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不穏な足音

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 姉と再会したとはいえその後に接触はなく、しばらくはなにもなく過ごしていた。
 あの日のことを碧斗さんがどう感じているかはわからないけれど、私から見る限りは普段通りのようだ。

 嫌な考え方かもしれないが、碧斗さんの平然とした様子に、彼の中で姉はもう過去の存在なのだと密かに安堵している。
 碧斗さんにとって姉との関係は、もう終わった話なのだろう。

 あの日以降、碧斗さんが彼女についてなにも話題にしないから、私もいつまでも引きずっていても仕方がないとわり切ることにした。

 先日、ついに録音の仕事が本番を迎えた。
 メンバーは年齢も性別もバラバラなのに、リハーサルがはじまればそんなものは関係なくなる。
 互いの考えを伝え合いながら作り上げていく過程は本当に楽しくて、心が浮きだった。
 私としては、満足のいく仕上がりになったと感じている。

 碧斗さんはCMがオンエアされるタイミングを知りたがり、録画をしようと張り切っている。
 母には認めてもらえなくても、こうして彼が応援してくれるから私は前を向いていられる。

 私の帰国を聞いた知り合いからもパーティーでの演奏依頼が来ており、引き受けることにした。

 加えて知人は、別の案件も紹介してくれた。
 個人で経営しているフランス料理店で、月に一度コース料理と音楽を楽しむイベントをしているそうで、私も挑戦してみてはどうかという。

 店のオーナーがジャンルを問わず無類の音楽好きで、若い演奏家を応援したいとはじめた企画だ。過去にはヴァイオリンやギター、オカリナなどの演奏会を開いており、客の反応も好評だったと聞いている。

 そんな話を碧斗さんにすると、彼はいつも『やってみるといいよ』と後押ししてくれる。さらに『俺も聴きに行こうかな』とまで言ってくれ、やってみようと決意した。
 
 母と姉に対面した記憶は、充実した毎日徐々に薄れていく。
 幸せな日々が続き、それがすっかり当たり前のようになっていた。

 姉から電話がかかってきたのは、これからの生活に期待を膨らませていた頃だった。
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