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番外編5.花嫁修業してドジを直します!
93.みんなに認めてもらえない
しおりを挟む*番外編4の次の日の話で、主人公はクラジュです*
「クラジュ……俺、お前がオーフィザン様と婚約したって聞いたんだが……本当か?」
なぜかちょっと怖いくらいの顔で、シーニュが僕に聞いてくる。
今はシーニュとランチの時間。いつも僕は昼間は寝ているんだけど、最近はオーフィザン様が忙しくて一緒にいられなくて、寂しくて早朝から起きちゃった。寝所にいるとますます寂しくなるから、日向ぼっこするために起きたら、シーニュがランチに誘ってくれたんだ。
食堂に来るのもすごく久しぶり。ちょうどお昼の時間だから、結構混んでる。
シーニュと向かい合わせに席に座り、早速鰹節のおにぎりに食いつく僕に、シーニュが聞いてきたのが、あの求婚の話だった。
僕自身、まだ夢みたいで、そのことを言われると、ちょっと照れる。すごく照れるけど、本当は、誰かに話したい。
「うん……その……この前、つ、妻になれって言われて……」
「そうか……」
「……シーニュ?」
「なんだよ?」
シーニュは顔を上げるけど、祝福してくれているようには見えない。むしろ、不満そう。
「えっと……もしかして、オーフィザン様のお嫁さんが僕じゃ嫌?」
「嫌っつーか……心配だ。オーフィザン様も、なんでよりにもよってお前を選んだのか……お前、絶対オーフィザン様に迷惑かけまくるだろ」
「う……」
シーニュはオーフィザン様を尊敬しているし、大切に思ってる。だから、僕みたいなダメなのがお嫁さんじゃ不満なのも無理はないんだけど、いざ目の前で悩まれると、ちょっと傷つく。
「シーニュ……心配なのは分かるけど……僕、これから花嫁修業するんだよ! だから大丈夫!」
「ちょっと修業したくらいで、お前のドジがなんとかなるとは思えないぞ」
「うー……」
確かにそうだ……僕、オーフィザン様のお嫁さんになりたいけど、僕が隣にいたら、絶対毎日迷惑かけそう……
あ、あれ……周りからも視線を感じる……あ、みんなチラチラ僕を見てる。え? え? え?
「ね、ねえ……シーニュ……もしかして、僕がオーフィザン様と婚約したの、みんな知ってるの?」
「そりゃ、俺が知ってるくらいだからな。噂になってる」
そうなんだ……うわああ。ちょっと恥ずかしい……だけどみんなが知ってくれているのは嬉しい。僕とオーフィザン様、本当に結婚するんだあ……
「じゃあ、ますます頑張ってドジを直す!!」
「絶対無理だ」
冷たく言ったのは、シーニュじゃなくて、僕の隣に座っていた人。カレーライスのスプーンをおいて、じっと僕を見ている。
確かこの人、キャティッグさんっていって、ペロケと同じで庭師をしていたはず。背が高くて逞しい体つきをした金色の短髪の男の人で、中庭に綺麗に生えてる芝の世話をしている人だ。
僕らの話、聞いていたのかな? だけどなんでいきなり無理なんて言うの?
「お前がドジを直すなんて無理に決まってる。オーフィザン様には申し訳ないだろうが、嫁は辞退しろ」
「な、なんでそんなこと言うんですか!? 僕は」
「お前、昨日俺の大切な芝を黒焦げにしただろ」
「あ、あれは……中庭で日向ぼっこしてたらペロケに見つかりそうになって、逃げて二階の窓から中に入ってベッドの下に隠れる時に、そこにあったものを出したら筆だけ庭に落としちゃって……筆が庭に落ちたらいきなり燃えたんです……僕だって、まさか筆を落としただけで燃えるなんて思わなくて……」
「思わなくて、じゃねー。あの時は、すぐにオーフィザン様が来てくださったからよかったけど、そうでなかったら、城まで燃えてたかもしれないんだぞ」
「うううー……で、でも……」
何か言い返したかったけど、それより先に今度は、シーニュの隣に座った人が、僕に向かって言う。
「でも、ではありません。辞退なさい」
この白衣を着た人は、いつも城の奥でオーフィザン様の魔法の道具の最終調整をしている人だ。赤い長髪を一つに括った男の人で、確か名前はクロクディルさん。こっちの人も結婚には反対みたい。
「一昨日、私たちの研究室から、廃棄するために置いてあった失敗作の道具を持って逃げたのはあなたですね?」
「え……あ……え、えっと、それは……だって、昼間にオーフィザン様に会いたくなって、探して歩いていたら、転けて花瓶を割っちゃって、それをこっそり治したくて魔法の道具を借りに行ったんです。どれを持って行ったらいいか分からなくて、見つけたものを適当に持って行っちゃって……か、返すの忘れたのは謝ります。多分二階の部屋のベッドの下にあります……後で返します……」
「いいえ。もうありません。あなたが庭に落として壊したのですから」
「……僕、落としたりしてません」
なんのことを言われているのかわからない。僕、壊したりなんかしてないと思うんだけど……
だけど、隣にいたシーニュはなんのことかわかったらしく、彼は頬杖をついて言った。
「そうか。お前が庭に落とした筆、お前が借りてそのまま忘れたやつか」
「え!? あ……そうか! あれ、僕がベッドの下に隠したやつだ!」
「なんで自分で盗んで隠して忘れて落として燃やしてんだよ!! 結局全部お前のせいじゃないか!」
「うううー……だって、持って行ったもの適当に使ったら、なんとか花瓶が直って、安心しちゃって、ウトウトしちゃって、お昼寝しちゃったんだもん……起きたらすっかり忘れてた……」
「……お前、ドジを直すどころか、ひどくなってるぞ……」
シーニュは呆れた顔してるし、他の二人は怒っている。ついでに周りにいた人たちみんな、僕の方に視線を向けている。
え? え? え? みんな怒ってる? 怖い……
魔法の道具の人が立ち上がる。
「お前のような馬鹿が、あの方のおそばに仕えるなど図々しいにも程がある。お前とオーフィザン様との婚姻など、決して認められません!!」
「そ、そんな……」
周りの他のみんなも、魔法の道具の人の話に頷いている。
ううう……せっかくオーフィザン様が僕を選んでくださったのに、結ばれないなんて嫌だ。
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