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陽仁の独白ー陽仁sideー
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(ふふ、俺が前の発情期の時にゴムに穴開けてたとも知らないで、俺に知られないように必死になってるゆづは可愛かったなあ…。)
陽仁がきゅっと目を三日月形に細めて口角を吊り上げる。
(…まさか子供ができたことが分かって俺から逃げるとは思ってなかったんだけどね…まあきっかけはあったみたいだけど。)
陽仁は優月に逃げる理由を与えた令嬢の家を思い出す。そこそこの企業ではあるが、確か上層部が未だに古い考え方に固執してるせいで社会情勢の変化についていけなくなりつつあり、最近緩やかに業績を落としていたはずだ。
(切ってもいいか。)
陽仁は思う。業績から考えても、この会社とはそろそろ取引をやめた方が良さそうだ。何より元からトップと気が合わなかったし、今は会長を務める祖父も確か好感を抱いていなかったはずだ。ただでさえ最近業績が落ち込んでいるのに、ここで東条グループからの支援がなくなれば件の会社は今後どうなるかなんて分かり切ったことだが、そんなことは陽仁の知ったことではなかった。
(ゆづが堕ろしたりしないだろうなっていうのは予想通りだけど、まさか一人で育てようとするなんて…まだシングルのΩへの支援なんて整っていないこのご時世、Ωが一人で子供を育てるなんてどんな無茶か、ゆづだって分からないはずないのに…全く、これだからゆづは予想できない。)
陽仁がため息をつきながらも優月を見つめる目を細めて、愛おしげに頬を撫でる。くすぐったかったのか、優月が唸りながらころんと寝返りを打って横向きになり、陽仁の方を向く。
「……。」
陽仁は優月を撫でていた手をそっと離して優月の鞄を手繰り寄せ、中からあるものを取り出す。
(しかもまさか、こんなものに救われることになるとはね…)
陽仁は手の中のもの――――――――優月のペンをじっと見る。このペンは陽仁が優月に付き合って初めての誕生日プレゼントとしてあげたものなのだが、実はこれにはとある仕掛けが内蔵されている。一見何の変哲もないペンなので優月も見逃してしまったのだろうが、このペンはペン先が出ている時だけ、音を拾って陽仁のところに聞こえる仕組みになっているのだ。そして優月が偶然手持ちの筆記用具の中から選んで持って行って、偶然今日ペンを落としてしまって代わりに偶然バッグから取り出して病院に持って行ったものだ。
「ふふ、偶然、ね。」
陽仁はその美しい顔に笑みを浮かべる。偶然とは何か。それはいったいどこまでがその一言で片づけられるものなのか。それは陽仁にも分からないが、陽仁は一つ確信を抱いていることがある。
(俺と優月は――――――――運命なんだ。)
陽仁が口角を吊り上げる。優月は結局、陽仁のもとへ帰ってくる運命だったのだ。ただ、それだけ。この世には”運命の番”というのがいるらしい。”運命の番”であるαとΩは、目が合った瞬間に惹かれあう、そういうものなのだと。あまりにも有名なその話を、陽仁は信じても疑ってもいなかった。ただ、相性のいい相手が人間の本能で分かり、惹かれあうようになっているのだと。それがαとΩという特につながりの強い性別同士で、その中でも相性のいい相手を俗にそう言うのだという解釈だった。しかし今となってはその解釈は、あっているとも間違っているとも言えるように思う。
(俺らは、初めから運命だったんだ。)
陽仁は自身にとっての運命の日を思い出す。運命の日―――――――――陽仁が優月に出会った日のことを。あの日、陽仁の色のない日々は終わりを告げた。見つけたのだ、運命を。
陽仁がきゅっと目を三日月形に細めて口角を吊り上げる。
(…まさか子供ができたことが分かって俺から逃げるとは思ってなかったんだけどね…まあきっかけはあったみたいだけど。)
陽仁は優月に逃げる理由を与えた令嬢の家を思い出す。そこそこの企業ではあるが、確か上層部が未だに古い考え方に固執してるせいで社会情勢の変化についていけなくなりつつあり、最近緩やかに業績を落としていたはずだ。
(切ってもいいか。)
陽仁は思う。業績から考えても、この会社とはそろそろ取引をやめた方が良さそうだ。何より元からトップと気が合わなかったし、今は会長を務める祖父も確か好感を抱いていなかったはずだ。ただでさえ最近業績が落ち込んでいるのに、ここで東条グループからの支援がなくなれば件の会社は今後どうなるかなんて分かり切ったことだが、そんなことは陽仁の知ったことではなかった。
(ゆづが堕ろしたりしないだろうなっていうのは予想通りだけど、まさか一人で育てようとするなんて…まだシングルのΩへの支援なんて整っていないこのご時世、Ωが一人で子供を育てるなんてどんな無茶か、ゆづだって分からないはずないのに…全く、これだからゆづは予想できない。)
陽仁がため息をつきながらも優月を見つめる目を細めて、愛おしげに頬を撫でる。くすぐったかったのか、優月が唸りながらころんと寝返りを打って横向きになり、陽仁の方を向く。
「……。」
陽仁は優月を撫でていた手をそっと離して優月の鞄を手繰り寄せ、中からあるものを取り出す。
(しかもまさか、こんなものに救われることになるとはね…)
陽仁は手の中のもの――――――――優月のペンをじっと見る。このペンは陽仁が優月に付き合って初めての誕生日プレゼントとしてあげたものなのだが、実はこれにはとある仕掛けが内蔵されている。一見何の変哲もないペンなので優月も見逃してしまったのだろうが、このペンはペン先が出ている時だけ、音を拾って陽仁のところに聞こえる仕組みになっているのだ。そして優月が偶然手持ちの筆記用具の中から選んで持って行って、偶然今日ペンを落としてしまって代わりに偶然バッグから取り出して病院に持って行ったものだ。
「ふふ、偶然、ね。」
陽仁はその美しい顔に笑みを浮かべる。偶然とは何か。それはいったいどこまでがその一言で片づけられるものなのか。それは陽仁にも分からないが、陽仁は一つ確信を抱いていることがある。
(俺と優月は――――――――運命なんだ。)
陽仁が口角を吊り上げる。優月は結局、陽仁のもとへ帰ってくる運命だったのだ。ただ、それだけ。この世には”運命の番”というのがいるらしい。”運命の番”であるαとΩは、目が合った瞬間に惹かれあう、そういうものなのだと。あまりにも有名なその話を、陽仁は信じても疑ってもいなかった。ただ、相性のいい相手が人間の本能で分かり、惹かれあうようになっているのだと。それがαとΩという特につながりの強い性別同士で、その中でも相性のいい相手を俗にそう言うのだという解釈だった。しかし今となってはその解釈は、あっているとも間違っているとも言えるように思う。
(俺らは、初めから運命だったんだ。)
陽仁は自身にとっての運命の日を思い出す。運命の日―――――――――陽仁が優月に出会った日のことを。あの日、陽仁の色のない日々は終わりを告げた。見つけたのだ、運命を。
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