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3 過去の話 サフィーロ視点

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 僕がこの家の養子になって一年が経とうとしていた。

 綺麗な家で優しい人達に囲まれながら美味しいご飯を食べる事ができる今の生活は夢のようだった。


「サフィーロ」

 部屋の外から声が聞こえる。

 サフィーロ……お父様とお母様が僕に付けてくれた名前だ。
 今でもこの名前で呼ばれると嬉しくて顔がにやけそうになる。

「サフィーロ?」

「あ、ごめん。今開けるよ」

 そう言って扉を開けるとブラウがいた。

 最初、世話係として紹介された時は仲良くなれるか心配だったが、すぐに打ち解けて今では頼れる兄のように思っていた。

「旦那様と奥様が、話があるから来てって」

「わかった」

「ボクも一緒に来るように言われてるんだ。なんの話だろうね?」

 僕はブラウの後に着いて行った。


 お父様とお母様の部屋に入ると、二人は大きなテーブルを囲むように置いてある椅子に並んで座っていた。

「あなた達も座って」
 
 僕達は、お母様に言われた通りに二人の正面に並んで座った。

 お父様は内緒話をするような小さな声で言う。

「まだ他の使用人には言っていないが、二人には先に伝えておきたい事があって呼んだんだよ」

 お父様はとても嬉しそうな顔をしている。

 よほど良い事があったのだろう。


「実は私達の間に赤ちゃんができたんだ」

 赤ちゃん……

 二人の血が繋がった子どもができたんだ。
 
 僕は膝の上で拳を握りしめた。

「お、おめでとうございます」

 声がうわずってしまったが、ちゃんと笑って言えただろうか……?

 僕は今自分がどんな顔をしているのかわからなかった。
 

 ……手に何かが触れた感覚がする。

 パッと自分の膝の上を見ると、僕の固く握った拳の上にブラウが手を置いていた。

「おめでとうございます。他の使用人にはいつ伝える予定なんですか?」

 ブラウがそう聞くと、お父様が答える。

「今日の夜に言うつもりだよ。妻は身体が弱いから人一倍気をつけないといけないし周りの協力が必要だろうから、早めに伝えた方がいいと思ってね」

「そうですか。それなら夜に仕事が残らないように早く他の使用人の手伝いをしたほうがいいですね」

 ブラウは僕に、行こう、と言って椅子から立ち上がった。

「あ、待って。まだ伝えたい事があるの」

 ブラウはお母様に呼び止められた。

 自分達の子どもができたのなら養子はもう必要ない。きっとお母様はその事を言いたいんだろう。

 ブラウが座り直すとお母様は僕の目を見て言った。

「サフィーロ、あなたは私達の子どもよ。だから、この家はあなたに継いで欲しいと思っているの」

「え……」

「お腹の中の子にはあなたが養子だという事は伝えないつもりなのよ」

 もし僕が後継者になったら、これから先何があってもこの家から追い出されることはないだろう。

 ずっとこの夢のような場所で生きていけるんだ。

「私達はそう思っているけどあなたの気持ちは?」

 ……僕の答えは決まっていた。


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