89 / 188
ルアンナが動いた
しおりを挟む
アグラエルさんに抱きかかえながら森の中を進んでいる。
落ちないように腕を首に回してしがみついていると、耳元に息がかかるようになった。全身がゾワゾワとする。心地よいけどちょっと足りない。快楽を感じる直前で止められているみたいだ。もどかしい。
だからといって求めるようなことをしてしまえばアグラエルさんだけじゃなく、みんなが仕事を投げ捨てて暴走してしまうので、生殺しの時間に耐えなければいけない。
「疲れてないか? 休みたくなったらすぐに言うんだよ」
僕の自制心を試すかのように耳元でささやかれた。
さらに強く抱きしめられたことで、顔の位置が変わって髪に触れる。男を誘惑する甘く、とろけるような匂いがした。普段とは違う。抱きしめることを前提に香水を付けていたのかもしれない。
欲望に頭を揺さぶられながらも、僅かに残った理性を働かせて返事をする。
「はい」
これ以上は何も言えなかった。目を閉じて何も考えないようにする。しばらくしてメヌさんが抱きかかえてくることになったけど、ずっと同じ状態を続けていた。
楽しいおしゃべりを期待していただろう彼女たちには悪いことをしているかもしれないけど、これもダイチを倒すためだ。お互いに我慢するしかない。
森の中を進みメヌさんからレベッタさん、ヘイリーさんと抱きしめる係が変わったところで、ダイチがいると思われる小屋が見えてきた。
騎士たちはすでに包囲を進めていて隠れている姿が視界に入る。戦う予定のない僕たちは、近くで様子を見ることにすると急にドアが開いた。
両手を挙げたデブガエルが出てくる。
泣いているみたいで目から涙が流れていた。
「抵抗はしないから助けてくれ!」
命乞いしても許されると思うなよ。お前たちは多くの女性を傷つけたんだから、死を持って罪を償う必要があるんだ。
僕はそう強く思うんだけど、レベッタさんの考えは違うみたい。
「これは保護しないとまずいねー」
「どういうことですか?」
捕獲とかならわかるんだけど、なんで保護になるんだろう。
「保護を求める男性を拒否してしまうと、トリニティ神聖皇国が攻めてくるかもしれないんだよ」
「無茶苦茶な国があるんですね!?」
「男性を神の遣いと崇める国だからね。イオ君は近づかない方が良い」
性別が違うだけで、人の上位的な存在として扱われるの?
意味が分からない。
アグラエルさんの発言は僕の想像を超えるものだった。
「ルアンナが動いた」
話している間に現場では変化が出ていたみたい。ルアンナさんと四人の騎士がデブガエルに近づいている。
剣を抜いて警戒しているみたいだけど大丈夫かな。プライドの高いあの男が本当に降参するとは思えないので、スキルブースターをかけている状態でも心配になってしまう。
騎士の四人がデブガエルに触れて、腕を後ろに回して紐を結んでいる。
何も起こらない。
本当に諦めて降参したのか?
僕の直感が間違っていたんじゃないかと疑い始めていると、急に騎士たちが痙攣して倒れてしまった。
拘束される直前で解放されたデブガエルは、ポケットから黄色い球を取り出す。
「あれは魔道具っ!!」
最初に気づいたのは鍛冶のスキルを持っているメヌさんだった。僕を抱きしめているヘイリーさんごと押し倒す。アグラエルさんが氷の壁を作って僕たちを囲む。
轟音がした。
氷の壁が破壊される。
騎士たちは倒れていた。鎧から煙みたいなのがあがっていて、肌の一部が赤く爛れている。やけどもしているみたい。
ルアンナさんは膝をついて耐えているみたいだけど、苦しそうな顔をしていた。
「どうだ! 俺様の力は!!」
倒れている騎士を踏みつけると、大声を出して笑っている。
強力な魔道具によって優位に立てていることもあり油断していて、僕たちには気づいてないようだ。
「あれは危険だ! レベッタさん!」
「はーい!」
すばやく弓を構えて矢を放った。狙い通りに黄色い球の魔道具に当たって、デブガエルの手から落ちる。
「まだ生き残りがいたのかッ! 害虫みたいにしぶとい女だッ!」
文句を言いながら落ちてしまった魔道具を拾うとするけど、氷の矢が飛んで地面に刺さる。次は当てるぞという警告にはなったようで、動きが止まった。
デブガエルを殺すタイミングは何度もあったけど、彼女たちは実行しなかった。
男を害することに心理的な抵抗が働いてしまったのだろう。重傷を負っている騎士たちのためにも早く倒さないと。そのためには同性である僕が戦うべきだ。
「僕が行く!」
殴りつけようとして走り出す。
一瞬だけ驚いた顔をしたデブガエルだったけど、すぐ笑顔に変わる。
「またお前か! 殺してやる!!」
瞳が光った。スキルを発動させたみたいだ。近くに転がっている石を投げつけてくると、あり得ないほどの速度をだして近づいてきた。走っているため回避は不可能。腕を犠牲にして払いのける覚悟を決めると、ヘイリーさんが間に割り込んで、盾を使って受け流してくれた。
「イオ君は私が守る」
自慢げな顔をしているけど突っ込まない。今はデブガエルを潰すのが先だ!
