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なに!?この豪邸

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それから少しして、郊外の大きなマンションが立ち並ぶエリアに入ると、その中でも一番デカいマンションの敷地に車は入って行った。

まさか、このデカい高そうなマンションに住んでんのか?
予想通りマンションの地下駐車場に車を停めると、堀越はエンジンを切って「ほら着いたぞ。降りろよ」と先に車を降りた。

「うわ・・・なにここ」

車から降りた俺は、広い駐車場にビビりながら、さっさと歩いて行く堀越の後を慌てて追った。

「なぁ、お前なんでこんなとこ住んでんの?お前んち金持ちなの?」

きょろきょろしながら聞くと、堀越は興味なさそうに「まあな」とだけ答えた。
暗証番号とか押さないと通れないゲートをいくつも通り過ぎてエレベーターに乗ると、そこもまたカードキーを使わないと動かないようになっていて、俺はいちいち驚いて声を上げた。

「ちょ、何この厳重なセキュリティ?政府の要人でも住んでんの?ミッションインポッシブルの世界じゃん、こんなん」
「お前、いちいち驚きすぎ。ウケる、マジで」

堀越に笑われたけど、それどころじゃなかった。
エレベーターのスピードも早くて、三半規管がおかしくなったくらいだ。

「うわ、耳ヘン」
「なに?耳詰まった?唾飲み込めよ」
「んっ・・・」

顔を顰めて言われたとおりにして、やっと元に戻る。

「ほら、もう着いたから」

そう言われて手を引っ張られエレベーターの扉の外に出ると、まるで高級ホテルだった。マンションの外廊下なのに室内だし、絨毯が敷き詰めてあって静かだし、そこらに付いてる照明もなんか高級な感じだし、広いし、そもそもこのフロア、他に部屋あんの?
あまりの別世界に茫然としてきょろきょろしていると、堀越がまた笑った。

「なんだよ、その顔。すんごい間抜け面」
「し、仕方ねーだろ!こんなとこ来んの、人生初なんだからさ!しっかし、なにこの部屋・・・他の部屋とどんだけ離れてんの?」
「あー、このフロア、俺の部屋しかないから。ペントハウスってやつ」
「マ、マジかよ!?」

ふかふかした絨毯を踏んで、まるでRPGに出て来る城の大広間の扉みたいな玄関を開けて、堀越が俺を振り返った。

「ほら、入って」
「お・・・お邪魔します・・・」

おっかなびっくり、扉の向こうへ足を進めた。
単なる廊下があんなに豪華だったんだから分かってたけど、室内も別世界だった。
まず玄関の床が大理石。いや、石の種類なんか知らねーけど、マーブル模様の石の床って言ったら、大体大理石だろ。
そんで、横にデカい鏡の付いた天井まであるシューズボックスが備え付けてあって、中に入った途端、勝手に電気が点いた。
何これ?ここだけで俺んちのアパートの部屋全部入るくらい広いし。

「はい、どうぞ」

また呆けていると、いつの間にか靴を脱いでいた堀越がこれまた高級そうな黒いスリッパを差し出してくれていた。
え?これ、俺なんかが履いていいの?
つか、家の中でスリッパなんか履く?俺んちなんて、実家でも狭すぎてスリッパなんか要らねーけど。
でもこいつんちなら要るんだよな。見ると玄関以外の床も全部、大理石っぽいし。

「ありがと・・・」

俺は遠慮しながらスリッパを受け取って大人しく履いた。
うわ、履き心地もめっちゃくちゃいい。

「飲み物淹れるから、自由にくつろいでなよ」
「うん・・・うわっ・・・なに、これ!?」

リビングらしき、べらぼうに広い空間に通されて、俺は思わずダッシュで窓に近寄った。カーテンも掛かってない、天井まであるデカい窓からは、俺の住んでいる街が一望出来たからだ。

「うわぁ・・・すっげぇ・・・何、これ・・・」

もう驚きのあまりそんな言葉しか出て来ない。
まるでどこかの展望台に来たみたいだ。

「そんなに気に入ったんなら、こっちのバルコニーからも見えるけど」
「えっ!見る見る!」

楽しそうな堀越に言われて、左の方のデカい窓を開けて貰ってバルコニーに出たら、バルコニーというかもう屋上だった。広いし、何か、寝そべるベンチみたいなのあるし、テーブルもあるし、本当何これ。

「うっわぁ・・・めちゃくちゃ綺麗・・・」

手すりに両手を掛けて目の前に広がる夜景を眺めていたら、すぐ隣に堀越も来て、いつの間に淹れたのか、湯気の立つカップを俺に手渡して来た。

「ハーブティ飲める?」
「あんま飲んだことないけど、たぶん大丈夫」

そう言って、あつあつのカップに口を近付けたら、嗅いだことないくらいいい匂いがした。一応、俺のバイト先の居酒屋にもティーバッグのハーブティあるけど、もう全然別物って感じ。

「何だよ、このフルーティでハーバルな薫り高い逸品は・・・」

ちょっとすすってみたら、味はあんまりよく分かんなかったけど、とにかく香りが良くて癒された。

「はぁ~~、なんか俺、どっかの高級ホテルに泊まりに来たみてー」

あまりの非日常体験に感極まって思わずそう言うと、堀越もハーブティを飲みながら笑っていた。

「お前の反応、マジでウケるわ。笑え過ぎて逆に礼言いたいくらい」
「な、なんだよー。しゃーないじゃん、俺なんて根っからの貧乏人なんだからさ」

俺はちょっとムッとしながらも、また夜景を見て溜息を付いた。

「しっかしお前、とんでもねー金持ちのお坊ちゃんだったんだな。なんだよ、人生無敵モードじゃん」

何気なくそう言ったんだけど、堀越は笑うのをやめて無表情に戻った。

「別に、無敵モードってこともないけど。金じゃどうにもならないことだって、いっぱいあるし」
「あ・・・」

その言葉に、また車の中の一幕を思い出す。
そっか、好きな人に振り向いてもらえなかったんだよな・・・確かに、こういうことは金じゃどうにもならねーよな。
悪いこと言っちゃったかな。

「あのさ、車の中でも言ったけど、ホントお前ならまたすぐいい人に出会えるよ。まあ性格ちょっと捻くれてるけど、それでも俺の話聞いて、協力するって言ってくれたもんな。俺、本当すごく嬉しかったんだ。今までこんな話出来るやついなかったし。だから、ありがとな」

ちょっと照れたけど、そう思ったことは本当だったから、俺は堀越を見て笑って言った。

堀越は何も言わずに俺をじっと見つめていたけど、手に持っていたカップを脇の丸いテーブルに置いて、俺から空のカップも受け取るとそこに一緒に置いた。

「じゃあ―――やるか。後ろでイケるようにする練習」
「え?あ、ああ・・・そうだな・・・」

急に何か空気が変わって、俺はドキっとした。

「風呂入ろう」

そう言って堀越は俺の手を引いて、室内に戻った。




♢♢♢
ちなみに璃央たちのいるこの街は東京ではなく、どっかの地方都市です。
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