裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん

文字の大きさ
6 / 12

第5話 クラリッサ視点

しおりを挟む
 目を覚ますと、綺麗な天井が見えました。

 ここは記憶の中のお屋敷でしょうか? もしかしてお父さんとお母さんがいるんでしょうか? 私はゆっくりと体を起こします。

「ああ、目覚めたのね? 可愛いクラリッサ」
「起きなくても、いいんだよ? ベッドに横になっていて」

 そう言ってくれたのは、記憶と変わらないお父さんとお母さんでした。今にも泣き出しそうな表情で、笑っています。その後ろには綺麗な男の子が立っていて、同じく微笑んでいました。

「あ、あの……私のお父さんとお母さん……そして王子様ですか……?」

 そう質問すると、三人は涙ぐみました。

「そうだよ、君の父上だよ……! 分かるのかい……?」
「ええ、えぇ……! あなたのお母様ですよ……!」
「僕は婚約者のサイラスだよ……! クラリッサ……!」

 お父さんとお母さんが、私を抱き締めます。二人の体はとても優しい温もりがして、私の中で何かがプツンと切れてしまいました。

「あ、あああぁ……うわあああああああああん! お父さん……! お母さん……! 怖いよぉ……首を吊って死ぬなんて嫌だよぉ……! 死刑になるのは嫌ぁ……!」
「大丈夫、大丈夫だよ! クラリッサ!」
「その通りよ! もう怖くないのよ!」
「でも……でもぉ……私は汚い女中で……罪人で……――」

 私が泣き続けていると、サイラス様がそっと声をかけてくれました。

「裁判は無効になったんだよ。ここは安全な場所なんだ。君のことは、ご両親と僕が守るからね? 他にも大勢の味方がいるんだよ? それに君はもう女中ではないし、罪も犯していない。君はクララではなく、皆から愛されるクラリッサなんだよ」
「ク、クラリッサ……? 私が……?」
「そうだよ。愛しいクラリッサ」

 優しく笑っているサイラス様は、とても綺麗です。ぼんやり見惚れていると、執事さんがやってきて美味しいジュースをくれました。それは薬草の匂いがして、飲んでいると眠くなってきます。私はベッドに横になり、少しだけ笑って言いました。

「そっか……私はクララじゃなかったんだ……。クラリッサなんだ……」

 そしてクララだった私は、クラリッサに戻ったのです――



………………
…………
……



 裁判から九日が経ちました。

 私は少しずつ元気になってきました。でも“まだまだ痩せているから、栄養のあるご飯をいっぱい食べないといけないよ?”とお医者様に言われています。だから今日も、料理長さんが腕によりをかけた料理が次々と運ばれてきました。

「わあ、可愛い……!」

 ピンクのケーキを見るなり、私は驚きます。スカートが丸いケーキになっていて、その上に砂糖菓子で出来たお姫様の体が乗っているんです。私がケーキを眺めていると、お母様が微笑みました。

「あら? ケーキが気になるの? お腹を壊さないように油を控えめにして作らせてあるから、安心して食べてちょうだいね」
「はい……いただきます……」

 私は礼儀作法を知りません。だから少しずつ丁寧に食べました。あまりの美味しさに、頬っぺたと耳の間が痛くなります。

「美味しい……! お父様とサイラス様にも食べてもらいたいです……!」
「うふふ、お二人のご用事が終わったら、一緒に食べましょうね?」
「ご用事……? それは、どんなものですか……?」

 そう尋ねるとお母様は戸惑って、少し間を空けてから答えてくれました。

 王家とユクル公爵家は、ハリオット伯爵が私を誘拐したんじゃないかと、疑っています。だからお父様とサイラス様は、ハリオット伯爵が私を誘拐した証拠を探しているそうなんです。その証拠を見つけないと、伯爵を完全に倒すことができないらしいんです。女中だった私を死刑にしようとした罪だけでは、牢に入れられても何十年かしたら戻ってきてしまうって――

「ねえ、クラリッサ。何か手掛かりになることを覚えていないかしら?」
「えっと……私は女中として働き始める前、一年か二年、窓のない部屋に閉じ込められていました……。そして目隠しをされてハリオット伯爵家に連れてこられて、女中になったんです……」
「窓のない部屋ですって? それは地下部屋かしら? ハリオット伯爵はクラリッサを地下に隠し、捜索の手を逃れていた可能性があるわね。良かったら、覚えていることをもっと話してくれる?」

