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第6話

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「だーかーら、この私を敬うべきなのよ! 私はこんなにも美しくて、しかも聖女なのよ!? そこの女! さっさとファース様の隣りから退きなさい!」

 イザベルは椅子から立ち上がると、アナベルを突飛ばそうとした。
 しかしその両手は傍で控えていたミーファとユイラによって掴み止められた。
 苛立ったイザベルは手を振り払おうとするが、鍛えている二人に適うはずがない。

「何よ、こいつら……! ファース様、手を放すように言って……!」
「おやおや、イザベル様。無礼を働こうとしたのはあなただろう? まず敵意がないことを表し、謝罪してはどうかな?」
「はっ! なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ!」

 そう吐き捨てると、イザベルはなおもアナベルへ向かっていこうとする。恐らく手を放せば、姉は妹によって暴力を振るわれてしまうだろう。ここまで手に負えない女だったとは……ファースは内心溜息を吐く。いや、危険人物であることはすでに分かっていた、自分は計画通り徹底的にやるしかないのだ。

「ふむ、イザベル様。怒りを収めて聞くがいい」

 ファースはそう言って、アナベルの肩に手を回す。
 イザベルが文句をぶちまけようとした瞬間、遮るようにこう告げた。

「この寵姫は僕にとって特別な存在だ。君みたいな下品な女とは訳が違う。さらにはハーレムの女とも格が違うんだ――そうだろう? ミーファ? ユイラ?」
「はい、ファース様。だってアナベルは正室となるお人ですものね」
「ええ、ファース様。アナベルはただひとりの奥様になる人ですわ」

 その答えにイザベルは体を震わせた。

「せ、正室……? 奥様……? まさかこの女を妃に迎えるつもりなの……!?」
「ご察しの通りだよ、イザベル様。アナベルはやがて僕の正式な妻となる。何ならここで愛の口づけを交わしてみせようか?」

 ファースは悪戯っ子のように笑うと、緊張で固まっていたアナベルの首筋に口づけた。唇を受けた彼女は悩まし気な吐息を漏らし、召使達の視線を集める。ファースはそんな彼女に口づけの雨を降らせる振りをしながら、こう囁いた。

(アナベル、笑顔だよ、笑顔)
(は、はい……!)

 次の瞬間、アナベルはにっこりと微笑んだ。それは堅い蕾が花開いて、その美しさを周囲に知らしめるような素晴らしき笑みだった。指示を出したファースも、ミーファも、ユイラも、召使達も、誰しもがその魅力に飲み込まれた。……ただひとり、それを優越の笑みと解釈したイザベルを除いては。

「ふっ……ふっ……ふざけるなああああああぁッ!」

 イザベルは地団太を踏み、暴れるだけ暴れ始めた。
 それを押さえているミーファとユイラも力負けしそうだ。
 そんな時を見計らい、ファースは一束に纏まった写真を取り出した。

「落ち着き給え、イザベル様。それよりこの写真を見てもらいたい」

 そう言ってテーブルに撒かれた写真にはおぞましい光景が映っていた。細切れとなった女性の死体、鼻を削がれた女性、腹を裂かれた少女……さらにはイザベルが見知らぬ男と交わっている複数の写真がそこに散らばっていた。

「これは君が祖国で行った悪事の記録だ。僕はこれを隣国へ届けようと思っている。もしこれが王族に知れれば、君は破滅するだろう。さあ、どうする?」

 アナベルは写真を見て、小さく悲鳴を上げた。
 一方、イザベルは写真を一瞥すると、態度を豹変させた。

「ねぇ、ファース様ぁ……? 私をハーレムに入れたいんでしょう……?」
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