その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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「失礼します」

 夕映の声が聞こえ、ドアを閉まった瞬間、夜天は後ろから夕映の口を塞ぎそのまま攫った。小さな体は子供の誘拐のようにあっさりと攫われたのだ。

「んー、んー」

 もがく夕映は、恐怖と戦っていた。先程まで旭と外来の診察室にいたはずなのに、なぜか誘拐されたのだから驚くのも当然だ。じたばたと暴れた夕映を押さえつけ、そのまま呼吸器内科の外来診察室に連れ込んだ。

「ぷはっ」

 ようやく解放された口で大きく息を吸い込んだ夕映。何が起こったのかとキョロキョロと見渡せば、首が痛くなるほど見上げる位置に顔があった。それも、昨日会ったばかりの男だ。

「ひぃっ」

 小さく悲鳴を上げた夕映が中腰になり首を窄めた。こんなところまで追いかけてきたのかと気が気じゃない。

「おい、お前」

「っ……」

 ビクリと体を震わせ、恐る恐る顔を上げた。殺されるんじゃないかと震えた唇と、カチカチと歯がぶつかり合う音を立てる。

「お前、旭の彼女じゃないってどういうことだよ」

「はい!?」

 なぜそのことを!? と夕映が飛び上がる。夜天はずいっと顔を近付け「契約だと? 付き合ってるフリだと? 答え次第じゃバラすぞ、コラ」と脅しにかかった。

「ななななななななんのことでしょうかぁ!?」

 上擦った夕映の声に、夜天はピキンと怒りを顕にする。

「説明しろ。全部聞こえてんだよ。今旭と話してたろ?」

 夕映は、白目を向いて倒れそうになるのをなんとか堪えた。なぜここにこの男がいるのか、なぜこんなタイミングで聞かれていたのか、この男の目的はなんなのか。
 ぐるぐると頭の中で思考が渦を巻く。とりあえず解放されることなどなさそうな状況に夕映はただただ項垂れるしかなかった。



 結局夕映は、「正直に話せば黙っててやる」という甘い言葉に従うしかなかった。旭のことが好きで、告白し続けたが玉砕に終わっていること。旭には好きな人がいるが、迷惑をかけたくないからと困っていたこと。それを利用して夕映が契約を持ちかけたこと。その全てを洗いざらい喋らされるはめになった。

 小さくなって肩を震わせる夕映。お説教が飛んできそうでひたすら怯える。
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