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「サラ、やっと入学してきたんだな!」

目の前に背の高いキラキラした人がやってきたと思ったら、両腕を鷲掴みにされ、前後に揺すられる。
く、首が痛いです。

「あの……」

「ん?どうした?」

満面の笑みで顔を覗き込む。
やめてくれ!目が潰れてしまう!キラキラを抑えてくれ!

「どちら様ですか?」

僕の友人や知人には、貴方の様にキラキラした人はおりません。
でも何か見たことがあるようなないような…?
キラキラした人は僕の言葉に驚いたよに目を見開き、こちらをジッと見つめる。
一連の過程を見ていた同じ入学生や上級生らしき人達も驚愕した顔を僕に向ける。

「本当にわからないのか…?」

僕は眉をハの字にして、首をかしげた。

「嘘だろ…俺をこんな身体にしておいて…」

えっ、何て物騒なお言葉を。
しかし全くちっとも記憶にないのですが…いい加減名乗って貰えませんかね?

「サラ、俺はリビアングラス公爵家のレシュノルティアだ。俺を忘れただなんて言わないでくれ」

悲痛な眼差しで僕の腕を掴んでいる指に力が込められる。痛い痛い。
リビアングラス…公爵家のレシュノルティア様……?
過去にそんな名前の人と交流したことあったかな…
昔王宮主催のお茶会で公爵家のご令嬢と遊んだ記憶はあるけれど。
確か今兄様が護衛をされているはず。

「レティ…」

確か名前はレティだったような。
小さくつぶやいて、おぼろげな記憶を辿っていると、キラキラした人がパァっと花開く様に笑顔になった。

「そうだ、レティだ!サラ、ずっとずっと逢いたかった」

キラキラした人は僕を強く抱きしめて叫ぶ。
ん?レティは令嬢でしょ?今僕を抱きしめているキラキラした人はどう見ても男だ。

「あの、誰かとお間違いではないでしょうか?僕は貴方とお会いした覚えがありません。僕の知り合いのレティは令嬢です」

「間違ってないよ。俺がレティだ。サラが勘違いしてただけだよ」

「!!」

嘘でしょ。僕の思い出のレティは花の妖精かってくらいに可愛くて、僕と目が合うたび頬を染めて俯いていた控え目な女の子だ。
会ったのは7歳くらいの時に一度だけだったけど、前世の記憶持ちの僕が子供とはいえ男女の区別も出来ないなんてことはない。
結論、やはり人違いだ。

「もしや僕に似た人物とお間違いでは?僕はパッとしない顔をしていますし」

「そんな訳あるか!この艷やかな黒い髪も、全てを見透かしているような黒い瞳。そしてどこの令嬢にも負けないもっちりとした白い肌に、朝露に濡れた花の蕾の様にピンクに染まる唇。あの頃とちっとも変わっていない」

「そう言われましても…」

とにかく、まず抱きしめるのやめてもらえませんかね。ギャラリーが大変なことになってますし、今から入学式なんですけど。

「とりあえず、離してください!」

レティ(仮)の逞しい胸を力一杯押すが、びくともしない。何これ。壁?

「嫌だ…もう1ミリも離れたくない…」

ため息混じりに囁いていないで、腕の力緩めてください。

「バカな事言わないで下さい。僕は貴方のことなど知りません。いくら公爵家の方でも、初対面の人間に抱きつくなど失礼です!」

僕はたとえキラキラした人でも、大男に抱きしめられる趣味はない。

「嫌だ!初対面でもない!」

くっそ…公爵令息でなければ殴ってやるところだが、リビアングラス公爵家はそもそも王兄殿下の家門。
下手に騒ぎ立てたら格下の我が伯爵家と兄様に咎が及ぶかもしれない。
どうしたものか…

「レシュノルティア様、そろそろお時間が…」

天の声が聞こえた気がする!
声の主の方を見ると、一見笑ってはいるが、目が全く笑っていない上級生らしき人が立っていた。

「入学式など我らが居なくてもどうにかなるだろ」

「どうにもなりません。彼をお離しください。さもなくば…」

レティ(仮)の身体がビクっと反応する。何されるんですか。怖いな。

「わかったよ…入学式が終わったら迎えに行くからな」

レティ(仮)はそっと僕の身体に巻き付いていた腕をはなした。

「結構です。説明会などもありますので」

酷く傷付いた顔をしないでください。

「皆さん、今見たことは他言しないように」

似非スマイルさんがざわついていたギャラリー達に言うと、その場が一気に静まり返った。
権力者なの?

「サラ…」

レティ(仮)は後ろ髪を引かれまくり状態で、似非スマイルさんに引きずられるように連行されていった。
マジ何なの。僕はレティ(仮)とは二度と会いませんようにと思いながら見送った。
モブの生活にキラキラは不要です。
でも本物のレティは今頃どうしているんだろうか。1歳年上だから、通常だとこの学園に入学しているはず。
過去に一度お茶会で会っただけのモブのことなんか忘れてるだろうな。
何故かそのお茶会以降、社交の場には出席させてもらえなくなったけど。
何かした記憶ないんだけどなぁ。ちょっとした事件はあった気がするけど、レティとも仲良くしてたはず。
帰り際、好きだから離れたくないと大粒の涙を零しながら訴えられた時にはレティが可愛すぎて、僕は思わず次会った時にまだ同じ気持ちなら、婚約しようねと言った気がする。懐かしい。
周りの大人たちは慌てふためいていたのは可笑しかったけど。
ちなみに僕は身の程も立場も弁えているので、そんな口約束はその場のノリで言っただけで、実現するとは思ってないし、恐れ多い。
だけど第2学年になっているレティはどれほど美しくなっているのだろうかと興味はある。
5年前と少しも変わらないモブが話し掛けたら嫌な顔とかしたりするかな?
…レティは美しい思い出として心の奥に封印しよう!
僕は現実的に釣り合う婿養子先を3年間で見つけないとと幼少期からの目標を再度心に刻んだ。

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