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16 猫又の思い その1

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佐久夜は、空になったお椀とお皿を見て、にっこりと微笑んだ。

「よかった。アイツ飯食ってくれた」

猫又の姿は見えないが、神さまが神社にはまだ居ると教えてくれた。改めて猫又に晩ご飯の準備をした。

佐久夜の朝は早い。
朝五時起床。朱丸と一緒に、土鍋でご飯を炊く。釜戸の火は、朱丸に任せると社の雑巾掛け。境内の掃き掃除。ご飯が炊き上がると、朝ご飯と昼ご飯用のおにぎりを作る。朝食の後、食器を片付けると。ポリタンク二つに清水を汲んでいく。

電気、ガス、水道など生活に必要なライフラインが確立されていないため、全てがアナログな生活環境ではあるが、佐久夜は満足している。

七時半。佐久夜は、制服に着替えて【貮号】に跨り登校して行く。

社の屋根の上から、猫又はそんな佐久夜を投げめていた。

「全然、自分に得なことしてないじゃにゃいか」

佐久夜が出かけて行ったのを確認すると、猫又は土間の側にある板間に上がる。いつもの様に、朝ご飯が準備されているのを確認し、ガツガツと用意された飯を食べた。

佐久夜が登校した後、朱丸は釜戸の焚き口から灰を掻き出し新しい燃料となる木材や竹などを拾ってきては釜戸に放り込んでいく。竹は、朱丸が釜戸の中で、竹炭を作成している様だった。

釜戸の整備が終わると、朱丸は境内で何やら特訓らしきものを始める。猫又は、効率の悪い特訓方法を神社の縁からあくびをしながら眺めていた。

「まるでなってないにゃ」
「朱丸には、師事しやる者がおらぬでな。ああやって独自の特訓なるものをしておるのじゃ」

猫又は、隣りに現れた神さまを一瞥すると、再び目を閉じる。

「他の鬼火に教えてもらえば良いにゃ」
「そうじゃのう、それができれば一番良いのじゃが。……朱丸には鬼火の仲間がおらん」
「何にゃ、はぐれの鬼火にゃ」
「仲間は全て目の前で喰われた。朱丸も喰われそうになったところを、佐久夜が助け拾ってきたのじゃ」

妖とは、長い年月をかけ妖力を蓄積して行く。別に生き急ぐ言われはない。

「佐久夜の力になりたいと日々修練に励んでおる。愛い奴じゃ」

そう言いながら、神さまも猫又の隣に座り、瞑想を始めた。神さま自身も佐久夜が抱えてくる願いの成功をまた祈り続けていた。

そして夜八時半過ぎに佐久夜は帰宅する。神さまと朱丸は、さも当たり前の様に社の外に出て、佐久夜を出迎えていた。

一気に賑やかになる神社、その中心に佐久夜がいる。少し離れた屋根の上から、猫又は羨ましい気持ちになりながら見つめていた。

猫又が、まだ普通の猫だった時の遠い記憶。まだ、人間と暮らしていた時の甘い記憶が甦る。

「うんにゃ、オイラは、今も昔も自由……にゃ」


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