手を添えて立ち上がるのを手伝ってくれる。私は、聞きたいけど聞きたくない相手について尋ねる。
「ちなみに…アルフレッドは?」
「会頭室で執務をしながら、オリビアさんをお待ちですよ?」
それが何か?と言わんばかりに、答えを返される。
ううう、今は気まずくて顔を合わせられそうにない…。
「ルーシー…後生だから、着替えたらこっそり帰らせてもらえないかしら…」
「あら」
ルーシーは目をぱちくりする。
「会頭、何かしました?」
ルーシーの言葉に私は馬車での出来事を思い出して顔を真っ赤にする。
そういえば、そういえば、そういえば…!!
余計顔を合わせたくなくなってきた…。
私の反応に何かを察したのであろう。ルーシーは、ふうとため息を吐く。
「私としては会頭を応援したい気持ちもあるのですが…。まぁ、今回は会頭が悪いんでしょう。分かりました。でも、お一人で帰ると危ないですからね。馬車を用意いたしますね」
「ありがとう…私、結構寝てた?」
「いえ、一刻ほどですわ。でも、もう外は薄暗くなってますからね」
ルーシーは、そう言うと私の着替えを手伝って、温かい飲み物を用意した後、馬車を呼びに行ってくれた。
本当にできた人だわ。絶対、商会の従業員より侍女が向いてる…。
ルーシーの入れてくれた、蜂蜜入りのホットミルクを口に含み、息を吐く。ゆっくりと飲み終わるころに辻馬車が到着した。
「お帰り、今日は遅かったんだね」
家に帰って、出迎えてくれるお父様にしがみつく。
「えぇ?今日はどうしたんだい?」
動揺しながらも、抱きしめてくれるお父様に甘えながら言う。
「お父様、私、敵を取ってきたわ」
きょとんとするお父様に、これまでの顛末を話す。
領地で宝石が出たこと、カーターに裏切られていたこと、ナタリー様は元々騙すために嫁いできたこと…アルフレッドが助けてくれたこと。
お父様は、うんうんと頷きながら聞いてくれた。
「ごめんなさい、勝手に、領地は返還しちゃったの」
「いいよ。君の思う通り、きっと領地があればまた同じようなことになるだろう。頑張ってくれてありがとう。頼りない父親でごめんね」
お父様の胸に顔を摺り寄せながらブンブン首を振る。
そう、これでよかった。ポロリと一粒涙がこぼれた。このままお父様に擦り付けちゃえ。
そして、顔を上げて元気に言う。
「そうだ、領地の返還料が入るのよ!引越ししましょう!」
「うーん…それだけどね。返還料は君の持参金としてとっておいた方が良いんじゃないか?」
心配そうな顔をするお父様に、にっこり笑う。
「私は結婚しないかもしれないし、持参金が必要なら稼ぐわ!ミシェルだって、貴族に嫁ぐのでなければ、そんなに持参金も必要ないし…それよりは、育ってきた環境って重要なんだから。ミシェルがより良い結婚ができるように、もっと治安の良い場所に引っ越しましょう!」
「…君がそれでいいのなら」
お父様は、なんだか腑に落ちない顔をしていたけど。
これでいいのよ。これでいいの。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる