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串焼き屋、開店!

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「川がある! ゴブリンの死体触っちゃたから、私、手を洗いたい!」

 私は森を出て、小川を見つけるなり、声を上げた。

「あ! サヤも!」
「キノコは……洗うべきか。いや、栄養が流れるかな? 洗うのは斧か」

 私と紗耶香ちゃんはめっちゃ手を洗った。
 ゴブリンの死体に触れたので、必死だった。
 禊ぎ!

 コウタは血のついた斧を洗い、サビないよう刃の部分はしっかり布で拭いてた。

 *

 宿に戻ったコウタはステータスを確認した。

「異世界人 レベル1だったのがレベル3だって」
「ん? 戦士とかのジョブが増えた訳じゃないの?」

 私は紗耶香ちゃんの女優みたいに、コウタには新たなジョブが増えたと思ってた。

「ゴブリン一匹倒したくらいじゃダメなんだろう、あれ、農夫でも倒せるらしいし」
「ああ、そっかー。
確かにゴブリン一匹で戦士になれるならその辺のちょい喧嘩強い人も簡単になれそうだもんね」

「でもレベルは上がったんだし、良かったじゃん! コータ君、おめ!」
「ありがとう、水木さん。微々たる上昇だけどね」

「まず私達はあっちで見た物が買い物できるだけでもかなりのチートだもんね。言語も分かるし」
「ああ、地道に行こう」

「ねー、明日は市場で焼き鳥屋開店する!?」
「そうだな、せっかく許可取ったし、森に行く時、冒険者一人くらいは雇えるようにお金を稼ごう」

「とりあえずタレ作ってから、お風呂屋行って、んで、宿に戻って寝よう」
「りょ!」
「ついでに風呂屋で会った人に明日串焼き屋を開店って宣伝でもして来ようかな。
焼き鳥屋って言うより通じる気がするし、他の食材使いたい時に便利だし」

「風呂屋で宣伝!? コウタ、えらーい!」

 私は素直にコウタを褒めた。 地道な宣伝って大事かも。

「私も可能そうなら宣伝やるわ」
「サヤも頑張ってみる」


 まずお風呂の前に私達は焼き鳥のタレを完成させた。
 使った材料は醤油、砂糖、味醂、料理酒。

 そして、お次は……お風呂屋さんへ。

 紗耶香ちゃんとコウタは風呂屋で頑張って宣伝した。

 私はあんまり出る幕がなかったので、紗耶香ちゃんの隣で適当に相槌などをうっていた。



 * *

 宿に戻ったら赤星食堂の女将さんにハンバーグのレシピのお礼だと、夕食を三人分、出して貰えた。
 メニューはシチューとパンだった。
 ラッキー!! ゴチになりました!
 

 思いがけず一食分浮いたので、帰り道にコウタが収穫したキノコは炊き込みご飯のおにぎりにして、串焼き屋屋台でのまかない料理にするんだって。

 *


 夕食後、紗耶香ちゃんと私は女子部屋に戻った。

 食堂は既に酒場に変わって賑やかな声が階下から聞こえて来る。
 今は人々の騒めきにかえって安心出来る気がする。
 虫と鳥の鳴く声が響く森の中で、突如平穏を切り裂くモンスターの声って普通に恐怖体験だった。