落ちないように腕を首に回してしがみついていると、耳元に息がかかるようになった。全身がゾワゾワとする。心地よいけどちょっと足りない。快楽を感じる直前で止められているみたいだ。もどかしい。
だからといって求めるようなことをしてしまえばアグラエルさんだけじゃなく、みんなが仕事を投げ捨てて暴走してしまうので、生殺しの時間に耐えなければいけない。
「疲れてないか? 休みたくなったらすぐに言うんだよ」
僕の自制心を試すかのように耳元でささやかれた。
さらに強く抱きしめられたことで、顔の位置が変わって髪に触れる。男を誘惑する甘く、とろけるような匂いがした。普段とは違う。抱きしめることを前提に香水を付けていたのかもしれない。
欲望に頭を揺さぶられながらも、僅かに残った理性を働かせて返事をする。
「はい」
これ以上は何も言えなかった。目を閉じて何も考えないようにする。しばらくしてメヌさんが抱きかかえてくることになったけど、ずっと同じ状態を続けていた。
楽しいおしゃべりを期待していただろう彼女たちには悪いことをしているかもしれないけど、これもダイチを倒すためだ。お互いに我慢するしかない。
森の中を進みメヌさんからレベッタさん、ヘイリーさんと抱きしめる係が変わったところで、ダイチがいると思われる小屋が見えてきた。
騎士たちはすでに包囲を進めていて隠れている姿が視界に入る。戦う予定のない僕たちは、近くで様子を見ることにすると急にドアが開いた。
両手を挙げたデブガエルが出てくる。
泣いているみたいで目から涙が流れていた。
「抵抗はしないから助けてくれ!」
命乞いしても許されると思うなよ。お前たちは多くの女性を傷つけたんだから、死を持って罪を償う必要があるんだ。
僕はそう強く思うんだけど、レベッタさんの考えは違うみたい。
「これは保護しないとまずいねー」
「どういうことですか?」
捕獲とかならわかるんだけど、なんで保護になるんだろう。
「保護を求める男性を拒否してしまうと、トリニティ神聖皇国が攻めてくるかもしれないんだよ」
「無茶苦茶な国があるんですね!?」
「男性を神の遣いと崇める国だからね。イオ君は近づかない方が良い」
性別が違うだけで、人の上位的な存在として扱われるの?
意味が分からない。
アグラエルさんの発言は僕の想像を超えるものだった。
「ルアンナが動いた」
話している間に現場では変化が出ていたみたい。ルアンナさんと四人の騎士がデブガエルに近づいている。
剣を抜いて警戒しているみたいだけど大丈夫かな。プライドの高いあの男が本当に降参するとは思えないので、スキルブースターをかけている状態でも心配になってしまう。
騎士の四人がデブガエルに触れて、腕を後ろに回して紐を結んでいる。
何も起こらない。
本当に諦めて降参したのか?
僕の直感が間違っていたんじゃないかと疑い始めていると、急に騎士たちが痙攣して倒れてしまった。
拘束される直前で解放されたデブガエルは、ポケットから黄色い球を取り出す。
「あれは魔道具っ!!」
最初に気づいたのは鍛冶のスキルを持っているメヌさんだった。僕を抱きしめているヘイリーさんごと押し倒す。アグラエルさんが氷の壁を作って僕たちを囲む。
轟音がした。
氷の壁が破壊される。
騎士たちは倒れていた。鎧から煙みたいなのがあがっていて、肌の一部が赤く爛れている。やけどもしているみたい。
ルアンナさんは膝をついて耐えているみたいだけど、苦しそうな顔をしていた。
「どうだ! 俺様の力は!!」
倒れている騎士を踏みつけると、大声を出して笑っている。
強力な魔道具によって優位に立てていることもあり油断していて、僕たちには気づいてないようだ。
「あれは危険だ! レベッタさん!」
「はーい!」
すばやく弓を構えて矢を放った。狙い通りに黄色い球の魔道具に当たって、デブガエルの手から落ちる。
「まだ生き残りがいたのかッ! 害虫みたいにしぶとい女だッ!」
文句を言いながら落ちてしまった魔道具を拾うとするけど、氷の矢が飛んで地面に刺さる。次は当てるぞという警告にはなったようで、動きが止まった。
デブガエルを殺すタイミングは何度もあったけど、彼女たちは実行しなかった。
男を害することに心理的な抵抗が働いてしまったのだろう。重傷を負っている騎士たちのためにも早く倒さないと。そのためには同性である僕が戦うべきだ。
「僕が行く!」
殴りつけようとして走り出す。
一瞬だけ驚いた顔をしたデブガエルだったけど、すぐ笑顔に変わる。
「またお前か! 殺してやる!!」
瞳が光った。スキルを発動させたみたいだ。近くに転がっている石を投げつけてくると、あり得ないほどの速度をだして近づいてきた。走っているため回避は不可能。腕を犠牲にして払いのける覚悟を決めると、ヘイリーさんが間に割り込んで、盾を使って受け流してくれた。
「イオ君は私が守る」
自慢げな顔をしているけど突っ込まない。今はデブガエルを潰すのが先だ!
2
あなたにおすすめの小説
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる