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81.誰彼構わず襲いかかる感情
しおりを挟む僕……何をされてるんだろう。
レヴェリルインは、ずっと僕の頬をつついている。痛くはないけど……なんでこんなことされてるんだ? 僕……
触れてもらえるのは嬉しい。だけど、そんなことされて後退りしているうちに、すぐにソファの端まで来てしまう。
もう逃げることができなくなって、僕はされるがままだ。触れられるたびにビクビクしながら彼を見上げたら、ますます目が離せなくなる。
じっと見上げているだけで、周りが見えなくなりそう。僕とだけ一緒にいて欲しくなる。
そこに、兄のデーロワイルが困ったように口を挟んだ。
「レヴェリルイン様……そ、それは、失敗作ではないのですか? なぜ……処分されないのです?」
「これはすでに、俺の従者だ。処分する理由がない」
「しかしっ……!」
「黙れ。もう俺は、これを離す気はない。二度と、これに手を出すな」
そう言ったレヴェリルインから、デーロワイルはすぐに目を逸らす。だけど、やっぱりレヴェリルインのことが気になるみたい。
なんだかおかしい。
さっきから、レヴェリルインのことを気にする兄のことが気になる。僕、どうしちゃったんだ。
せっかくレヴェリルインといるのに、デーロワイルの方に、またあの不気味な感情を向けている。
デーロワイルがレヴェリルインを気にするのは、禁書や魔物を撃退するための魔法が目的だからだろう。それなのに、あいつがレヴェリルインに視線を向けることが気になって仕方ない。
そんな訳のわからない感情に押されて兄を見つめていたら、僕の首に、ひやっと冷たい指が絡んできた。
「ひゃっ……!」
びっくりした。レヴェリルインが、僕の首に触れてるんだ。
彼は、じーっと、僕の方を見つめている。
きっと……怒ってるんだ。僕が勝手について来たから。
勝手についてきたんだから、怒られるんだと思った。だけど、彼は僕の首にそっと触れている。撫でるように、何度も首をさすられた。
触れられると、くすぐったくて嬉しくてたまらない。
レヴェリルインは、じーっと僕の目を見ていた。なんだか、その目だけで混乱しそう。
「俺は……お前と一緒にいられる場所が欲しい」
お前って、それ……僕? 僕と一緒にいられる場所……? それが欲しいって、そんな風に言ってくれてるのか??
どうしよう。嬉しくて、もう絶対にレヴェリルインに見せられない顔になってる。
さっと顔を背けて、こっそりニコニコしていると、レヴェリルインは、ますます僕に近づいてくる。
もうすでに、僕はソファの端にまで来ていて、逃げ場なんかない。それなのに彼が近づいてくるから、だんだん僕とレヴェリルインの距離が近くなっていく。
触れられるのはすごく嬉しいけど、そんなに近づかれたら緊張する。
彼は最初は首に触れているだけだったのに、どんどん僕に迫ってきて、僕はもう顔を上げられない。
そんなに近寄られたら、変なこと考えてるのがバレる。こんなにドキドキしてることも、そばに来て欲しいって思ってることも、僕のことずっと見ていて欲しいって思ってることも。
こんな感情、バレるわけにはいかない。悟られたら終わりだ。
僕は、この人の従者なのに、レヴェリルインを独り占めしたい、僕以外、見て欲しくない、そう思ってる。
こんなこと考えてるのバレたら、きっともう、そばに置いてもらえない。
それでも、彼が触れてくれることが嬉しくてたまらない。
レヴェリルインは、僕が勝手にギルドを抜け出したことを怒っているのに、こんな風にニヤニヤしてしまっている顔を見られたら、ますます嫌われてしまう。
ずっと彼から顔を背けていたら、僕の頬に、彼の大きな手が触れて、無理やり彼の方に顔を向けられた。
彼と目が合う。僕の唇に、彼の指が触れて、嬉しいのに緊張のしすぎで体が壊れそう。
他人がレヴェリルインに近づくと、あんなに妬いたくせに、いざ彼が自分のそばに来たら動けないなんて。
レヴェリルインは一度も目を離さずに、ソファの端でビクビクしてる僕に迫ってくる。
逃げなきゃ。僕が彼に向けた感情がバレる前に。
そう思って顔を背けようとするのに、彼はあろうことか、僕の手首を強く掴んでソファに押し付け、唇に触れてますます僕に近づいてきた。
「お前……俺からは逃げるくせに、兄の方ばかり見て、どういうつもりだ?」
「は!!??」
な、何を言われているんだ? さっぱりわからない。
だって、僕は兄がレヴェリルインに視線を向けることが嫌で、こんなふうに妬いていただけなのに。
まさか、僕のそんな気持ちがバレたのか?? こんなにすぐに? そのための魔法でもあるのか?
どうしよう……誤魔化さなくちゃ。レヴェリルインが僕以外と話すなんて嫌だとか、視線を向けられることすら気になるなんて、気づかれるわけにはいかないんだ。
僕は、ずっとレヴェリルインから目を逸らしていた。
そんな僕らの様子を見守っていたオイルーギが、宥めるように言った。
「そろそろやめろ。レヴェリルイン。彼らは久しぶりの再会なのだろう? だったらお互いを懐かしんだりもするだろう。なぜそんなに腹を立てているんだ?」
「……」
レヴェリルインは、無言で僕から離れてくれた。
な、懐かしんではいないんだけど……兄だって、そんな気まるでない。兄は困惑しているけど、反論はしなかった。
すると、セアレルさんまでもが、レヴェリルインを咎めるように言った。
「レヴェリルイン様、お兄様の前で弟を手篭めにするなんて、あんまりです。レヴェリルイン様のちょっと横暴なところは存じておりますが、嫌がる人を押さえつけちゃいけません」
「何が手篭めだっ……!」
苛立ちながら言って、レヴェリルインは僕から離れた。
僕なら全然いいのに……レヴェリルインがしたいなら、なんでも。好きにしてくれて構わないんだけどな……
レヴェリルインが手を伸ばして来て、僕は思わず、目を瞑った。その手が、僕のフードに触れる。
「……俺はこいつを泣かせたいわけじゃない。ちゃんと守ってきたつもりだ。それなのに……守護の魔法が、うまくいっていない」
「へ??」
びっくりして顔を上げる僕から、レヴェリルインはすでに離れていた。
近づかれてドキドキしているのがバレたらまずいのに、いざ彼が僕から離れていくと、寂しくなってしまう。
レヴェリルインは、オイルーギに振り向いて言った。
「お前なら、理由がわかるんじゃないか?」
「お前は昔から、守護の魔法が苦手だからな……買い戻した物の中に、ちょうどいいものがあったはずだ。あれを使ってみたらどうだ?」
「そうだな……」
「ずいぶん、彼を気に入っているようじゃないか」
オイルーギが、僕に向かって微笑む。
気に入ってる? 僕を? 僕……レヴェリルインに気に入られているのか??
そんなこと言われたら、一気に気持ちが舞い上がる。勘違いしてしまいそうだ。レヴェリルイン、僕のこと、気に入ってくれてるのか?
「もちろんだ」
そう言って、レヴェリルインは僕の頭を撫でてくれる。もちろんって……本気? 本気で……僕を気に入っているのか??
どうしよう……本気にしちゃいそうだ。
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