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診察は手術の後で
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不意に見せたあどけない笑みに、夕映の胸が疼いた。じわじわとくすぐるような感覚がなんとなくもどかしい。それでもなぜか心地よくて、やっぱり好きだなぁと心の中で呟いた。
「私も……自分の病気だから、甲状腺には興味があります」
「うん」
「でも……勉強してても楽しくありませんでした」
夕映ががくりと肩を落とすと、旭は軽く頷いた。
「小柳さんは素直ですね。俺も、知らないこと全てが楽しく感じるわけじゃない。苦手な分野もあるし。楽しく思える分野は少なくとも自分に向いてる分野だと俺は思ってる」
時折敬語が混ざる旭の言葉はちぐはぐだけれど、秒針が24時間を目指すかのように果てしなくゆっくりとしたスピードで少しずつ、少しずつ夕映に近付いている感覚がした。
「向いてる?」
「そう。向き、不向きは自分じゃわからないけど、少なくともこれなら頑張れそうだとかこれなら少しだけ楽しいかもって思うことが継続に繋がると思う。無理をしても途中で投げ出したくなったら意味がないしね」
「そうですね……先生はお医者さんになってよかったですか?」
「そうだね。後悔したことはないかな。日々勉強の積み重ねだし、全員の命が救えるわけじゃないけど……」
「私も先生がお医者さんになってくれて嬉しいです。3年間、治療してくれてありがとうございました。先生の患者になれて幸せでした」
夕映が座ったまま、その場で頭を下げると、旭は目を大きく見開いて瞳を揺らした。好きだとか、付き合って下さいと言われた日には戸惑ったが、こんなふうに改めて患者としてお礼を言われると感慨深いものがあった。
それと同時にもう自分の患者じゃないのか、とふと思った。
「私も……自分の病気だから、甲状腺には興味があります」
「うん」
「でも……勉強してても楽しくありませんでした」
夕映ががくりと肩を落とすと、旭は軽く頷いた。
「小柳さんは素直ですね。俺も、知らないこと全てが楽しく感じるわけじゃない。苦手な分野もあるし。楽しく思える分野は少なくとも自分に向いてる分野だと俺は思ってる」
時折敬語が混ざる旭の言葉はちぐはぐだけれど、秒針が24時間を目指すかのように果てしなくゆっくりとしたスピードで少しずつ、少しずつ夕映に近付いている感覚がした。
「向いてる?」
「そう。向き、不向きは自分じゃわからないけど、少なくともこれなら頑張れそうだとかこれなら少しだけ楽しいかもって思うことが継続に繋がると思う。無理をしても途中で投げ出したくなったら意味がないしね」
「そうですね……先生はお医者さんになってよかったですか?」
「そうだね。後悔したことはないかな。日々勉強の積み重ねだし、全員の命が救えるわけじゃないけど……」
「私も先生がお医者さんになってくれて嬉しいです。3年間、治療してくれてありがとうございました。先生の患者になれて幸せでした」
夕映が座ったまま、その場で頭を下げると、旭は目を大きく見開いて瞳を揺らした。好きだとか、付き合って下さいと言われた日には戸惑ったが、こんなふうに改めて患者としてお礼を言われると感慨深いものがあった。
それと同時にもう自分の患者じゃないのか、とふと思った。
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