その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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 一旦自分の病棟に戻った夜天は、入院患者の回診を行い、処方を出す。それから検査結果の確認をして新たに検査のオーダーを入れた。近くにいた看護師に指示を出し、淡々と仕事をこなす。

 忙しい時間を病棟で過ごし、やっとの思いで外来までやってきた。やり残していた仕事を思い出したのだ。明日は1日病棟にこもるし、別の医師が外来に入るから本日残した仕事を片付けなければと思い、廊下を進む。
 既に時刻は20時を回っていた。真っ暗な廊下で、人の気配はない。外来の廊下など寂しいものだ。それなのに1つ明かりがついていた。内分泌内科である。

 お……旭か? いや、違うか? アイツ、外来日何曜だったっけ?

 記憶を辿るが、こんな遅い時間におっさん医師がいるはずがない。そう思い、内分泌内科のドアに手をかけた。

「先生は変な噂とかされてませんか?」

 そんな声が聞こえ、夜天は手を止めた。どうやら中にいるのは1人じゃないらしい。音を立てないよう、ゆっくりとドアを開けた。カーテンで仕切られた向こう側に人の気配があった。

「大丈夫ですよ。特にいつもと変わりはありません」

「そうですか……。よかったです。私のせいで先生が嫌な思いしてたら困るから……」

 どちらも聞き覚えのある声だった。1人は旭だと認識できた。もう1人は……。

「私が契約を持ちかけたから悪いんですけど……でも今更付き合ってるフリをしてましたって言えないですしね」

 ……え?

 夜天はドアノブを握りしめたままピタリと動きを止めた。

 付き合ってるフリ……?

 パチパチと目を瞬かせて、会話に集中する。

「まぁ……そうだね。頃合をみて別れたことにしようか」

「……寂しいです」

「そう言わないでよ。最初からそういう約束でしょ」

「少しも私のこと好きじゃないですか?」

「患者さんとしては好きだよ。看護師さんとしても。でも付き合うことはできないよって言ったよね?」

「……はい」

 穏やかな声だが一線を引く旭の声が聞こえた。そっと口元を手で覆う夜天。相手は夕映だと気付いたのだ。

 どういうことだ!? 契約ってなに……付き合ってるフリってなんだよ。じゃあ、あの女は旭の彼女でも何でもないってことか? でも、女の方は旭に惚れてる口振りだよな……。何がどうなってんだよ……。

 思考が追いつかない夜天は、そっとドアを閉めると頭を整理する作業に入った。
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