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6 エルツ視点
しおりを挟む私はブラウさんと一緒に、食べ終わった食器を厨房に運んだ。
「今日はボクが後片付けをするから、エルツはそれを見ていて」
ブラウさんはそう言うと食器を洗い始めた。
「朝から騒がしくさせちゃってごめんね。これからグラナートに怒られる事があるかもしれないけど、最近は誰に対してもあんな感じだから……あまり気にしないでね」
はい、と私が答えるとブラウさんは悲しそうに笑った。
「痛っ」
ブラウさんは洗っていたナイフをパッと離すと自分の手を見た。
指先を切ってしまったらしく血が出ている。
「早く止血をした方がいいです。ハンカチは持っていますか?」
「え……うん」
ブラウさんはポケットからハンカチを取り出した。私はハンカチを受け取って止血をする。
ブラウさんは私の様子を不思議そうに見ていた。
「どうして傷の手当てができるの?」
「……医学を学んでいたので」
「そっかぁ」
私は嘘は言っていないが、両親から折檻を受けた時に自分で手当てをするしかなかったから、という事は言えなかった。
「残りは私が洗います」
「ありがとう。横で見てるね」
止血が終わり、私はブラウさんと交代して食器を洗った。
最初、ブラウさんは私の手元を見ながら助言をしてくれていたが、急に何も言わなくなってしまった。
何か失礼な事をしてしまったのかと思いブラウさんを見ると、ブラウさんの視線は私の顔に向けられていて目が合った。
ブラウさんは心配そうな顔をして私を見ている。
「どうかなさいましたか?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていて……」
ブラウさんはそう言うと、うーん、と言って考え込んでしまった。
「終わりました」
ブラウさんは私の言葉を聞いてハッと顔を上げる。今までずっと下を向いて考え事をしていたようだった。
「ありがとう。……あのさ、グラナートの事なんだけど……ボクも協力するからエルツはできるだけ関わらないようにした方がいいと思うんだ」
「……どうしてですか?」
「さっきは誰に対してもああいう態度をとるって言ったけど、女性に対しては特に当たりが強いんだ」
「だから私以外に女性がいないんですか?」
「うん。元々女性の使用人には懐いてなかったけど、一年前から特に態度が酷くなってね。言うことは聞かないし、仕事の邪魔はするし……女性はどんどん辞めちゃって半年前には男だけになったんだよ」
……そうだったのか。
グラナート様はどうしてそこまで女性を嫌うのだろう。
女性といえば今まで奥様の姿を見ていない。私以外に女性はいないと言っていたので、理由はわからないが奥様はこの家にはいないのだろう。
ブラウさんは、ふぅとため息をついた。
「まあ、色々あったから荒れる気持ちは分かるんだけどさ。最近はちょっと……何て言うんだろう。うまく言えないけど、悪化してるような気がして……それが心配なんだ」
「……そうだったんですね」
「なるべくエルツがグラナートと接する機会は少なくなるようにするつもりだけど、エルツには家の中の仕事をしてもらうから、どうしてもグラナートと顔を合わせる事になると思うんだ」
「お気になさらないでください」
「でも……」
「私は外に出る事ができないので、せめて家の中の仕事は全部やらせてほしいんです」
「だけど……」
「使用人として働く事で少しでも皆様の役に立ちたいんです。ですが、私のせいで余計な気をつかわせてしまうのなら、役に立つどころか迷惑をかける事になってしまいます。……それだけは嫌なんです」
お願いします、と言って私は頭を下げた。
「……わかったよ」
ブラウさんはしばらく間考え込んだ後に、しぶしぶ受け入れてくれた。
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