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52 スセリビメの社
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「ん?牛車の揺れが止まった。着いたのか?」
牛車の中は、扉が閉められ窓もない。提灯に明かりが灯されているため、車内は明るいが、閉鎖的な空間だった。
「そうかもにゃ。今、御者台から誰かが降りた音が聞こえたにゃ」
耳を前後左右に向けて、朧が答えると同時に、ガラリと牛車の扉が開けられた。
「お客人、どうぞこちらへ」
「あ、はい」
佐久夜は、朧を床に下ろした。朧は、身体をぶるぶるっと身震いさせた後、前脚と後脚を左右交互に伸びをすると、スタスタっと牛車から飛び降りた。浅葱、京平がその後に続いた。
「佐久夜兄ちゃん、行こう」
朱丸が、佐久夜の肩に乗ると、佐久夜も頷いて、牛車の中から足を踏み出した。
「うわぁ」
満開の桜、花びらがちらちらと舞い降りる。白い砂利が敷き詰められ、佐久夜たちの知る神社とは異なる朱と黒が真逆の鳥居の奥に、螺鈿が施された黒が基調の社が目の前にあった。
「佐久夜兄ちゃん、ウチのボロボロ神社と全く違うのは、『ウラ』の神社だからか?」
「いや、それは違うと思う」
朱丸は、真逆の意味から『オモテ』が、廃神社で『ウラ』が綺麗な神社と考えた。
「朱丸と朧のお陰で、ウチもだいぶ見た目良くなっただろう?」
「いや、佐久夜…風呂がない時点で、アウトだから」
京平は、行水させられた事を思い出して、笑いながら佐久夜にツッコミを入れた。
「ウホン!お客人、そろそろよろしいですか?」
腕を組みながら鴉天狗が、イラついた声で催促をしてきた。
「あ、すみません。余りにも社が美しかったもので…」
「う、美しい!!そうでしたか。そうでしょうとも!我が社は、我ら鴉天狗が、お使えしているほどの社です。お客人、お目が高い!」
鴉天狗は、すっかり機嫌を直し、饒舌に社の素晴らしさを語りながら、佐久夜たちを境内へ招き入れた。
境内の奥には、和室の客間があり、鴉天狗から、そこで待つように指示された。
「うにゃ…、異常はないにゃ」
朧は、真っ先に和室の前で、キョロキョロと四方を見回した後、警戒を解いて入室して行く。
「神の領域でございますから、大丈夫でしょ」
浅葱も遠慮なく入室して行く。朱丸、そして佐久夜と京平も和室に入ると、鴉天狗は、入り口に正座し、頭を下げた。
「ようこそ、お客人。ゆっくりお寛ぎくだされ。そこにある茶や菓子は、自由にお召し上がりくだされ」
再び頭を下げると、鴉天狗は立ち上がり、和室を退出して行った。
襖が完全に閉まると、浅葱は、急須にお湯を注ぎ、湯飲みに茶を淹れていく。佐久夜と京平は、座卓の側に置いてあった座布団に座った。
「お茶をどうぞ」
浅葱からそっと差し出された湯飲みを前に、少し体を硬直させた。
「飲んでも大丈夫にゃ。菓子も食べて大丈夫にゃ」
既に、座布団の上に座り、毛繕いを始めていた朧、朱丸を見ると座卓の上に置いてあった茶菓子を頬張っていた。
「ゴメンね、浅葱。ありがとう」
佐久夜と京平も、湯呑みを手にすると、コクリと一口。ほっと一息、そして二人見つめ合い笑った。
「お二人とも、面も外されても、問題ございませんぞ」
浅葱の言葉を聞き、朧を見ると、コクンと頷かれ、それを合図に二人は、面を外した。
この『ウラ』に来て、気を抜くことができた瞬間だった。
牛車の中は、扉が閉められ窓もない。提灯に明かりが灯されているため、車内は明るいが、閉鎖的な空間だった。
「そうかもにゃ。今、御者台から誰かが降りた音が聞こえたにゃ」
耳を前後左右に向けて、朧が答えると同時に、ガラリと牛車の扉が開けられた。
「お客人、どうぞこちらへ」
「あ、はい」
佐久夜は、朧を床に下ろした。朧は、身体をぶるぶるっと身震いさせた後、前脚と後脚を左右交互に伸びをすると、スタスタっと牛車から飛び降りた。浅葱、京平がその後に続いた。
「佐久夜兄ちゃん、行こう」
朱丸が、佐久夜の肩に乗ると、佐久夜も頷いて、牛車の中から足を踏み出した。
「うわぁ」
満開の桜、花びらがちらちらと舞い降りる。白い砂利が敷き詰められ、佐久夜たちの知る神社とは異なる朱と黒が真逆の鳥居の奥に、螺鈿が施された黒が基調の社が目の前にあった。
「佐久夜兄ちゃん、ウチのボロボロ神社と全く違うのは、『ウラ』の神社だからか?」
「いや、それは違うと思う」
朱丸は、真逆の意味から『オモテ』が、廃神社で『ウラ』が綺麗な神社と考えた。
「朱丸と朧のお陰で、ウチもだいぶ見た目良くなっただろう?」
「いや、佐久夜…風呂がない時点で、アウトだから」
京平は、行水させられた事を思い出して、笑いながら佐久夜にツッコミを入れた。
「ウホン!お客人、そろそろよろしいですか?」
腕を組みながら鴉天狗が、イラついた声で催促をしてきた。
「あ、すみません。余りにも社が美しかったもので…」
「う、美しい!!そうでしたか。そうでしょうとも!我が社は、我ら鴉天狗が、お使えしているほどの社です。お客人、お目が高い!」
鴉天狗は、すっかり機嫌を直し、饒舌に社の素晴らしさを語りながら、佐久夜たちを境内へ招き入れた。
境内の奥には、和室の客間があり、鴉天狗から、そこで待つように指示された。
「うにゃ…、異常はないにゃ」
朧は、真っ先に和室の前で、キョロキョロと四方を見回した後、警戒を解いて入室して行く。
「神の領域でございますから、大丈夫でしょ」
浅葱も遠慮なく入室して行く。朱丸、そして佐久夜と京平も和室に入ると、鴉天狗は、入り口に正座し、頭を下げた。
「ようこそ、お客人。ゆっくりお寛ぎくだされ。そこにある茶や菓子は、自由にお召し上がりくだされ」
再び頭を下げると、鴉天狗は立ち上がり、和室を退出して行った。
襖が完全に閉まると、浅葱は、急須にお湯を注ぎ、湯飲みに茶を淹れていく。佐久夜と京平は、座卓の側に置いてあった座布団に座った。
「お茶をどうぞ」
浅葱からそっと差し出された湯飲みを前に、少し体を硬直させた。
「飲んでも大丈夫にゃ。菓子も食べて大丈夫にゃ」
既に、座布団の上に座り、毛繕いを始めていた朧、朱丸を見ると座卓の上に置いてあった茶菓子を頬張っていた。
「ゴメンね、浅葱。ありがとう」
佐久夜と京平も、湯呑みを手にすると、コクリと一口。ほっと一息、そして二人見つめ合い笑った。
「お二人とも、面も外されても、問題ございませんぞ」
浅葱の言葉を聞き、朧を見ると、コクンと頷かれ、それを合図に二人は、面を外した。
この『ウラ』に来て、気を抜くことができた瞬間だった。
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