皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第二章 死がふたりを分かつとも

第49話 ダビデを袖にした少年

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 近づいて見ると、炭火で焼いた猪や兎や鳩肉の盛り合わせ、付け合せのレタスやビーツ、ガチョウの卵のパイ包み焼きに、蒸し焼きにしたムール貝。

 数種類のチーズや、上質な小麦で作った雪のように白いパンと、パンに添えられた生ウニやエビのオイル煮。
 ディキャンタには、水で薄められた様子もない真紅のワイン。

 それらは全て、上流階層の饗宴の席でしか見たことがない逸品ばかりだ。



「アルベルト陛下は、今夜ご自身の宴席のために用意させた料理を、館内で働く者達にふるまうように、仰られただろ? 陛下は宴席に招待客を召されないが、料理は常に十五名分は注文される。どうやら今まで陛下はご自身で食された後、余った分は下働きの者達で分け合って、食べてるはずだと勝手に思っていたらしい。それが、今回帰り際に門兵達と雑談して、館の下男にふるまうために、わざわざ残した料理が捨てられると知らされて、随分驚かれたみたいだぞ。……まあ、捨てたなんて言っているのは、表向きだけの話でさ。実際は、館のケチな主人が独り占めにして、自分や家族で食っちまってるらしいけど」


 ミハエルは、背もたれのない木の椅子に腰をかけつつ冷笑した。


 十八になったサリオンと、さほど齢は変わらないはず。
 ただ、ミハエルは「本当の齢はわからない」と言っていた。

 母親はオメガの奴隷で、アルファの貴族の館で小間使いをしていたらしい。主人のアルファの御手がつき、生まれた子供がミハエルだ。

 ミハエルの父親は、オメガの奴隷の小間使いに産ませた子供を、奴隷商人に売り飛ばした。
 幼い頃からアルファや、富裕層のベータの間で売買をされ、各地を点々としていたらしい。

 しかし、サリオンやレナと同じく、故国をテオクウィントス帝国に襲撃をされ、捕虜にされると、奴隷市場にかけられて、公娼の主人に買われたオメガだ。

 
 この公娼に買われてきて、初めて男娼として、身を売るようになったとも聞いている。

 すらりとした手足はレナのように色白で華奢ではないが、瑞々しい少年らしい、張りのある筋肉がついている。


 卵形の小さな顔に、ふわふわとした栗色の髪。
 潤った大きな両目の瞳も栗色だ。
 まっすぐに伸びた鼻の先がつんと上を向いていて、どこかしら気の強さも感じさせる一方で、ふっくらとした柔らかそうな唇が愛くるしく、天真爛漫な雰囲気をかもしている。


 レナのように、神秘的なまでに美しいというよりは、愛嬌がある甘い印象の面立ちだ。
 この無邪気な笑顔の少年が、あのダビデ提督を袖にしたと言われても、誰もが耳を疑うだろう。

 サリオンも、ミハエルが元々主人や客にこびへつらい、可愛がってもらおうと、媚びるような性格ではなく、見た目の印象を武器にして、周りから『無邪気だと思われた方が得』だから演じている、利発な少年だと感じていた。

 今夜のように、自分の『損』にしかならないことをは絶対にしないしたたかさを、サリオンは感じていた。
 それだけに、内心意外に思っていた。

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