54 / 95
54 昔日
しおりを挟む
たった一人神社に残る神さまは、暗闇の中、床板の上で正座をしていた。
「すまぬのう……ひい」
ポツリ呟き、夜空を見上げ月を見る。名を失い、語ることを許されない神。ただ、今は皆が無事戻って来ることだけを願い祈り続けていた。
「佐久夜…大丈夫か?」
「あぁ、悪い」
(あれは、なんだったんだろう?断片的な誰かの記憶?)
佐久夜は、浅葱に貰った鏡を覗き見るも、先程のように急激に意識を持っていかれる様子はなかった。
(朧は、普通に毛繕いをしてる。だけど、あれは朧の逢魔だった時の記憶なのか?)
じっと見る佐久夜の視線に気がついた朧は、首をコテンと傾げる。
「どうしたにゃ?」
「いや、別に……」
佐久夜は、視線をもとに戻し、再び鏡を覗き込んだ。
「そんなに気に入ってもらえるなんて、嬉しい限りでございます」
「あ……いや…うん。浅葱ありがとうな」
襖がスッと開き、鴉天狗が再び部屋に入ってきた。お辞儀をして、顔を上げると佐久夜の持っている鏡に視線を移した。
「おや?お客人、それは、昔日鏡ですな。なかなか珍しい物をお持ちで」
「せきじつきょう?」
「はい、名前の通り、昔日。過去を覗き見る鏡ですぞ。過去を稀に見ることができる鏡ですな」
鴉天狗の目が細くなった気がした。
「へぇ、そうなんだ。あはは、恥ずかしい過去とか、思い出したくない黒歴史とか見たら嫌だなぁ」
後頭部を掻きながら、鴉天狗の言葉を濁した。
「そうですか、ならばウチで処分しておきましょう。代わりに、それよりももっと良い鏡を用意させていただきますぞ」
「いや、其れは俺が買った!?」
佐久夜は、抗議する浅葱を腕を出して制した。
「是非、お願いします」
「さ、佐久夜さま?」
佐久夜は、鴉天狗に鏡を渡した。鴉天狗は、先程の表情とは変わり、にっこりと微笑んで見せた。
「しかと。お客人が喜ぶ物を用意して見せましょう。それでは、ひいさまの準備が整いました故、案内いたしましょうぞ」
佐久夜たちは、立ち上がり鴉天狗の後に続いた。佐久夜は、浅葱の袖を引き、列最後尾に連れていった。
「浅葱、悪いな。訳はまた話す」
「佐久夜さま、判断にお任せするでございます」
浅葱も短い間ではあるが、佐久夜が無闇に好意を蔑ろにする人物ではない事をわかっていた。
「勿体無い!スセリビメちゃんの過去が見れたかもしれないのに」
京平は、残念そうに後頭部で手のひらを組んで、ボヤいた。
(それが、されたくないんだよ!鴉天狗は!!)
「ほほほ、ご冗談を」
鴉天狗は、全く笑っていない顔で、京平を睨みつけた。
「すまぬのう……ひい」
ポツリ呟き、夜空を見上げ月を見る。名を失い、語ることを許されない神。ただ、今は皆が無事戻って来ることだけを願い祈り続けていた。
「佐久夜…大丈夫か?」
「あぁ、悪い」
(あれは、なんだったんだろう?断片的な誰かの記憶?)
佐久夜は、浅葱に貰った鏡を覗き見るも、先程のように急激に意識を持っていかれる様子はなかった。
(朧は、普通に毛繕いをしてる。だけど、あれは朧の逢魔だった時の記憶なのか?)
じっと見る佐久夜の視線に気がついた朧は、首をコテンと傾げる。
「どうしたにゃ?」
「いや、別に……」
佐久夜は、視線をもとに戻し、再び鏡を覗き込んだ。
「そんなに気に入ってもらえるなんて、嬉しい限りでございます」
「あ……いや…うん。浅葱ありがとうな」
襖がスッと開き、鴉天狗が再び部屋に入ってきた。お辞儀をして、顔を上げると佐久夜の持っている鏡に視線を移した。
「おや?お客人、それは、昔日鏡ですな。なかなか珍しい物をお持ちで」
「せきじつきょう?」
「はい、名前の通り、昔日。過去を覗き見る鏡ですぞ。過去を稀に見ることができる鏡ですな」
鴉天狗の目が細くなった気がした。
「へぇ、そうなんだ。あはは、恥ずかしい過去とか、思い出したくない黒歴史とか見たら嫌だなぁ」
後頭部を掻きながら、鴉天狗の言葉を濁した。
「そうですか、ならばウチで処分しておきましょう。代わりに、それよりももっと良い鏡を用意させていただきますぞ」
「いや、其れは俺が買った!?」
佐久夜は、抗議する浅葱を腕を出して制した。
「是非、お願いします」
「さ、佐久夜さま?」
佐久夜は、鴉天狗に鏡を渡した。鴉天狗は、先程の表情とは変わり、にっこりと微笑んで見せた。
「しかと。お客人が喜ぶ物を用意して見せましょう。それでは、ひいさまの準備が整いました故、案内いたしましょうぞ」
佐久夜たちは、立ち上がり鴉天狗の後に続いた。佐久夜は、浅葱の袖を引き、列最後尾に連れていった。
「浅葱、悪いな。訳はまた話す」
「佐久夜さま、判断にお任せするでございます」
浅葱も短い間ではあるが、佐久夜が無闇に好意を蔑ろにする人物ではない事をわかっていた。
「勿体無い!スセリビメちゃんの過去が見れたかもしれないのに」
京平は、残念そうに後頭部で手のひらを組んで、ボヤいた。
(それが、されたくないんだよ!鴉天狗は!!)
「ほほほ、ご冗談を」
鴉天狗は、全く笑っていない顔で、京平を睨みつけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる