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第五話・私が思っていた夏休みとちがう

写真を欲する誠慈君

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 お父さんは誠慈君と話したそうだったけど、お母さんは「カップルの邪魔をしちゃダメよ」と、さっさと部屋に行くように勧めてくれた。誠慈君を連れて、私の部屋に移動すると

「いい人たちだね。萌乃のお父さんとお母さん」

 完全に婿として狙われているけど、いい人たちだと感じられたなら良かったな。年齢の割に落ち着きのない両親だけど、私は好きなので

「ありがとう。お父さんとお母さん好きだから、褒めてくれて嬉しい」

 それから誠慈君が買って来てくれたアイスを一緒に食べた。12個もあるから、てっきり自分の分も込みだと思っていたが、誠慈君は私に8個。両親に2個ずつの計算で買って来たそうだ。

 両親への挨拶のはずなのに、私への愛情の偏りがすごい。しかもてっきりスーパーの安いのかと思ったら、サーティサンのアイスだった。美味しいけど高いから滅多に買えないヤツ。

「12個もお金、大変だったでしょ?」

 心配する私に、誠慈君はニコニコと首を振って

「夏の間暇だし、バイトしているから大丈夫」

 暇だからバイトって発想がすごい。私は空いた時間は空きっぱなしにしておきたい。お小遣いじゃなくてバイト代で払ったなら、余計に大変だったろうと

「わっ、どうしたの? 急に?」

 ピトッと寄り添って彼の手に触れると、誠慈君の肩に頭を預けて

「いつもたくさん優しくしてくれて、ありがとう」
「いや、そんな。俺が勝手にしているだけだから」

 彼ははにかみながら言うと「でも萌乃が喜んでくれて嬉しい」と頬を染めて笑った。そんな誠慈君が愛しくて、ほっぺにキスする。彼は「わっ!?」と狼狽えて

「あの、萌乃。嬉しいけど、ご両親が居るのに、こういうことは……」
「今日はこれ以上のこと、しないから大丈夫」
「そ、そっか……」

 誠慈君、心なしか残念そうだ。本当はもっと過激なことをして欲しかったのかな? ただもし親に彼氏を襲っているところを見られたら、流石に辛すぎるので今日のところは遠慮した。

 それから誠慈君のリクエストで、私の子どもの頃の写真を見せた。私は写真が苦手なので、物心ついてからはほとんど撮らせてない。卒業アルバムとかは、小中と苦い思い出のほうが多いので、早々に捨ててしまった。

 ただ赤ちゃんから7、8歳までの写真は、お母さんがアルバムにしてくれてあるので、それを見せると

「うわぁ、可愛いね! 今も可愛いけど、子どもの頃もすごく可愛い!」

 両親以外には自分にさえ可愛いと思われない幼少期だが、誠慈君はデレデレだ。こんなに喜んでくれるならと

「欲しい写真、あったら持っていく?」

 ちょっと自惚れた申し出をすると

「えっ、いいの? でもご両親に悪くない?」

 滅多に見返さないから気付かないだろうと言うも

「でも、やっぱり勝手にもらうのは悪いから、スマホで撮らせてもらおうかな。……ちなみに写真って、何枚までいい?」
「別に何枚でもいいけど」

 スマホで撮るなら写真は減らないので、何枚もらわれても構わない。私の返事に誠慈君は「やった」と顔を輝かせると

「じゃあ、写真の選定にも撮影にも時間がかかるから、しばらくアルバムを貸してもらうね」

 と、この暑いのに喜々としてアルバム(全3冊)を持ち帰ることにした。この様子だと数枚、撮るだけじゃ済まなそうだ。思った以上に、ガチで私の写真を欲していて驚く。

 しかもそれは幼少期に限ったことでは無いようで

「あのさ。ついでと言ってはなんだけど、今の萌乃の写真も撮らせてもらっていい?」

 写真は苦手だけど、誠慈君が欲しがってくれるのは嬉しいのですぐに了承した。しかし頭では分かっていたことだけど、2人で並んで撮ると、顔面格差が顕著だ。両親がドッキリや異世界転生を疑っていたのも分かる。なんなら私もまだ病床で見ている夢説を疑っている。

 私は自分の写真を撮りたいと思ったことも無ければ、人の写真が欲しいと思ったことも無い。だけど誠慈君の写真は欲しいし、子どもの頃の彼も見たいと思った。普通の人にとっては当たり前の感情。でも前の私には無かった気持ち。誠慈君には及ばないけど、ちゃんと彼が好きなんだと分かって満足した。


 それから夕食の時間になった。食卓に招かれた誠慈君は

「このカレー、萌乃が作ってくれたの?」
「うん……だからそんなに美味しくないと思う。ゴメン」

 そんなに美味しくない以前に、本当にご飯とカレーだけで、サラダもデザートも無い。もてなさなきゃとか言って、カレーしか出さないって舐めているよね。今さらながら、もっとがんばるべきだったかと反省したけど

「そんなことないよ。萌乃が作ってくれただけで嬉しい。ありがとう」

 誠慈君は心から嬉しそうに笑ってくれた。久しぶりに「うっ、眩しい!」と浄化されそうになる私の横で、お母さんがニヨニヨと

「良かったわね~、萌乃。ただ作ってくれただけで嬉しいって。誠慈君はきっと、いい旦那さんになるわね」
「お母さん、プレッシャーかけちゃダメ」
「いや、俺は……プレッシャーじゃないから大丈夫……」

 恥ずかしそうにモゴモゴと言う誠慈君に

「誠慈君、うちは大丈夫だから。いつでも大歓迎だから」

 お父さんはハンターの目で彼の肩に手を置いた。私がこれ以上の好青年を連れて来ることは無いだろうと見越して、早めに片付けようとする姿勢がえぐ過ぎる。

 私にはろくな未来が無いけど、誠慈君には色んな可能性があるので、ここでゲームセットさせようとするのはやめてあげて欲しい。
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