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3-2.半透明の同居人

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「あ゛あ゛あ゛っ(ガバッ)っはぁ…はぁっ、はぁっ、はぁ…はぁ…はぁ……夢か。」

 ここはベッドの上。汗だくで目が覚めた。当然、良心を忘れた狸ジジイもここには居ない。

「(くしゃっ)……またかよ。」

 忘れたい事に限って、中々忘れられないんだよなぁ。

「………筋トレするか。」

 わたしはアレク。前世で拷問を受けて死んだわたしは、森に捨てられた子供に転生し、心優しい人から3ヶ月間の治療とリハビリを受けた。

「…30!腕立て終わり!次!」

 そのおかげで苦痛は和らぎ、歩ける様になった。だから、この恩を返す為に6ヶ月前から時給自足をしながらこの小屋で、まだ戻らないあの人を待ち続けている。

「…30!腹筋終わり!次!」

 自身の治療薬の作成はもちろん、薬草や食料の確保、薬学の勉強、筋トレ、その他諸々をこなせる様になった。

「…30!……ふぅ。よし!筋トレ終わり!!」

 そうして、この世界に転生して9ヶ月が経過した。

「(スクッ)…次は、薬だな。」

 今では、薬を作るのも大分手慣れてきた。最近は、あの人の手記を元に、色んな薬を試作している。

「…さて(パシッ)今日は……ん?」

 ………軽い?

“「(スォォォォッ)」"
「うぉっ!?」
“「♪(プルン)」“
「…プヨ、またコップに化けてたのか?」

 相変わらず、見事なもんだな。

“「♪(プルプルプル)」“
「………」

 こいつはプヨ(仮名)。この前、森で拾ったわたしの同居人だ。

 わたしは、あの人の様に名前を長考する気は無い。だから、こいつが気に食わないようなら後で改名してやろうと思っていた。

“「(プルルンッ)」“

 でも、手のひらの同居人は不満が無いようだ。……本当に良いのか?

“「?(プルンッ)」“

 プヨについて、わかった事がいくつかある。

 まず、外観。

 形状は、基本的にはおよそ直径5cm程度の饅頭の様な形だが、必要に応じて形状は変化させられる。
 体色は、半透明な緑色で、表面に艶がある。
 触感は、餅とゼリーを掛け合わせた様な独特の感触をしていて、手のひらに乗せるとひんやりとしている。

「ちょっと……(そっ)…端に寄っててな?」
“「○(プルンッ)」“

 次に、プヨの餌。

 こいつのエサは木の葉や枯れ枝、砂、石、土。それと、生物の死骸も該当する様だ。
 特定の口と呼べる様な器官は無く、捕食する時は体で包み込んでから体内で消化している。
 どうやら、生きているものを消化・吸収する事はないらしく、生態系におけるニッチは、恐らく分解者。
 生物分類的には、ボルボックスやパンドリナの様な細胞群体であると考察される。


 しかし、体内に核とおぼしき結晶構造が見え、単一しか無いことから細胞群体として分類可能かはまだ不明である。(しばらく後に観察し直すと、消えて無くなっていた。)


「(カチャカチャッ)そうだ。プヨ、掃除をしててくれ。」
“「?(クイクイッ)」“
「いや、包帯は後で良い。今は掃除の方を頼む。」
“「○(プルンッ)」“

 次に知能レベル。
簡単なボディランゲージで意思の主張が可能。喜怒哀楽も何となくわかる。何度か試した結果、こちらが指示を出すと指示した通りの行動を取る事から、こちらの言語を理解している様だ。

“「♪(コロコロコロコロ)」“

 プヨは掃除が好きらしく、ああして部屋の中を転がっては砂や汚れを取ってくれている。
 特に興味深いのは、取り替えた包帯の血や汚れだけを取り除いた洗浄能力だ。
 包帯には一切の損傷が見られない事から、汚れを優先的に食物と認識しているのだろう。となると、相当な識別能力を有していると考えられる。

“「(プルンッ)」“
「えっ?もう終わったのか?」
“「(クイックイッ)」“
「あぁわかったわかった。(シュルルッ)もうちょい待ってろ。」
“「(プルプルプルプルッ)」“
「そんな急かすなって…(パサッ)ほら、頼む。」
“「!(シュパッ)…♡(ムグムグムグ…)」“
「……ほんとお前、懐っこいな。」

 次に警戒心。

 警戒心が無いのか、わたしに懐いて来ている。自然界においては、直ぐに淘汰される事になる避けるべき行動だろう。
 もしかしたら、わたしと出会う以前に誰かによって飼育されていたのかもしれない。
 さっき述べた洗浄能力からもその可能性は高いと考えられる。

「……よし、あとはこれを……(コポポッ)」

 そして、特筆すべきは、その擬態能力だ。

 色・形に留まらず、手で触れた質感までもほぼ完全に擬態して見せている。
 たまに周囲の何かに擬態している為、ガラス製品や書物を置いてみると、それらへの擬態も可能である様だ。

「よし、出来た!問題は……」

 ただし、自身の体積を超えるものに擬態しようとすると、スカスカになってしまう様で、重さや耐久性の面で見分ける事が可能である。

「(コクコク…コクンッ)……よし、上出来だ。」
“「(スッ)」“
「おお、丁度終わったか。ありがとな。」
“「♪(プルンッ)」“

 以上が、プヨの概要だ。

 警戒心の無さと擬態能力は、明らかに矛盾している様に思える。だから、相手から隠れるために獲得したものではないのかもしれない。だがそうすると、何故この能力を獲得することになったのか。そもそも、警戒心が無い事はこいつの個性か習性か…まだまだ不明な点はいくつもある。

「(シュルシュルシュル…)これでよし…と。」

 まず言える事は、こいつがこの3ヶ月間でわたしに敵意を向けたり逃げたりする事が一切無かったという事だ。こいつもここを気に入ってくれているって事だろう。

 人間ではないにしろ、話し相手が出来た事は純粋に嬉しい。

「……そろそろ、また補充が必要か。」

 薬草が残り少ない。食料も取ってきた方が良いだろう。例えば……肉とか。ここに置いてある書物によると、他にも動物がいるらしい。つまり、いつもの場所には生息していない事になる。

 だから、今日はいつもと逆方向へ行ってみよう。

「(キュッ)……よし!」

 準備は済ませてある。一応、今日試作した薬一式も持って行っておこう。

「(ガチャッ)じゃ、留守番を頼む。」
“「(プルンッ)」“

 そうしてわたしは、いつも通りに森へ出かけた。
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