【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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69.おやめください

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 閣下は、肩をすくめて言った。

「それぞれの言い分は分かった。言いたいことは後で聞こうではないか」

 すると、デシリー様は無言で腕を組み、伯爵様は真っ青になって震えていた。

 そして閣下は、私に振り向く。

「行こうか……リリヴァリルフィラン……」

 こうして私に振り向く時は、いつもの閣下だ。いつも私を気遣ってくださる時の閣下のままだ……
 そっと、恐る恐る、私はその手を取ろうとした。

 けれども背後で伯爵様が喚く。

「閣下っ……! 本当に、そんなものを連れていくおつもりですか!?」

 喚き始めた伯爵様に、閣下は近づいていく。それでも、伯爵様は喚き続けた。

「その女はっ……役にすら立たない奴隷です! あ、愛玩用になさるにしても、まだマシなものがあるでしょう! そんなものっ……」

 喚く伯爵様の胸ぐらを閣下が掴み上げている。

 けれど私の頭の中には、伯爵様に言われたことばかりが巡っていた。

 ……私だって、分かっています。そんなことくらい……

「おやめください……伯爵様……」

 ぼんやりと漏れていく言葉は、きっと、自分に対してのものだったのかもしれない。
 叶わない恋心なんて持つのは、やめてしまいなさいと。

「伯爵様。あなたに言われずとも、そんなことを考えるほど、私は身の程知らずではありませんわ。私は利用価値のある男が好きなのです。閣下なんて、公爵家の方ではありませんか。そんな面倒臭い方、ごめんです。玄関に近づいた途端、追い払われるのが関の山ですもの。閣下には、そのようなことも分かりませんの?」

 例えば、フォーフィイ家のことがなかったとしても、公爵家が、私を認めるはずがない。将来を期待されたイールヴィルイ様の婚約者がこんなものでは、私でも反対する。

 最初から、期待なんてしてない。閣下だって、何かの間違い……気の迷いですわ。他にもっと、潤沢な魔力を持った、教養も気品も申し分ない、美しい女性がいるはず。真に受けたりなんか、するはずないじゃないですか。

 閣下に振り向くと、彼は無言で私を見下ろしていた。

「…………閣下は、本当に私を連れて行かれるおつもりですか? そんなことができると本当にお思いですか? 公爵家といえば、魔法の名家ではありませんか。それが……魔力のない私を? こんなに笑える冗談はありませんわ!!!!」

 さすがは自分だと思った。こんな時でも、高笑いをあげられる。本当に、自分で自分のことを大笑いしたくなる。私はいつのまにか、閣下の隣に並べる気でいたのだ。

「それに、私に魔力がないことや、私が奴隷として扱われていたことを、伯爵家に出入りしていた貴族も、商人も、使用人たちも知っています。皆さまの前で鞭で打たれたこともあるのですよ? 本当に閣下は、こんなものを迎える気でしょうか……? わ、悪い冗談ですわっ……どうか……しています…………本当に……」

 だんだん、声は消えそうになっていく。自分で暴露しておきながら、まだ未練があるというの……?

 すると、鈍く恐ろしいほど激しい音がした。

 驚いて顔を上げれば、閣下が伯爵様を殴り倒している。

「……貴様を生かしておく必要など、もうないようだな……リリヴァリルフィランは、俺が連れていく」

 倒れた伯爵様は、すでに気絶していて、もう閣下の言葉は聞こえていないだろう。
 私は慌てて、閣下に駆け寄った。

「かっ……閣下!?? な、何をされているのです!?? …………きゃっ……!」

 驚く私の手を、閣下は強引に引っ張って連れて行った。
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