 そして私は必死で記憶を手繰り、証拠を探そうとします。きっと何かあるはずです。私は思いつくまま、お母様に話しました。

「執事ウィリアムさんは私を可愛がってくれましたよね? それと侍女キャシーも。あとは侍女ソフィに抱っこされて屋敷の裏側に行ったことがあるのですが……」
「ちょっと待ってちょうだい。屋敷の裏側って隠し通路のこと? なぜ侍女が、公爵家の秘密を知っているの? まさかソフィが、あなたを攫ったのでは――」

 それからすぐお父様とサイラス様が帰ってきました。そして侍女ソフィとお話をしてから、私のお部屋を訪ねてくれたのです。するとお父様が私をぎゅうっと抱き締め、サイラス様が瞳を輝かせながら私の手を握りました。

「これでハリオット伯爵家はお仕舞だ! 心配の種は消えた! あいつらは二度と、クラリッサに手出しできない……良かった……本当に良かった……」

 本当でしょうか? 本当に大丈夫なのでしょうか? 私の胸の奥に、モヤモヤしたものが残っていました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

醜いと虐げられていた私を本当の家族が迎えに来ました

マチバリ
恋愛
家族とひとりだけ姿が違うことで醜いと虐げられていた女の子が本当の家族に見つけてもらう物語

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

名も無き伯爵令嬢の幸運

ひとみん
恋愛
私はしがない伯爵令嬢。巷ではやりの物語のように義母と義妹に虐げられている。 この家から逃げる為に、義母の命令通り国境を守る公爵家へと乗り込んだ。王命に物申し、国外追放されることを期待して。 なのに、何故だろう・・・乗り込んだ先の公爵夫人が決めたという私に対する処罰がご褒美としか言いようがなくて・・・ 名も無きモブ令嬢が幸せになる話。まじ、名前出てきません・・・・ *「転生魔女は国盗りを望む」にチラッとしか出てこない、名も無きモブ『一人目令嬢』のお話。 34話の本人視点みたいな感じです。 本編を読まなくとも、多分、大丈夫だと思いますが、本編もよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/novel/618422773/930884405

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

家族から虐げられた令嬢は冷血伯爵に嫁がされる〜売り飛ばされた先で温かい家庭を築きます〜

香木陽灯
恋愛
「ナタリア! 廊下にホコリがたまっているわ! きちんと掃除なさい」 「お姉様、お茶が冷めてしまったわ。淹れなおして。早くね」 グラミリアン伯爵家では長女のナタリアが使用人のように働かされていた。 彼女はある日、冷血伯爵に嫁ぐように言われる。 「あなたが伯爵家に嫁げば、我が家の利益になるの。あなたは知らないだろうけれど、伯爵に娘を差し出した家には、国王から褒美が出るともっぱらの噂なのよ」   売られるように嫁がされたナタリアだったが、冷血伯爵は噂とは違い優しい人だった。 「僕が世間でなんと呼ばれているか知っているだろう? 僕と結婚することで、君も色々言われるかもしれない。……申し訳ない」 自分に自信がないナタリアと優しい冷血伯爵は、少しずつ距離が近づいていく。 ※ゆるめの設定 ※他サイトにも掲載中

呪われた辺境伯と視える?夫人〜嫁いですぐに襲われて離縁を言い渡されました〜

涙乃(るの)
恋愛
「エリー、必ず迎えに来るから!例え君が忘れていたとしても、20歳までには必ず。 だから、君の伴侶のして、側にいる権利を僕に与えてくれないだろうか?」 伯爵令嬢のエリーは学園の同級生、子爵令息アンドリュー(アンディ)と結婚の約束を交わす。 けれども、エリーは父親から卒業後すぐに嫁ぐように言い渡される。 「断ることは死を意味することと思え! 泣こうが喚こうが覆らない! 貴族の責務を全うすることがお前の役目だ!いいな!」 有無を言わせぬ言葉を浴びせられて、泣く泣く受け入れることしかできないエリー 卒業式は出ることも許されなかった。 「恨むなら差し出した父親を恨むだな!」 おまけに旦那様からも酷い扱いを受けて、純潔を奪われてしまうエリー。 何度も離婚を繰り返している旦那様は呪われているらしくて…… 不遇な令嬢エリーが幸せになるまで 性的な行為を匂わす要素があります ゆるい設定世界観です

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

処理中です...