「紗耶香ちゃん、私は寝る前に巻きスカート用の布を仕上げる為に、この布の端っこを縫うね」

 私は市場で買った巻きスカート用の布を広げて見せた。

「え? カナデっち、針と糸、いつの間に買ったの?」
「修学旅行の荷物に小さなソーイングセットを入れてたの」

「カナデっち、凄い! 漫画のヒロイン! 
男の服のボタン取れたらすぐにつけてくれる家庭的スキルがあるヒロインじゃん! 
男がときめいて惚れるやつ!」

 紗耶香ちゃんが目をキラキラさせて私を見た。
 ──いやいや、

「これは自分の為に持ってただけだよ。てか、そのヒーローちょろ過ぎない?
ボタンつけたくらいで惚れるとか」

「だってヒロインはそもそも可愛いからさ。
わざわざボタンつけてくれるとか、自分に特別親切だと感じたら、多分落ちると思う」

「ああ、そういや確かに、主人公とかヒロインなら大抵は可愛いか」

「えー、でも、でかしたと言わざるを得ないよネ。マジで針と糸とミニハサミ入ってる、凄い」
 
 紗耶香ちゃんは私の小さなソーイングセットを見て感心してる。

「縫い物ちょい時間かかるから、先に寝てていいよ。
んで、紗耶香ちゃんも縫い物するなら、明日はこのソーイングセットを貸すよ」

「カナデっち、ありがと~~明日の夜に余力が有れば借りる」

 そう言って紗耶香ちゃんは明日に備えて先に寝た。

 私は寝る前にランタンの灯りで巻きスカートを完成させた。
 端っこを縫って、安全ピンで止めるだけだから、難しくはなかった。



 *

 翌日。

「よし、昨夜は風呂屋で宣伝もしたし、今日はやるぞ」

 コウタは手際良くタープテントを設置して、バーベキューセットを設置して、さらに炭に火をつけた。

「あれ? コウタ、何その道具」

 私はコウタが火付けに使っていた見慣れない道具を指差して訊いてみた。

「昨夜、火をつけないといけないの思い出して、ファイヤースターターを寝る前に買ったんだ。
メタルマッチとも言うんだが、金属を削って火花を発生させて点火するアイテムでな、水に強くてアウトドアやサバイバルでも活躍するやつ」

「へー、それはおいくら?」
「千円だった」
「繰り返し使えるなら悪くないわね。あ、団扇有れば良かったね。パタパタするやつ」

「風が欲しいの? サヤのハンディミニ扇風機使う? 旅行カバンに入れてたの思い出した」
「使いたいけど、それ、どこで買えるのって聞かれたら困るんじゃないかな」

 コウタがクールに言った。

「「ああ~~」」

 私と紗耶香ちゃんはガッカリした。

「あ、そういや扇子も入ってたわ! サヤの鞄。昔、可愛くて買ったブランドの扇子が。これなら可愛いけど、プラスチック丸出しの物じゃないから良いんじゃない? 木と布だし」

 扇子に使われてる花柄のプリント布が可愛いけど、布に柄が付いてるのはどっかの職人が描きましたで通用するかな?

「可愛いブランドの扇子に焼き鳥の匂いがついても後悔しない?」

 私は女子が気にしそうな事を一応訊いた。

「今は生きる為に商品売らないとだし、全然イイよ~~」

 紗耶香ちゃんはけろりとした顔をしてるので、本当に良いのだろう。

「煙パタパタしたら美味しそうないい香りだって、客が釣れるのでは?」

 紗耶香ちゃんはコウタから先日買い取った麻の鞄から扇子を取り出して、パタパタと網の上で焼かれている焼き鳥を煽いだ。

 扇子は実はアイテムボックスから取り出したのだけど、偽装であった。

「お、いい香りがするな。串焼きか、一本くれ」

 冒険者風の男の人が最初のお客様になって買ってくれた! 早速客が釣れた!

「はい! かしこまり!」

 紗耶香ちゃんは愛想のいい笑顔で応えた。
 私も店の一員だ、お礼を言おう。

「お買い上げ、ありがとうございます!」

「へい! 焼き鳥一丁!」

 焼き上がった焼き鳥をコウタが手渡すと、冒険者風の人はすぐそばで食べた。
 立ち食い。

「え!? めちゃくちゃ美味い! もう3本追加!」
「「「ありがとうございます!!」」」

「へい! 焼き鳥3本追加!」

 すっかり居酒屋店員風になってるコウタだった。
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