その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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「ほー。なるほどな。それで、旭の好きなヤツって誰?」

「それは言えません。口が裂けても言えません。先生の秘密は墓場まで持って行くと決めているんです」

「ああ、そう。既婚者か」

「えぇ!?」

 さらりとそう言ってのけた夜天に、夕映は慌てて顔を上げた。夜天は軽く息をつき「当たりだな」と言った。

「ち、ちち違いますよ!」

「違わねぇだろ。思い切り動揺してんじゃねぇか。迷惑かけたくないって言ったってことは、好きになったら相手が困るってことだろ? そんなの既婚者以外にいるかよ」

 冷静な夜天の分析になるほど、と納得させられてしまう。しかし、相手が男性であることまでは気付かれていないようだ。夕映は、既婚者の女性ということにしてしまおうと設定を作った。

「そ、そうですけど……相手までは言いませんよ」

「いいよ、別に。そこまで興味ねぇから」

「あ、あの……渕上さんは、どうしてここにいるんですか?」

「あ? ここの医者だからに決まってるだろ」

「えぇ!?」

 夕映は、顎が外れそうなほど大きく口を開いた。それから目をひん剥いて信じられないと夜天の瞳孔を見つめた。

「知らねぇのかよ。旭の同期だぞ」

「あぁ! だから、パーティーにいたんですか!?」

「じゃなきゃ俺がわざわざ誰かの付き添いで行くわけねぇだろ」

「そ、そんな……先生だったんですか」

「俺、わりと有名だぞ。院内では」

「お見かけしたこともなく……」

「離れてるからな。お前がいる病棟と」

「え……わ、私がいる病棟を知ってるんですか!?」

 夕映はズサササっと後退り、目を泳がせた。夜天は呆れたようにドサッと椅子の背もたれに背を預け、「今日行ったんだよ。6Aに」と続けた。

「な、何しに……」

「お前の様子を見に。めちゃくちゃ怒られてたな」

「……う」

「そんで、すげぇ嫌われようだな」

「うぅ……」

「お前のこと辞めさせてやるって言ってたぞ」

「ひぃぃぃ……」

 プルプルと小刻みに震える夕映。小動物にしか見えないその姿に、夜天は堪らずぶはっと吹き出した。
 おかしくて、腹を抱えて笑う。

「お前、何であんなに嫌われてんだよ」

「そ、それは……」

「旭と付き合ってないなら、今からでも嘘だって言えよ」

「い、言えませんよ……。言ったところで、今度は反対に面白がられるに決まってます」

「あー。そうか、だな」

「です……。あの、渕上先生はこのこと知らないんですよね?」

「は?」

「心配かけたくないので、渕上先生が見たことは、渕上先生には言わないで欲しいんです。も、もちろん荻乃先生にもですよ。あ、でも渕上先生が」

「おい。やめろ。わかりにくい」

 夜天はぐっと顔を歪める。渕上先生、渕上先生と連呼するが希星を指しているのか、自分なのかわけがわからなかった。
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